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<1月書籍発売中!>純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第三章 聖女の知らない世界

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そして泥試合になる。


「ッぃやっぱか!!」


既に今までの攻撃で丈夫さが証明されたアクセルが、これでも重傷どころか気を失わない可能性もニーロは想定していた。

鎧や魔道具の武装なら倒せた自信があるが、本人が頑丈では当然効かない場合もある。もともと聖女が応援するほどに親しげで、彼女が聖典の旅に連れて行く〝かもしれない〟相手を、殺す気はニーロにない。死なないとわかったからこその大技だ。


頭を狙った分これで気を失ってくれれば儲けものだと思ったが、自分の予想よりも更に丈夫だった。アクセルの体重も加えて自分にも負担がある技だった分、距離を取るまで動くのにニーロも時間が掛かったのが失敗だった。闘技場は技の成立や背中が地面についた程度で勝敗が決まるような柔なものではないと、ニーロはよく知っている。

がっしりと掴まれた右足は、アクセル相手では間違いなく振りほどけない。嫌な予感に汗まで冷えたその瞬間、突然の引力と浮遊感がニーロを襲う。


バコンバコンバコンッ!!と、遠目に立っていた観衆が逆転を知るより前にニーロの身体が三度連続で地面に叩きつけられた。


足を掴んだアクセルが、その腕力だけでニーロの身体を右に左にまた右にと交互に地面へ叩きつける。

受け身は瞬時にとったニーロだが、それでも息が詰まった。最後には力任せに投げられ、吹き飛び地面に数メートル転がり出す。


終わらない決着に、観衆も血が騒ぐ。互いに主要武器を失い、本来ならば戦闘不能になるほどの一撃二撃を与え合う彼等に会場の興奮は更に上へ上へと更新されていく。ここまで互いに拮抗する戦いに、優勝の期待をされるニーロだけでなくアクセルへも声援が上げられた。

投げ飛ばされたニーロも、転がりきった後にはすぐ地面へ拳をついて身体を起こした。受け身を取っても尚、唇を切り鼻から血まで溢れたことに一度だけ腕で拭う。ギラリと鋭く光る瑠璃色の眼孔に、アクセル一人が映った。

ニーロと同じくゆらりと立ち上がったばかりのアクセルもまた自分の血で顔が汚れていた。手の甲で拭い、鼻から血がでていることを確認すれば顔を顰めた。骨こそ折られなかったものの、半魔の身体にも効くほどの攻撃だった証拠だ。自分の顔が自分の血で汚れることを不快に思いながら、ニーロを魔眼に捉える。

三度も地面に叩きつけてやったにも関わらずもう起き上がった上自分より先に地面を蹴ったニーロに、どっちが半魔かわかったものじゃないと本気で思う。


咆吼を上げ、最後はアクセルに向けて跳躍したニーロは空中で前傾のまま拳を握る。その構えにアクセルも、一寸の油断もなく交差した腕で受け、掴み取った。

ドガン、と衝撃波が生じてもおかしくないような音が響き、再び互いが拮抗する。

左手が自由なニーロがすかさず死角から拳を振るったが、アクセルも右足を上げ、腹部に到達する前にそれを受け止めた。ドッ!!とまた鈍い音が響く中、次の瞬間には勢いを失ったニーロの右手を左手で、腹部を狙った左手を右手で使い押さえつける。

ギギギギギッと骨まで軋む音が自分のものか、手の平を通して伝わってくるのかももうわからない。


現状、腕力だけならばアクセルが上回る。このまま腕で押し合うだけならば勝てるのは間違いない。今もニーロにとっての全力に合わせている部分もある。しかしここで拮抗を自ら崩し次の一手に出た時、先制攻撃が決まるのは間違いなくニーロだとも理解した。

息が切れている者同士、しかしニーロの方が俊敏さも上回り攻撃の切り換えも幅も広い。手が届くような距離では、魔法を展開する暇もない。更には……と、ニーロの手を離した瞬間に向けられるだろう短剣を、目で一瞬確認する。いつの間にか再び腰の装備に収まっていた短剣は、自分を殺すこともできる武器だ。

両手を掴んだ今のままもう一度地面に叩きつけるかとも考えたが、足が自由であればいくら渾身の力で叩きつけてもこの男は両足で着地し、むしろぶん上げた瞬間に自分の方が両足で顔を蹴りつけられるとまで先を読んだ、その時。


「ッお゛いアンタ……!!ヴィーとどういう繋がりだ……?!」

「アァ?」

フーッフーッと互いに獣のような息を食い縛った歯の隙間から吐きつけ相手の息が顔にかかる中、ニーロからの息混じりの擦れた声にアクセルも唸って返した。

どういう繋がりだのと、この場で聞いてくるのかがまず気に食わない。まずそれは自分の台詞だと思う。大体、エンヴィーを呼ぶその慣れ慣れしい呼び方すらもずっと引っかかっていた。

しかしふざけているどころか真剣そのものの眼孔で睨んでくるニーロに、まさか自分と同じことを考えていたのかと思う。


ギリギリと歯軋りを鳴らすアクセルは答えようかとは過ったが、どう説明するのも面倒過ぎた。

エンヴィーの知識通りであれば「仲間」と言っても良いが、今の彼女がそれを必要としていないことも、そして自分をそう認めていないことも知っている。正確には「仲間だった」だ。自分だけではない、彼女は過去の仲間達全員をもう巻き込まない為に「仲間」という枠組みから全て除外しようと必死だ。

だからといって友人も、恋人も、同じように本人からの承認もない。仮にも〝女性〟からの了承もなくそういう関係性を自称することは、王族の教育を受けたアクセルは気が進まない。一番近い、そして間違ってもいない〝知り合い〟という関係性も、ニーロの問いに正しくは答えていない。「封印を解かれた」も「聖典を狙っている」も何も知らない人間に言えば、より面倒なことになる。

どう答えるにもわからず考えあぐねるアクセルに、焦らされるニーロは続けて声を張る。


「エルフだろ!なんでアンタがヴィーと行く?!いつからヴィーと繋がってた?!!旅の同行なんて誰に頼まれた?!皇帝は何も知らねぇと裏は取れてる!!」

皇帝、という言葉にそういえばこの剣闘士も皇族だと思い出す。いつ確認を取ったかは知らないが、つまりは自分の存在自体は城に気付かれたのだと静かにアクセルは理解する。


明日には公表と旅立ち予定であるが、自分の為にもすぐ城下を離れた方が良いかもしれないとまで考える。教皇が責められることも責任を問われることも構わないが、自分がハルティアの第一王子であると知られ、さらには半魔であることも知られるかもしれない。ハルティアにも迷惑がかかることだけはアクセルも避けたい。

もともとニーロの問いに、答える義務はない。だが、その言葉からニーロが何を問いたいのかが垣間見えた。ニーロが本当に知りたい問いの返答をする前に、アクセルは決定打となる問いを投げ返す。自分もまたニーロという男の存在を知ってから確認したかった問いは。

「そういうお前にとって聖女は何なんだ」


「ッハァ?!ンなの初めての──」

       

答えは、間髪入れず返された。

腕力で長時間拮抗を続けながら連続で言葉を続けていたニーロは、アクセルよりも息が乱れていた。

ゼェッハァッと息を切らせながら瑠璃色の眼孔を見開き、大口で答えを放てば同時に目尻には涙が薄く滲んでいるのをアクセルは見た。

なによりも全てに言い淀んだ自分と違い、何の躊躇いもなく答えられたことと答えそのものに腕が余計に強ばるほどに射貫かれる。

まさかまさかとは思っていたが、それをこんなにもあっさりとニーロに至近距離からぶつけられるとは思わなかった。唇を結び、垂れる血の感覚にも気付かない一瞬だけ、ニーロにそのまま押し負けかけた。我に返り、再び腕に、何より掴むその全指に力も神経も注ぎ込む。押し勝つことよりもニーロの手が自由になることの方が厄介だ。

ギギギギギッと互いに押し合い鬩ぎ合う中、ニーロから「アンタはッ!?」と全ての質問に対しての催促を荒げれば同時にアクセルの目の食い縛る歯が軋み、牙が剥き出しになっていく。ニーロからの回答によっては彼の真意通り答えてやろうと思ったアクセルだが、今は、もう。



─ めんどくせぇえええええええ!!!!!!



「だあああ!!クッソもう良い!!あと一発だけ殴らせろッ!!!」

「ア゛ァ?!ふざけんな質問に答えろ!!アンタはヴィーをッ」

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!とアクセルが自分の喉を痛めるほどに唸りを上げて、ニーロを押し込む。

もう、全てが全て馬鹿らしい。しつこいニーロも、そしてニーロにまで執着するエンヴィーも、その二人に振り回された自分にも嫌気を上回り殺意を抱く。叩きつけられないならこのまま押し潰してやると言わんばかりに力を込めれば当然ニーロが押し負ける。ギギギギギッと堪えようとする背中を限界まで反らすが、腕だけでなく手も骨を折られそうなほどメキメキと握られ離れない。

このまま押し倒されるか、背骨を折るか、指が折れるかと最悪の選択した浮かばない中、ニーロは顔に力を諫め身体ごと至近距離に迫るアクセルの顔を


「答ッ……えろつってんだろクソエルフ!!!!」


右脚で、蹴り上げる。戒められた両手の代わりに、靴先でその顎を垂直に打ち上げた。

これにはアクセルも大きく仰け反ったまま一瞬意識が飛びかけた。顎の衝撃がそのまま脳まで直結して響く。食い縛っていなければ自分の牙で舌を噛み切っていた。押し勝っていた姿勢から今度は自分の背が大きく後方へと反る。

このッ……!!と思わず溢れそうな悪態も、口を強制的に閉じられたまますぐには開かない。このまま本当に両指粉砕してやろうかと本気で思いながら睨む。

一発、あと一発だけ喰らわせれば満足しようと自分なりに自分の中で折り合いを付けたのに、押し倒すことすらままならない。自分も同じように前蹴りを喰らわそうとしたが、それも脚を上げる前に読まれて先制の蹴りを受ける。まるで靴に張り付いた泥葉のようにしつこく、煩わしい。何度も一撃を狙うがただ攻防が続くだけだ。

至近距離ではニーロに全て先に動かれてしまう。あと一撃、あと一撃でと思えば思うほど、最後まで立つ意思と覚悟の持つ剣闘士に食いつかれ離されない。両腕を結び合ったまま武器も使えず、片や魔法の隙も与えられず片や魔法の技能もない。完全なる泥仕合へともつれ込む。

その間「答えろ」「お前はヴィーを」と質問の答えを催促し続けるくせに隙のないニーロに、苛立ちが頂点まで突破する。


「~~あああああ゛あ゛あ゛クソ!うざってぇ!!降参だ降参!!さっさと承認しねぇと召喚魔で会場ごとぶっ潰すぞ!!!!」

「ッふざけんなこの期に及んで!!!質問の答え一個も聞いてねぇぞこっちは!!!」


アクセルの怒声が眼前のニーロにではない、会場全体へと響かされる。

互いにもみ合いながら、アクセルの足下に魔法陣が展開し始めた。詠唱無しでも大概の自然魔法は使えるアクセルだが、詠唱無しは最高位や神域など威力の高い魔法ほど失敗も暴走もしやすい。本来ならば召喚魔法も大規模なものならば当然詠唱がアクセルにも望ましい。だが、今詠唱をすればその隙をニーロにまた突かれることもわかっている以上、無詠唱で召喚に挑む。もうニーロをこの手で潰すことに拘る意味もなくなった今、いくらでも魔法を躊躇わない。

半魔のアクセルが無詠唱かつ頭が血が上ったまま召喚魔法を使おうとした結果、足下の魔法陣は発動前から制御しきれる巨大かつ歪な形で怪しい光を放つ。

その魔法陣に、会場中の観衆もざわめき出す中、とうとう慌てるように審判員から協議の間もなく「反則!!」「ただちに展開を中止せよ!!」と声が上げられた。

禁止行為である召喚魔法の展開に、アクセルの反則負けが宣言と共に響かされる。……しかし。


「こンの凡族がぁあああ!!しつっけーんだよ!!いつこの俺がお前の質問に答えてやるっつった?!」

「種族関係ねぇだろ!!相手が質問に答えたら自分も答えるのが礼義なんだよ!!エルフ族じゃ習わなかったのか!?」

勝敗が決まっても尚、優勝争い二人の小競り合いが続く。

ニーロはアクセルから一歩も離れなければ、アクセルもまたニーロの両手を離さない。どちらかが蹴りをいれようとすれば、どちらかも反撃をする。両手を繋ぎ避けようのない泥仕合に、二人を止めたい関係者も選手達も誰もが近付くことすら難しかった。

この国で最強を競う大会の優勝争いした二名を止めに入ることなど容易ではない。返り討ちに遭うのが目に見えている。むしろ邪魔に入り今度こそアクセルに召喚魔を使われた方が面倒だった。

勝敗は決した直後に解除された召喚だが、また使用されればたまったものではない。

その上、観客もまた、決定的な生死も戦闘不能でもない単なるルール違反での勝敗に満足できるわけもなかった。今も「やれーやれー!!」とこのままどちらかが倒れるまで延長しろを煽る観衆が数多く声を張る。

ギリギリギリギリッ!!と互いに一歩も引かない二人を前に、遠巻きに闘技場関係者も「やめろ!」「とまれ!!」「勝敗は決まったぞ!」と声を掛けるしかないその中で。


「二人とも!!!試合終わったよ?!!」


ぱたぱたと、小動物のような駆け足で少女が駆け寄った。

悲鳴交じりのその声が響いた途端、ぴたりと息まで合わせたかのように二人の動きが止まる。ギロリと睨むような目線の先に、選手二人だけでなく会場全体が注目する。


闘技場にいるはずのない聖女の存在に、誰もが一度目を疑った。


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【1月25日書籍発売!!】

書籍化決定


《コミカライズも決定!!》

皆さんのお陰です本当にありがとうございます!!

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