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<1月書籍発売中!>純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第三章 聖女の知らない世界

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47.剣闘士にとっての在るべき位置。


「あーーー……きっちぃー……」


城下でも下町にあたる寂れた酒場で、ニーロは椅子を傾けながら天井を仰ぐ。

ぼそりと呟いた言葉に、自分でもしまったと思ったが今この場でそれを聞いているやつもいないと思えば、そこでまた思考を放棄した。夜営業の酒場は、剣闘士を引退した友人の店でありニーロにとっていくつもある仮宿の中でも最も城から離れた場所だ。

皇帝による重大公表を聞く為に大勢の民が城下の大広場に早朝から集まっている中、もともと寂れた通りは無人と呼べるほど閑散としていた。

店も閉められたままテーブルに踵をのせ、酒を片手にぐったりとするニーロは結局昨夜から酒に頼っても一睡もできなかった。今もいっそ寝てしまえた方が気が楽なのに、ただ頭に鈍痛が襲うだけだ。


皇帝により公表は宮廷魔導師による拡声魔法で一斉に広められる。

その声もなるべく聞かずに済み、更に昨日の大会優勝によりどこに行っても注目を浴びるニーロは公表後も明日の朝まではここに世話になると決めていた。


─ だっせぇなぁ俺……。


誰もが憧れ畏敬も抱く闘技場覇者と不敗神話を手にした青年は、本心からそう思う。

子どもの頃からずっと、自分がエンヴィーを守ってやるのだとそう決めて疑わなかった。ついこの前まで弱くて旅どころか隣町のお使いすらできなさそうだった聖女が、ここにきて急激に神聖魔法を開花するなど想像もしていなかった。それが喜ばしいことだと頭では理解しながらも、未だに落胆が全身を支配する。

薄開きの目の向こうに映るのは黴びた天井ではなく、過去の記憶ばかりだ。今までそれを頼りに自分を奮い立たせてきたというのに、今はただただ胸を絶望が引っ掻く。


『ニーロすごい!羨ましいくらい速く動けるし、ぴょんぴょん跳ねるのにライオンみたい強い!私もニーロみたいに動けたらなぁ』

『べつに……そんな凄くもない。兄上達なんてこれだけじゃなくて勉強も魔法の才もあるし……』

子どもの頃は会う度に自分を褒めてくれた。実際にエンヴィーは走れば遅いし転ぶし、そして弱い。

だが、兄達は全員が自分以上の王族としての才能を持っていた。一番上の兄のシルバは勉学に秀で、二番目上の兄のユハニは魔法の才がある。三番目の兄のアンティは勉学はユハニ以上、魔法はシルバ以上の才能を見せ教師を沸かせた。

そんな中、どれだけ真面目にやっても量をこなしても、自分はついていくだけで精一杯だった。才能がないと、きっと誰もが気付いてると幼いニーロもわかった。

褒められれば嬉しいのに、素直に受け取るのもまるで浅い底をひけらかすようで言えなかった。兄達はもっと上を目指しているのに、この程度で、しかも素人に褒められてのぼせ上がる自分が惨めだった。

今思えば、せっかく褒めてくれたエンヴィーにももっと素直に喜べば良かったと思う。そんな自分に、彼女は一瞬も惑わず




『じゃあニーロは強い皇子様になるんだね!』




「…………どうせ忘れてんだろうなぁ、あいつ」

思い返しても簡素で単純で、どうでも良い言葉だ。エンヴィーも覚えてなくて当然だと、期待もしていない。

しかし自分はその眩しいくらいに純粋な笑顔と言葉に、子どもながらに初めて目指すべき指針を教えてもらえたような気がした。

魔法が当たり前の国で、その魔力や才能ばかりが重視される国で、武芸に身を守る以上の価値などニーロにはなかった。それでも、それが自分なりの皇子になれるのだと思えば、やっと向き合うべきものも見つけられた。


どれをいくら真面目に懸命に研磨を重ねても、兄達に比べられ褒められるに至るまで達することができないならば、せめて目の前で自分を無条件に褒めてくれる少女にぐらいは褒められ続けられるようにいたくなった。

そして鍛錬は、自分の研鑽を裏切りはしなかった。強くなることだけが自分を認められる唯一の手段で、剣で兄達に勝てるようになった頃にはもう自分が誰かと比べて王族として劣っているかどうかなどどうでも良くなれた。


城を出たきっかけは地位と教皇の密談を聞いてしまったことだが、剣闘士になれたことは今でも良かったと思う。

自分には皇子よりこの生き方がこの上なく合っていて、今までが窮屈だったとようやくわかったほど生きる実感を持てた。闘技場の優勝者として名を馳せてからは、子ども時代に全くまともな会話もできなかった兄達とまともに話すことができるようになった。むしろ継承争いの波から外れた自分だけが、兄弟内で尤も兄弟達と家族らしい関わりを持っている。


しかし剣闘士になったのも、そして剣闘士で優勝に拘り続けた理由もニーロにとってはただ一つ、聖女の同行者に相応しい人間になる為だ。

月日を負うごとに自分が剣闘士として名を高め、生きる喜びも覚え、仲間と酒を飲み夜を明かす楽しさを知れたのも聖女のお陰だ。

だからこそ、絶対に最後はその全部を聖女を守ってやることで返してやろうと決めていた。それなのに。


『…………………ごめんなさい』

「……。……あーーーやべぇ、また泣けてきた……。ほんとう勘弁しろよヴィー……」

じわ、と酒に押されるように目尻が滲みてきたニーロは天井を仰いだまま手で両目を塞ぐ。

ここまでやってきて、絶対にエンヴィーにも喜ばれると思ったのに、逃げられて迷惑がられて負けて最後の最後の決死の頼みも断られた。

剣闘士として闘技場で何度も生死がかかった結果も、駆け出しの頃は敗北も味わってきたニーロだが、こんなに泣きたくなるほどの敗北感は初めてだった。

聖女を助けないといけない。自分にしかできない。自分が助けてやるんだと。そう決意して、その為だけに真面目にやってきた。

アクセルに彼女との関係を問い詰めたのも、純粋な彼女が利用されていないか心配だった。それなのに、結局彼女が選んだのは兄妹同然のつもりだった自分ではなく、突然現れたエルフだ。子どもの頃から真面目だけが取り柄だった自分は、本当に今日という日を目指して努力してきたのにここに来て梯子を外されてしまえば何もかもが嫌に







「ッお゛ォい剣闘士!!!!!!」






ダンダンダンダンダンダンダンダン!!!!!

うおっ?!と、突然の鼓膜を破るような怒声にニーロは飛び上がる。

椅子をひっくり返しながら起立し、振り返ればさっきまで静寂に包まれていた店の扉が凄まじい勢いで叩かれていた。一瞬奇襲か強盗とも過ったニーロだが、恐る恐る向き直ればその間にも「いんだろ!!」「扉ぶっ壊すぞ!!」と叫ぶ声にはよく憶えがある。つい昨日殺し合いをした相手の声は忘れない。

「ニメトン?!」とアクセルの選手名を呼びかければ、途端に訂正も面倒なアクセルから「さっさと開けろ!!」と本当に蹴破りそうなほどの音が響かされた。友人の店を壊すわけにはいかないと、ニーロも慌てて扉を開く。

何故自分がここにいるのかわかったのか、尋ねようと思ったのも束の間だった。鍵を開けた瞬間に、一瞬で扉が開かれアクセルの長い腕がニーロの胸ぐらを掴み引き寄せた。赤と黒に光る魔眼をニーロの顔に近づけ、牙を剥く。


「お前、聖女のなんだ??」

「いやなんだお前いきなりっ……」

「なんだつってんだ早く答えろ店ごと潰すぞ」

突然有無も言わせず問い質すアクセルの言葉に、ニーロは意味がわからない。

聞かれる理由もわからなければ、それはもう昨日答えたばかりだ。それを何故、そんなに殺気を放って自分に聞いてくるのかもわからない。見れば、自分の胸ぐらを掴むその手が削れ、血が爛れていた。何があったのか聞こうとする口も、アクセルの殺気を直接浴びて噤む。

ニーロにとってその答えは当然で、隠す必要もないほど変わらない。昨日聞かれた時と同じように、ニーロはその目を真っ直ぐ見返しながら言葉を返す。



「……初めての自信をくれた〝友達〟だ」

「その〝友達〟の為に教会も国も敵に回せるか??」



躊躇うわけも、なかった。

ニーロのその決意は、とうの大昔から決まっている。

誇れるものものも秀でた価値もなかった自分に、自信をくれたたった一人の友人を助ける為に自分は努力を重ねてきたのだから。


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【1月25日書籍発売!!】

書籍化決定


《コミカライズも決定!!》

皆さんのお陰です本当にありがとうございます!!

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