取り扱い不可の箱
その箱が届いたのは、
業務開始のベルが鳴る、ほんの少し前だった。
「……ぺん?」
最初に気づいたのは、ようぺんだった。
床に置かれたそれは、
箱、と呼んでいいのかわからない形をしていた。
四角のはずの角は、ゆらりと歪み、
大きさは一定せず、
見るたびに、少しずつ変わっている。
大きくなったり、
小さく縮んだり。
まるで、呼吸しているみたいに。
「局長……」
ときぺんが、時間表を見つめたまま言う。
「到着時刻が、記録できないぺん」
やくぺんは、慎重に距離を取る。
「気持ちが……混ざってるぺん。ひとつじゃない」
局内の空気が、少しだけざわついた。
箱から、
言葉にならない“気配”が漏れている。
怒り。
不安。
後悔。
期待。
それらが、ほどけずに絡まって、
箱の中で揺れている。
こころんは、箱の前に立った。
(これは……)
ココポスの規定が、頭をよぎる。
《取り扱い不可:
気持ちの持ち主が不明
または
気持ちが定まっていないもの》
この箱は、
どちらにも当てはまりかけていた。
「……保留便に回すべきだぺん」
やくぺんの声は、いつになく低い。
「時間指定が、無限に変わってるぺん」
ときぺんの羽が、わずかに震える。
「このままだと、局内に影響が出るぺん」
ようぺんは、箱から目を離さない。
箱は、さらに大きくなった。
局内の壁に、
コツン、と当たる。
その瞬間、
こころんの胸が、きゅっと締めつけられた。
(……似てる)
以前、止めてしまった箱。
判断を誤りかけた、あの感覚。
(でも、今回は……)
こころんは、深く息を吸った。
「……この箱、開けられる?」
従業ぺんたちが、はっとする。
「規定違反だぺん!」
「でも……」
「危険ぺん!」
それでも、こころんは首を振らなかった。
「中身を知る前に、
“扱えない”って決めるのは……違う気がする」
こころんは、そっと箱に触れた。
その瞬間。
箱が、急に小さくなった。
次の瞬間、
今度は机ほどの大きさに膨らむ。
局内の時計が、
一斉に狂った。
書類が、ふわりと浮く。
「局長!」
三匹が声を揃える。
「大丈夫」
こころんは、目を閉じた。
(この箱の気持ちは……)
聞こえてきたのは、
はっきりした言葉じゃなかった。
ただ、ひとつだけ、確かなもの。
「どうしたらいいかわからない」
それだけ。
こころんは、箱に向かって静かに言った。
「……そっか」
「決められないまま、
ここまで来ちゃったんだね」
箱の揺れが、
ほんの少し、弱まる。
こころんは判断した。
「これは、取り扱い不可じゃない」
「“決める前の気持ち”として、扱う」
三匹は、驚きながらも、うなずいた。
ときぺんが時間をゆっくり固定し、
やくぺんが役割を分け、
ようぺんが箱を落ち着かせる。
三角形の連携が、静かに動き出す。
箱は、
ようやく“ひとつの大きさ”になった。
小さくもなく、
大きすぎもしない。
その日の業務記録に、
こころんは新しい一文を書き足した。
《取り扱い不可寸前の箱:
気持ちが定まらないままでも、
運ばれるべき心がある》
夜。
局内は、何事もなかったように静かだ。
けれど、こころんは知っている。
今日、
ココポスは
**「心の途中」**を初めて運んだ。
さて。
次に届くのは、
もう少し形のはっきりした箱だろうか。
それとも――
また、迷いながら来る心だろうか。
こころんは、扉の灯りを消しながら、
そっとつぶやいた。
「……どんな箱でも、
まずは話を聞こう」




