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ゾンビ・ブライト 6

よく眠ることが出来なかったが、まあそのまま大事な仕事に行くのは葬儀屋だった頃もよくやっていたことである。


トクローは、身なりを整えて(赤い花が胸元に付いている神父服のような服装だった。これは、出発前に村長に渡されたものである。お告げをしに行く時の正装らしい)、城へ向かった。シスターが道案内役に同行してくれたが、城は立派だったので教会からよく見える。それに、案外近場にあるので、シスターが居なくても辿り着けたであろう。


門の前に着く。門番は、トクローの格好を見るなり恭しく敬礼をした。そして、何処か緊張したような面持ちでトクロー達を通す。


死を告げに来ただなんて、よく考えなくても不吉過ぎる存在なのだから、固くなるのも頷ける気がした。トクローだって、自分の国の王子が死ぬのだと告げに来られたら恐ろしく思う。


「謁見は、こちらのお部屋で」


案内役の臣下に言われて通された部屋は、ルルシアの屋敷とは比べ物にならないくらい豪華だった。これに比べれば、ルルシアは随分質素な暮らしをしている。


カーテン、壺、テーブル、椅子、壁にかけられた絵画、その他もろもろ。高級品で無い物など存在しない部屋は、居るだけで息苦しかった。早く土臭い我が家に帰りたい。そうとまで思った。


手に持った、ルルシアから預かった紙をシワにならないように持ち直す。これにはメモだ。どうやって王子が死ぬのかが書かれている。


運命を受け入れてここの通りに最期を迎えても良いし、抗っても良い。つくづく変な宗教だとトクローは思った。どうやって死ぬのか分かるのなら、回避しようとする人の方が多いはずだ。余程達観した人なら運命を受け入れるだろうが、そんな人は何割いるのだろうか。


ちなみに、トクローは内容を見ていない。見ても良いとは言われたが、見ることは出来なかった。ド級の個人情報のような気がして、見るのは気が引けたのである。


暫くして、王子が部屋に入ってきた。トクローは、バッと素早く立ち上がって頭を下げる。こちらの世界のマナーなんて知らないが、隣いるシスターも同じように立って頭を下げているので間違っては無いのだろうと思いたい。


「お前が、ルルシアの」

「お初にお目にかかります、ワタクシは__」

「良い。名乗らずとも。ルルシアの伴侶だと聞いていたが、平凡な男だな。可もなく不可もない。こんな男しか捕まえられなかったのか、あの醜女は」

「しこめ、……?」


目玉は飛び出すけれど、ルルシアは整った顔付きをしている。眠る白雪姫もかくやという美貌だ。けして醜女などでは無い。


「で? 私はどう死ぬのか言ってみろ」

「こちらに、詳細は書いてあります」

「読み上げろ」


本当に見ていいのか? と困惑しつつ、トクローは言われた通りに内容を読み上げた。そこにはこうあった。


『二十日後、毒を飲んで死亡』


実に簡潔な文章だ。緊張で震えているのをバレないように読み上げると、王子は少し考え込んだ後、突然腹を抱えて笑いだした。笑い過ぎて、涙を浮かべてすらいる。


嘲笑、といったふうな笑い方だった。思わず眉を顰める。死ぬかもというのに、よくそんなにゲラゲラと。


「あの女、そこまでして私の気を引きたいか!」

「はい?」

「他の女の言う神託なら信じたが、ルルシアの世迷言など、信じるに値しない。私の愛するミリアに散々低俗な嫌がらせをした挙句、『妾にしろ』などと侮辱し、私に暴力まで振るった女の言うことなど、誰が信じるものか!」


ルルシアと王子のイザコザに関することは、トクローは詳しく知らない。『妾にしろ』と言ったことと、暴力ジャーマンスープレックスに着いては聞いているので確証があるが、彼女が嫌がらせをするような人間だろうか?


どちらかと言うと、真正面から「王子を誑かすのはお辞めになって」とか言いに行って、圧をかけてきそうだが。いや、その圧が嫌がらせなのか?


「あの女が死んだと聞いた時も、私の気を引きたいがための狂言だと思ったよ。そうしたら他の女を娶ることを嫌ったあの女が、多妻を許されている神子になるとは笑い草だ」

「多妻……?」

「ならば、私の元で妾としていれば良かっただろうに。そうすれば、愛することは無くとも可愛がってやった」


トクローは、引っかかる言葉があったにも関わらず、最後の王子の物言いに顔を顰めた。醜女とルルシアを侮辱した割に、下卑たことを言う。


「泣いて許しを乞うて、この私に跪くのなら……いや、それだけでは足りないな。服を脱ぎ、市中を歩き周り反省の意を示せば、」

「どうしてそんなに下品なことをお言いになるんですか? 王子なのに」


気が付けば、トクローはそんな事を言っていた。




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