その箱が戻ってきた日
次の日の朝。
ココポスの扉が開く前から、
局内の空気は、少しだけ違っていた。
「……ぺん?」
こころんが足を止める。
仕分け台の端に、
見覚えのある箱が置かれていた。
大きさは、あの日と同じ。
色も、形も、変わらない。
でも――
角に、小さな紙が貼られている。
「返送……?」
ときぺんが、時間印を確認する。
「配達完了から、七日後ぺん」
「期限通り……でも、返ってくるのは珍しいぺん」
ようぺんが箱の周りをくるりと回る。
箱は、騒がない。
膨らみもしない。
逃げ出しもしない。
ただ、
少しだけ軽くなっていた。
「……開けていいかな」
こころんは、そう言ってから、
ちゃんと深呼吸をした。
ぺんぺん体操のあとでも、
大事な箱の前では、いつもこうする。
「ぺん」
ふたを、そっと開ける。
中には――
やっぱり、何もなかった。
でも今度は、
空っぽじゃなかった。
箱の底に、
あたたかい余韻みたいなものが残っている。
触れると、
すっと、胸に流れ込んでくる。
「……進みはじめた、って感じぺん」
やくぺんが、小さく言った。
「決断じゃなくて、行動ぺん」
「大きな答えじゃなくて、
小さな一歩ぺん」
こころんは、箱を見つめたまま、
少しだけ困った顔をした。
「……でも」
「これ、まだ途中だよね」
従業ぺんたちが、うなずく。
そのとき。
箱が、
ほんの一瞬だけ、震えた。
「ぺん?」
次の瞬間、
箱の内側から、
小さな光がふわっと浮かび上がる。
言葉にならない。
形もない。
でも、
局内のみんなが、同時に思った。
――これは、
「まだ続く」って気持ちだ。
「保留便……?」
ときぺんが、静かに確認する。
「でも、拒否じゃないぺん」
「放棄でもないぺん」
やくぺんが、三角の印を描く。
「これは……
“途中保存”ぺん」
こころんは、
箱を抱きしめた。
「……よかった」
「無理に決めなくて」
「無理に終わらせなくて」
その箱は、
新しく作られた棚に置かれた。
ラベルには、こう書かれている。
《保留便:続行中》
急がなくていい。
でも、忘れない。
そんな箱たちの場所。
業務終了後。
こころんは日誌に、
また一行、書き足した。
《追記:
心は、届いたあとも、育つことがある》
外では、
夕焼けがゆっくり沈んでいく。
ココポスの明かりは、
まだ消えない。
なぜなら――
誰かの心は、
今この瞬間も、
どこかで、動いているから。
さて。
次に届くのは、
「決めきれない気持ち」だろうか。
それとも――
間違って送られそうになった、
まだ名前のない箱だろうか。
こころんは、
小さく笑った。
「大丈夫」
「ここは、心の途中駅だから」




