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なまえのない箱

わたしは、ぺんぎんのこころん。

心を運ぶ郵便局「ココポス」の局長だ。


その日の朝も、ココポスはいつも通りに始まった。

窓から差し込むやわらかい光、床に並ぶ小さな足あと。


「おはようございます、局長!」

「おはよう、みんな」


ぺんぺん体操をして、深呼吸をして、

今日も心の箱を迎える準備はばっちり。


……の、はずだった。


最初に届いた箱を見た瞬間、

従業ぺんの動きが、ぴたりと止まった。


「……局長」

「どうしたの?」


そこにあったのは、

宛名も、課の印も、色分けもされていない箱。


真っ白なラベル。

でも、空っぽではない。


箱は、ちゃんと重さを持っていた。


「時間宛てじゃないね」

「役割でも、状態でもない……」

「速達でも、保留でもないです」


ぺんたちが小さく首をかしげる中、

こころんはそっと箱に手を添えた。


……ずしり。


さっきより、重い。


「……あれ?」


箱は、触れるたびに

少しずつ、大きさを変えていた。


「これは……“なまえのない箱”だね」


その言葉を出した瞬間、

局内の空気が、少しだけ静かになる。


なまえのない箱。

それは、たまにしか届かない。


送った人も、

まだその気持ちを

どう呼べばいいのかわからない心。


「どうしますか、局長」

「課に回します?」


こころんは、少しだけ迷った。


分類すれば、

処理はできる。

流れに乗せれば、発送もできる。



でも——



箱は、

どの方向にも進もうとしなかった。


「……今回は、局長預かりにします」


こころんはそう言って、

箱を“熟成棚”のいちばん下に置いた。


「え、発送しないんですか?」

「うん。今日はしない」


箱は、置いた瞬間、

すっと軽くなった。




午後。

業務の合間に、こころんはまた箱を見に行った。


さっきより、少し小さい。

でも、まだ中には何かがある。


きっとこの箱は、

送る準備をしている途中なんだ。


言葉になる前の、

決めきれない気持ち。


一日の終わり。

押印を終えて、照明を落とす前に、

こころんは箱に向かって小さく言った。


「大丈夫だよ。

 急がなくていいからね」


箱は、答えるみたいに、

かすかに、ぬくもりを残した。


こうして今日も、

ココポスは無事に一日を終えた。


すべての心が、

すぐに運ばれるわけじゃない。


でも、それでいい日もある。



さて——

明日は、どんな箱が届くだろう?


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