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7. こんびにえんす。

昼下がりの東京都日野市。

その街中にて、絶賛営業中のコンビニエンスストア『ベリーマート」。

辺り一帯に住む住民や近くの駅を利用する学生、サラリーマンなどに親しまれる、24時間営業の非常に便利なお店です。


ピロピロ、ピローン。


「いらっしゃいませー」


軽快な入店音とともに、赤紫色の制服に身を包んだ若い男性店員さんの爽やかな声が響きました。


入り口の自動ドアが開き、店員さんとは反対に覇気のない足取りで入店してくる女性がいます。

女性の名前は、日間賀ひまわりさん。


彼女はこの近所に住む変わり者のお姉さんで、なんと今だに一人ではスーパーへ買い物に行くこともできません。なんでも”広すぎて迷子になる”とのことで、お母様と一緒でないとお豆腐すら買えないのです。

なので、こうしてスーパーよりもコンパクトなコンビニを利用するのが精一杯というわけです。


「えーと…カップヌーボーはどこだ?」


雑多な商品が並ぶ棚をキョロキョロしながら、お目当てのカップ麺を探すひまわりさん。


つい先日、偏った食生活のせいで鼻血が出てしまって、お医者さんから注意を受けたばかりなのに完全に忘れてしまったようです。あるいは、ただ無視を決め込んでいるのでしょうか。

いづれにせよ。自堕落人間ここに極まれり、です。


「あ、あった。これこれ」


カップ麺が置かれた陳列棚を発見し、ひまわりさんが手に取ったのは大人気シリーズの『カップヌーボー』です。味はプレーン(しょうゆテイスト)。


さて。すでにご所望の品は手に入れたわけですが。


”コンビニ”とはその名の通りconvenience、まさに手軽で利便性の高いお店。その反面、ついつい余計なものを買ってしまいがちです。

それはすなわち……


「あれ?このポテチ見たことない。…魅惑のチキン味か。買っとこ」


そうです。

コンビニの店内にはこれでもかというくらい”誘惑”が点在し、人はついつい買う予定ではなかった品をカゴに入れてしまうのです。

特にひまわりさんのように意志が脆弱だと、もはや全てが悪魔の囁きと化します。当然、抗う術など持ち合わせていません。


「三ツ葉サイダー、パッションフルーツ味…何コレ美味しそう」「バキバキくんのソーダ…これはもう外せないよね」「ベリーマート×魔法少女グレア(※)限定コラボ商品・星野ひかりの闇シュークリーム…ふふっ分かってんじゃぁん!ベリマ大好き」


と、このような調子でひまわりさんは次から次へと商品を取っていき、レジに向かう頃には買い物カゴの底が見えなくなっていました。


しかも、買ったのはどれも嗜好品の類ばかり。本来、こういうものはデザートや間食として楽しむべきものであって、彼女のようにそれ自体をメインディッシュに据えていては不健康になるばかりです。

まったく懲りない人ですね。


「ありがとうございます。お会計でよろしいですか」


ひまわりさんからカゴを受け取った店員さんが溌剌とした声で訊きます。


しかし。

ひまわりさんはしばし辺りを見渡し、「あ!」と短く声を上げました。

その視線の先を見てみると、そこにはヒートランプに照らされたショーケースが。中に並ぶのは、あっつあつ&絶品の”ホットスナック”たちです。

フランクフルト、ポテト、からあげ、コロッケetc…。黄金色の油を纏って輝くその姿たるや、もはや抗い難い魅力があります。


「すみません。この唐揚げ、1パックください」


「かしこまりましたー」


ショーケースを指差して言ったひまわりさんに応え、店員さんがショーケースを開けて唐揚げの入った紙パックを取り出しました。


途端、辺りに広がるジューシーな鶏肉の香りと、立ち上るホカホカの湯気。

食欲を大いに刺激するこの光景に、ひまわりさんはじゅるりと唾を飲み込みました。もはや理性が吹っ飛んでしまったかのような表情です。


「つ、追加で頼んでもいいですか…えっと…」


なんと。

からあげをキッカケにタガが外れてしまったようで、ひまわりさんは欲望の赴くままホットスナックを続々とオーダーしていきます。


「唐揚げをもう1パックと、ポテトを一つ。あとコロッケも一つ…いえ、やっぱり二つ。あとは…」


もういいですって、ひまわりさん。食べ過ぎです。

彼女は柔道部か何かですか?このあと過酷な稽古が控えているんですか?そのための体づくりのつもりですか?

いえ、違います。ただの暴食ニートです。


「──以上でよろしいでしょうか」


「はい」


「ありがとうございます。お会計、5055円になります」


高っっっいですね…。

なぜ276円のカップ麺を買いに来たのに、最終的なお会計が五千円超えになっているのでしょう。


そもそもこの五千円は誰のものか分かっているんでしょうか。

ただの暴食ニートがそんな大金を所持しているはずがなく、彼女のお財布に入っているのは全てご両親の汗と涙の結晶なのです。

それをいとも簡単に使い込み、カップ麺やスイーツ、さらにホットスナックを食い漁る。結果、栄養不足に陥り病院へ。この繰り返し。


まったく何たる自堕落ループでしょう。親不孝ったらありません。


「お箸は何膳おつけいたしますか?」


お手本のような接客スマイルを浮かべた店員さんが、商品でいっぱいのカゴを見遣りながらひまわりさんに尋ねました。

きっと心の中では「なんだコイツ。真昼間からだらしない格好で来やがって。ふざけんな糞ニート働け」と思われていることでしょう。


そんな店員さんの胸の内はつゆ知らず、ひまわりさんは答えます。


「一膳で」


「え、一膳?あ…」


店員さんとひまわりさん。

レジカウンター越しに向かい合った二人の間に、微妙に気まずい空気が流れます。


一体どうしたのでしょう。


どうやら、店員さんは「そんな馬鹿な。この量を一人で食う気か!?働かないでゴロゴロしてるだけのコイツが?何かの間違いだろ」と驚き、開いた口が塞がらなくなってしまった模様です。

カップ麺やらカップ焼きそば、ポテチにシュークリーム。果てにはホットスナックの袋がどっさり。

普通なら二、三人前、いえ──五、六人前と捉えられても不思議ではありません。


と、ここで。

ようやく店員さんの沈黙の理由を察したのか、ひまわりさんはカーっと顔を赤らめました。脳天からいまにも湯気が上りそうです。

日頃は家に引きこもってばかりいる彼女ですが、人並みに羞恥心は持ち合わせているようです。


「え、えっと。やっぱり、三膳お願いします…」


俯きがちにそう言ったひまわりさんは、一度も店員さんと視線を合わせることなくレジ袋を受け取りました。

どうやら相当恥ずかしかったようです。


「危ない、危ない…。お母さんとお父さんの分、もらい忘れるところだった…」


なぜか辺りに聞かせるような音量で独りごちながら、そそくさと出口に向かっていくひまわりさん。


その丸っこい背中に、店員さんの爽やかな声が響きます。


「ありがとうございましたー」


※『魔法少女グレア』...ひまわりさんが大ファンな魔法少女アニメ。主人公・朝日ひなたが闇堕ちした親友の星野ひかりを救うべく奮闘する物語です。元々は女児向けに制作されたにも関わらず、いつの間にやら大きなお友達に大ウケしてしまった稀有なアニメでもあります。

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