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異世界人間師  作者: 白黒 シろ
3章.傷だらけの世界で、歩き出す
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093.依頼書

「よし。じゃあ次は、具体的にどう動くかだな」

 ヴァンがそう切り出す。

「ムイは冒険者登録を済ませるとして……」

 視線を向けられ、ムイは無言で一つ頷いた。


 それを確認すると、ヴァンは冒険者組合から持ち帰った依頼書の束を机に広げる。

 紙の擦れる音が、これからの段取りを告げる合図のように響いた。


「これから俺たちは、ナウガウ交易市に向かう」

 指先で依頼書を軽く整えながら、ヴァンは淡々と続ける。

「目的は大きく三つだ。

 一つ目。ミハネが、そこで手に入れたい物があるらしい」

 ちらりと俺を見る。

「二つ目。今後の探求の旅に向けた肩慣らし。

 新しい面子もいるし、連携の確認は早いほうがいい」

 フェルシオンとムイが小さく頷く。

「三つ目。ナウガウ交易市近郊の迷宮に潜る。

 今後は、そういう探索も増えてくるだろうし、迷宮なら無理なく実戦経験を積めるし、鍛錬にもなる。

 異物や質のいい魔石が手に入れば、それはそれで儲けものだ」


 三つの目的を並べ終えると、ヴァンは一度言葉を切った。

「で、だ」

 机を軽く叩く。

「単なる移動でもいいが、それじゃ金にも経験にもならねえ。だから、依頼を拾いながら行く」

 依頼書を数枚、前に滑らせる。

「護衛依頼、街道巡回、商人同行。

 片道のみ、往復、区間限定――条件は様々だ。

 どれを選ぶかで、危険度も自由度も変わる。

 依頼を“選ぶ”のも、冒険者の腕のうちだからな」


 そう言って、ヴァンは俺たち三人を順に見渡した。

「せっかくだ。今回は俺が決める前に、全員の意見を聞く」

 口の端をわずかに上げる。

「どの依頼がいいか。理由も含めて、考えてみろ」

 そう言って、ヴァンは机の上に依頼書を五枚、扇状に並べた。


 ――《依頼一:魔道具搬送・片道護衛》

 依頼種別:特殊物資輸送護衛(片道)

 依頼元 :王都・魔道具工房インスリウム

 行程  :王都発 → ナウガウ交易市

 所要日数:六~八日(天候・街道状況により変動)

 輸送物 :魔道具一式(木箱三点)

 ※内容は依頼主都合により非公開

 ※衝撃・過剰な魔力干渉・無断開封厳禁

 輸送手段:幌付き馬車一台

 人員構成:

 ・工房関係者一名

 ・商会係者一名

 ・御者一名

 当該魔道具は王都にて受注製作された高価品であり、ナウガウ交易市の有力商会への納品物である。

 市場価値は金貨数枚相当と見積もられており、盗難・破損・紛失はいずれも重大な損失となる。

 街道は概ね整備されているが、 最近、交易路を狙った盗賊および魔物の目撃情報あり。

 特に積荷が魔道具であることが露見した場合、 標的とされる可能性が高い。

 護衛条件:

 ・馬車および積荷の完全保全

 ・同行者の生命保護

 ・不要な戦闘の回避(優先)

 ・万一の際は積荷の確保を最優先とすること

 推奨人数:四~五名

 推奨等級:狼紋以上

 報酬  :

 ・銀貨十二枚(到着後即金)

 ・加えて、無事故完遂時に銀貨三枚の追加支給

 備考  :

 ・積荷の性質上、夜間移動は極力避けること

 ・依頼中に積荷内容を詮索しないこと

 ・到着後、簡易宿泊および食事の手配あり

 ――――――――――

 《依頼主からの一言》

 「急ぎの品ではありません。

 ただし、壊れれば作り直しは利きません。

 無事にナウガウへ届けていただければ、それで結構です」


 ――《依頼二:鉱石商人・往復護衛》

 依頼種別:交易護衛(往復)

 依頼元 :王都鉱石商ギルド所属・個人商

 行程  :王都 → 南部採掘地 → ナウガウ交易市 → 王都

 所要日数:二十日(天候・採掘状況により延長の可能性あり)

 人員構成:商人一名、護衛兼作業補助二名

 輸送物 :精錬前鉱石、希少鉱を含む可能性あり

 輸送手段:山道対応馬車一台

 山道および旧坑道付近を通過するため、魔物・落石・盗掘者の遭遇可能性あり。

 特に夜間は視界不良。野営対応必須。

 護衛条件:

 ・商人および積荷の往復安全確保

 ・採掘地周辺での簡易警戒

 ・戦闘発生時の撤退判断は護衛側に一任

 推奨人数:三~五名

 推奨等級:狼紋以上

 ※長期拘束のため、日程調整必須

 報酬  :銀貨十八枚(往復完了後一括支給)

 備考  :採掘補助を行った場合、追加報酬の可能性あり

 ――――――――――

 《依頼主からの一言》

 多少荒れても構わん。

 だが荷を失えば、それで終わりだ。

 腕に自信のある者だけ来てくれ


 ――《依頼三:街道巡回・臨時》

 依頼種別:治安維持・巡回任務

 依頼元 :王都治安部・冒険者組合連名

 行程  :王都―ナウガウ街道・要所三か所

 所要日数:三~五日

 任務内容:

 ・指定地点の巡回および魔物・不審者の排除

 ・縄張り移動中の魔物の種類・数の報告

 最近、複数種の魔物が街道付近へ流入。

 戦闘発生率は高いが、地形把握済み区域が多い。

 推奨人数:二~四名

 推奨等級:狼紋以上

 ※討伐数に応じた追加報酬あり

 報酬  :銀貨八枚

 備考  :巡回地点間の移動は自由裁量

 ――――――――――

 《依頼主からの一言》

 住民の不安を取り除いてほしい。

 討伐より“居ない”と分からせることが重要だ


 ――《依頼四:隊商護衛・混載便》

 依頼種別:大規模交易護衛

 依頼元 :王都商業連合

 行程  :王都 → ナウガウ交易市

 所要日数:十二日

 隊商規模:

 商人数名、護衛冒険者十名以上

 馬車五台以上

 大規模ゆえ盗賊は寄り付きにくいが、

 一度問題が起きた場合の混乱は大きい。

 護衛条件:

 ・統率責任者の指示に従うこと

 ・独断行動禁止

 推奨等級:兎紋以上

 報酬  :銀貨十四枚(安定)

 ――――――――――

 《依頼主からの一言》

 規律を守れる者を求む


 ――《依頼五:巡礼者同行・片道》

 依頼種別:同行護衛

 依頼元 :光の女神教会・地方聖堂

 行程  :王都 → 小聖堂(街道外れ)

 所要日数:五日

 同行者 :巡礼者十数名(非戦闘員)

 戦闘は極力回避。

 説得・撤退を優先。

 護衛条件:

 ・巡礼者の安全確保

 ・信仰行為への干渉禁止

 推奨等級:狼紋以上

 報酬  :銀貨五枚

 備考  :食糧・寝床の提供あり

 ――――――――――

 《依頼主からの一言》

 神の御名に恥じぬ振る舞いを行えるものを求めています


 五枚の依頼書を卓に並べ、しばし沈黙が落ちる。

 紙の擦れる音だけが、わずかに響いた。


「まずは……一番無難なのは一だな」

 最初に口を開いたのは俺だった。

「日程が短い。ナウガウ交易市まで直行の片道護衛だ。

 向こうに着いたあと迷宮に潜る予定を考えても、融通が利く」

「そうだな」

 フェルシオンが頷く。

「魔道具の搬送という点は多少気になるが、条件自体は堅実だ。

 積荷も限定されているし、責任範囲も明確だ」


 ムイは一度、卓に並ぶ依頼書全体を見渡した。

 その視線が一巡してから、別の一枚にそっと指を置く。

「……念のため申し上げますと」

 前置きしてから、静かに続ける。

「《街道巡回・臨時》も、目的から外れているわけではありません」

 示されたのは、三の依頼だった。

「戦闘が発生する可能性が高いため、早い段階で実戦に近い形での連携を確認できる。

 その点は、明確な利点だと考えられます」

「なるほどな」

 俺は顎に手を当てる。

「一だと、盗賊でも出ない限り戦闘は起きにくい。三なら巡回が主だから、行動の自由度も高い。

 鍛錬目的として見れば、確かに悪くはないな」

「ただし、あくまで選択肢の一つとして、です。現時点で最適だと断定するものではありません」

「では、消去法で整理していこう」

 フェルシオンが、別の依頼書に指を移す。

「まず二だが……往復護衛に加えて採掘地を経由する。

 拘束期間が長く、初回の同行としては負担が大きすぎる気がする」

「はい」

 ムイが即座に頷く。

「俺たちの目的はさっきヴァンが話して三つだ。最初から戻り前提の依頼は、合わないな」

 三人の意見が揃い、二は自然と外れた。

「次は四だな」

 フェルシオンが《隊商護衛・混載便》を指す。

「規模が大きく、護衛人数も多い。指示に従っていれば比較的安全だが……」

 俺はちらりとヴァンを見て呟く。

「……正直、何も起きなさそうだな」

「おう」

 ヴァンは肩をすくめる。

「それに俺がいると、十中八九まとめ役を押し付けられる。安全だが、面倒でつまらねえ」

「では、これも却下ですね」

 ムイが淡々と告げる。


 卓の上に残ったのは――一、三、そして五。

「で……最後が五だけど」

 俺は依頼書を指先で軽く叩きながら、ふと浮かんだ疑問を口にした。

「地方聖堂って、実際どんな場所に点在してるんだ?」

 フェルシオンが少し考えるように視線を上げ、それから答える。

「場所次第ではある。

 街の中にあるところもあれば、山の上や人里離れた場所に建っていることもある。

 巡礼でどこを回るかは、その時々で違うらしいが……」

 依頼書に視線を落とし、続ける。

「今回の依頼だと所要五日。日程だけ見れば、極端に無茶な行程ではない。だが――」

 そこで言葉を切り、俺たちを見る。

「寄る場所次第で、安全度・自由度は一気に振れる。護衛が“戦闘を避ける前提”なのも、今の私たちには合わないだろう」

「……だよな」

 俺は小さく頷く。

「無意味な戦闘を避けるのは悪くないけど、何が起きるかわからない状況で、手を縛られるのはちょっとな」

「では」

 ムイが静かにまとめる。

「候補は、最初に挙がった一か三、ということになりますね」

 全員の視線が、残る二枚の依頼書へと向かった。


 二枚の依頼書を前に、しばし視線が行き交う。

「……三ではないか?」

 先に言ったのはフェルシオンだった。

「巡回は戦闘前提だ。連携を確かめるなら、これ以上分かりやすい依頼はない」

「ですが、それは“今”である必要はないと思います」

 ムイが静かに言葉を返す。

「巡回は自由度が高い分、不確定要素が多いです。

 魔物の縄張り移動は、想定より危険度が跳ね上がると聞いたこともあります」

「だからこそだ」

 フェルシオンは依頼三を指で叩く。

「危険があるからこそ、早めに知っておくべきだ。私とミハネ、ムイ――ヴァンの力を借りずに三人でどこまで対応できるのかを」

「初動でそれを試す必要はないと思います」

 ムイは語調を崩さずに続ける。

「今回は“移動”と“到達”が目的です。魔道具搬送の依頼なら、確実にナウガウ交易市へ辿り着けます」

「確実すぎるのではないか?」

 フェルシオンは小さく息を吐く。

「盗賊が出るかどうかも分からない。何も起きなければ、ただの移動で終わる」

「何も起きないこと自体が、立派な成果です」

 ムイはまっすぐに言う。

「無事に運ぶ。それが護衛の本分です」

「分かってはいるが、私たちはただの護衛ではない。この先、迷宮にも潜る。もっと危険な場所にも行く」

「だからこそです」

 ムイは一歩も引かない。

「まず“無事に辿り着く”経験を積むべきです。連携は、迷宮で否応なく試されます」


 俺は二人の顔を見比べ、思わず口を挟む。

「……なあ」

 二人の視線がこちらに向く。

「どっちも言ってることは正しいと思う」

 フェルシオンを見る。

「ただ、フェルシオンは少し逸ってる気がするな」

 フェルシオンを見ながら言う。

「逸ってる、か」

「順番の話だ」

 続ける。

「三は確かにいい。連携確認にもなる。でも今は、ナウガウに行くこと自体が目的でもあるだろ」

 ムイが小さく頷く。

「一を選んだからって、戦闘を避け続けるわけじゃない。

 到着後に迷宮に潜る。そこで嫌でも、三以上の状況になる。

 初めての依頼だ。無理する必要はない。

 フェルシオンも前に言ってただろ。無茶と無謀は違うって。

 まあ……ヴァンがいるから三でも問題ないとは思うけどな」


 フェルシオンはしばらく考え込み、やがて小さく笑った。

「……確かに」

 肩の力が抜ける。

「冒険者になったのだから、何か“成果”を出さなくてはと思ってたのかもしれない」

 そう言って、ムイを見る。

「意見を言ってくれて、ありがとう」

「いえ」

 ムイは静かに頭を下げる。

「確実に前へ進むことを、優先したかっただけです」


 そのやり取りを、ヴァンは終始黙って聞いていた。


まだまだ拙い部分も多い作品ですが、

ひとつでも心に残る場面があれば、ブックマークや★評価で応援していただけると励みになります。

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

引き続き、どうぞよろしくお願いします。

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