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こころんと止めてしまった箱

その箱は、朝いちばんに届いた。


大きくはない。

けれど、箱の角がわずかに震えている。

中で、気持ちが何度も立ち上がろうとしている証だった。


「……これは」


こころんは箱を両手で持ち上げ、少しだけ目を細めた。



箱に浮かぶ文字は

《こわいけれど、伝えたい》



珍しく、送り主の心拍が強く残っている箱だった。




仕分け台の前で、三つ子のリーダーぺんたちが集まる。


ときぺんは時計を見て首をかしげた。

「時間指定はなし。だけど、今すぐ出したい気持ちは強いぺん」


やくぺんは書類をめくりながら言う。

「危険度は中。受け取り側が傷つく可能性あり、だぺん」


ようぺんは箱を覗き込み、少し声を落とした。

「でも…これ、勇気の箱だぺん」


その言葉に、こころんの胸が、わずかにきゅっと縮んだ。




勇気。



その言葉が、

こころん自身の、ずっと奥にしまっていた記憶を呼び起こす。


――伝えられなかった、あの時の気持ち。

――守られて、でも言葉にできなかった思い。


(同じ思いは、させたくない……)


気づかないうちに、

こころんの判断は、局長としてではなく、ひとりの“こころん”として傾いていた。


「……この箱は、保留にします」


その一言で、局内の空気が止まった。


「えっ?」と、ようぺん。

「局長?」と、やくぺん。


こころんは静かに続ける。


「今、届けると…受け取る側が傷つくかもしれない。

 この気持ちは、もう少し落ち着いてからの方がいい」


箱は、ぴたりと震えを止めた。


まるで、言葉を失ったみたいに。





数日後。


保留棚の奥で、その箱は静かに色を変えていた。


白だった箱は、

いつのまにか、少しだけ薄くなっている。


「……え?」


ようぺんが気づいて、こころんを呼んだ。


調査を進めるうちに、わかったことがある。


この箱の送り主は、

「今しか言えない」と分かっていて、覚悟を決めていた。


傷つく可能性も、拒まれる未来も、

全部わかったうえで――

それでも、気持ちを運んでほしかったのだ。


こころんは、その場に立ち尽くした。


(わたしが、止めた……)


守ったつもりだった。

優しさだと思っていた。


でもそれは、

誰かの勇気を、勝手に預かってしまった判断だった。


さらに胸に刺さったのは、もうひとつの事実。


(わたし、自分の気持ちを重ねてた)


自分が傷ついた過去。

自分が言えなかった言葉。


それを、

この箱に映してしまっていた。


その夜、局内が静まり返ったあと。


こころんは保留棚の前で、箱にそっと声をかけた。


「……ごめんなさい」


箱は返事をしない。

ただ、ほんの少しだけ、光を取り戻していた。




翌朝。


こころんは決断する。


「この箱、再判定します」


三つ子のぺんたちは何も言わず、うなずいた。



今度は、

守るためでも、急ぐためでもなく、

“その気持ちが望んだ通りに”運ぶために。



箱は、再び小さく震え始めた。


それは、遅れてきたけれど、

確かにまだ生きている気持ちだった。



さて。

この箱は、無事に届くだろうか。


そして、こころんは――

次に同じ箱が来たとき、

どんな判断をするのだろう。


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