001.プロローグ
あの日の閃光が、今もまぶたの裏を焦がしている。
砕けたガラスの破片が星のように舞い、世界が一瞬で静止した。
時間がねじれ、音が消え、ただ胸の奥に鈍い衝撃だけが残った。
血の匂い。骨の軋む音。
そして、泣きながらも俺を気づかう声。
——『……大丈夫? 私は平気だから……』
あの瞬間、俺の世界はひっくり返った。
自分のせいで、二度と戻らないものを奪われた。
それでも、俺を気遣っていた。
どうしてそんな言葉を言えるんだ。
どうして俺を許すように笑えるんだ。
痛みに震えながらも、なお俺を想う。
その響きは赦しのようで、同時に逃れられぬ呪いのようだった。
——もし俺がいなければ、傷つかずに済んだ。
——守ると誓っていたのに、壊したのは俺自身だった。
あれから幾年が経とうと、俺はあの瞬間に閉じ込められたままだ。
時間は流れても、罪悪感の鎖はほどけない。
ただひとつ変わらなかったのは、過ごす日々だけ。
俺は傍に在り続けた。
食事を作り、共に歩き、寄り添うことで支えとなろうとした。
それは償いであり、同時に救いでもあった。
——俺は、一人では生きられない。
——そして、俺を必要としてくれている。
その事実こそが、俺を生かし続けた。
贖罪と依存の境目はとっくに曖昧になり、もはやどちらでもよかった。
ただ、二人で在る。
それだけが確かなことだった。
けれど、心の奥底では知っていた。
どれだけ寄り添っても、どれだけ支え合っても、俺の罪は消えない。
奪われたものは戻らない。
——戻らないはずだった。
だからこそ、あの日。
俺が見知らぬ森で目を覚ました時、胸の奥でひとつの願いだけが燃え上がった。
もし奇跡があるのなら。
もしこの世界に、奪われたものを取り戻す道があるのなら。
俺は必ず掴み取る。
どんな犠牲を払ってでも、どんな運命に呑まれようとも。
この胸を覆うものは、ただひとつの想いだから。