優しく溶ける
柳は答えをわかっていたかのように顔色一つ変えずに頷く。
「それでいい。許してもらおうとは根っから思っていない。ただ事実を言っておきたかっただけなんだ。」
四季の心は複雑に葛藤している。許す許さないの問題ではない。なぜただ見ていることしか出来なかったのか。父は身代わりになってまで署長を守ろうとした。なのに署長はそんな父を見殺しにしたのだ。
「……そうですか。失礼します。」
そう無愛想に言い放ち乱暴にドアを閉めると署長室に背を向ける。
堪えていた涙が頬を伝って冷たい地面に落ちていくがその涙はなんの涙なのか本人にもわからない。
虚無に包まれた空間をただ無言で歩き続ける。
そんな四季を見かねた深月は署長室にズカズカと入り、ドサッと椅子に座りながらじっと柳を見つめる。そんな視線を受け取りながら絞り出すようにポツリとつぶやく。
「…私はどうしたら良かったのだろうか…このまま事実を伝えるべきではなかったのか…」
柳の悲しげな声がため息とともに消える中、四季は食堂にいた創とバッタリ会う。
「四季、ここの飯、めちゃくちゃ美味しいぞ。お前も食えよ。」
無邪気な笑顔を向ける創を見てもただ無表情で隣に座る。差し出された唐揚げを見ても食べようとしない。創は首を傾げながら不思議そうに四季の目を覗く。
「どした?なんかあったのか?」
「……別に。」
「なんだよ、何も無いならそんな陰気臭い顔すんなよ。それ言うやつって絶対なんかあったやつだぞ。もしかして怒られたとか?」
四季はしばらく考え込んでいたが結局、創に全てを話す。創は時々相槌を打ちながら静かに聞いていた。
「それってさ、誰も悪くねぇと思うぞ。俺はお前じゃないからお前の気持ちをわかりたくても完璧にはわからない。お前もそのときの署長の気持ちはわかんねぇだろ?誰も他人の気持ちなんて知ることはできない。それに署長だって見捨てたくて見捨てたわけじゃないだろ。お前もわかってるはずだ。」
「……うん、わかってる。でも……」
「責めても何も変わらないぞ。お前も署長も悪くないんだから。まあ、責めて気持ちがスッキリするなら署長を恨むなり、この街を憎むなりすればいいと俺は思うけど。それで解決できるならな。」
四季は今にも泣きそうな顔で俯いている。
創の言っていることは正しいのか、柳を恨んでいる自分が間違っているのか。答えのない答えを必死で探している。"なにか"の答えにすがりつかないと耐えれそうにないからだ。
「あーもう!とりあえず食え!そんな顔してたらうまい飯も逃げちまうぞ。」
四季の口に唐揚げを無理やり押し込み咀嚼させる。
サクサクの衣、柔らかいお肉、それにマッチしたタレ。自然と笑顔が溢れ出す。創は安心したように残りの唐揚げを渡す。
「そうだ、その顔がお前には似合ってる。ほら、こっちのサラダも食べろよ。なんてったって署長の金だからな。もっと食おうぜ。」
二人は仲睦まじく食を囲む。
いつの間にか四季の心は柳に対する憎しみは軽く薄れ、優しく溶けていく気がした。
それも創のおかげだろう。仲間とは偉大なものだ。




