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純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第二章 聖女の仲間

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22.聖女にとっては楽しいお食事で、


「……あの! アクセル、どこ行くんですか?」

「腹減った。どこで食える??」


じゃあまた外に……と、アクセルに引っ張られながら言葉を返す。

さっきは飲み物しか飲んでないし、アクセルは封印から出たばかりで多分まだ何も食べていない。大聖堂にも教会員の為の食堂はあるけれど、私は部屋に運ばれてくるから殆ど使ったことがない。それに、今特別室で教皇様に啖呵を切ったばかりなのに大聖堂にいる方が落ち着かない。

ちょっとまたアクセルを日光の下に出すのは申し訳ないけれど、でもお店の中とかに入れば室内の分、もうちょっと涼しい筈だ。


お金も二人で食事する分くらいはある筈とお財布の存在を手探りで確認しながら、今度は誘拐じゃなくて堂々と二人で外に出た。

警備も修道女も神官も私を見つけてすごい凝視してきたけど、アクセルが傍にいるからか話しかけられずに済んだ。……アクセル、牙と耳だけちょっと目立つから。

髪の色は人間族の中ではそんなに目立たないけど、牙尖っていて耳はエルフだからみんな驚いてた。

それでも皆の視線なんて気にしないと言わんばかりに真っ直ぐ前だけ見ているアクセルは羨ましいくらい堂々として格好良い。


さっきの出店や屋台のある通りじゃない、城方向から外れた人通りの落ち着いた飲食店のある通りを選んで店を選ぶ。取りあえずアクセルにとっては百年ぶりの食事だし、せっかくなら美味しいものを食べてもらった方が良いよね?!

どうせ旅に出る時になったら皇帝陛下からも支援金は貰えるし、私もこのお小遣いを使う機会なんて旅中も殆どなかった。それなら思い切りアクセルにご馳走しよう。

アクセルとこうしていられるのもハルティアに帰るまでの間だけだし!!…………だけ。多分、……なんとかなれば。


「……ここ、お前の行きつけか?」

「!いいえ、私も初めて入ったんですけれど!魚のクリームスープがあるみたいですし、お店もおしゃれなので……!」

アクセルからの問いかけに、店の看板を指差して説明する。

恥ずかしながら城下なんて旅に出る前から出歩くことも少なかった私は、あまり店にも詳しくない。迷わずに行ける場所なんてニーロのいる闘技場と皇城くらいだ。

あとは外に出ても馬車で通り過ぎるか、神輿で聖女として座っているくらいで、こんな風に出歩くこともなかった。

神聖魔法を覚えるのに必死でそんな暇もなかった。だから今こうしてアクセルと出歩けるのがすごく嬉しい!!

旅でもアクセルと二人だった期間はあったけど、もうその時には食事を楽しむ気力なんかなかった。……というか私ちゃんと食べてたっけ。あんまり思い出せない。


店内でもアクセルの姿に一瞬びっくりされて、でも人間の私も一緒だったこともあって席に通して貰えた。

聖衣で聖女と気付かれているからか、あのトロールの噂のせいかすごい見られる。でも注目もアクセルと半分こだとちょっと気分が良い。店員さんに魚のクリームスープを二つお揃いで頼んだ後も、視線よりアクセルと外にいる実感の嬉しさが勝った。


「お前、……一応確認するが、まだしらばっくれているつもりなんだよな……?」

「?ちゃんとお話ししたじゃないですか。アクセルの言う通り〝本〟を持っていることも認めましたし、教皇様と皇帝陛下に命じられている使命も含めた私の現状も」

テーブルに前のめりに頬杖を突くアクセルは、声を潜めながらだから私も同じ声量で返す。

今朝もアクセルにはちゃんと話した。…というか、見破られていたから認めて話すしかなかった。私じゃアクセルから逃げきれないし、あそこまで追求されて全部を隠し通すことはできない。モイを守るだけで精一杯だ。今も私の肩でぴょこぴょこしているモイだけ守り抜ければ良い。

アクセル、聖典の旅中もお腹空いたらモイを食べようって言ったこともあったし。聖典なんて知られたらすぐに連れ去られちゃう。

そういう目的の為になら羨ましいくらい行動力抜群のアクセルは大好きだけど。


ハァァァァァ……と突然アクセルから溜息が吐かれた。明らかに呆れの混じっている反応に首を傾げれば、アクセルはトントントンと指先で小刻みにテーブルを叩いた。

「じゃあ聞くが、俺とお前との関係は??今じゃなくて〝前〟の」

「あ………………えーと……信じて貰えないような気が……」

仲間だなんて。

さっきまでアクセルに見蕩れていた目がスーッと無意識にも横に逸れてしまう。だって、アクセルだよ?エルフの国であるハルティアの第一王子だよ??

しかも私はアクセルをずっと欺して地下に閉じ込めてた教会関係者だよ?!そんな人と私なんかが前の未来では仲間だったよなんてアクセルに信じて貰える気がしない。実際仲間は仲間でもきっと片思いだったし!!それこそ教皇様の入れ知恵で嘘を吐いていると思われる方が自然なくらいだ。


目を逸らした後もアクセルの刺すような視線は変わらない。

じーーっと見つめられると、なんか気恥ずかしくなって頬を指で掻いてしまう。口の中を柔く噛みながら、なんか懐かしいなぁと思う。アクセル、一緒に旅を始めてもすごい警戒心強いからすごい見てきたよね。


突然、ダンッ!!と机ごと揺れた。

びっくりして声を上げてしまえば、向かい席に座ったアクセルの長い足が地面を踏み鳴らしていた。うわー!!アクセルのこの脅し方も懐かしい!!


「いっ言います!」

思わず謝るよりも先に裏返った声が出た。

私がちゃんと目を合わせれば、眉間に皺を寄せていたアクセルも足を引っ込めてくれた。だけどまだ目の色が金色のままで、怒ってないんだなとわかったらそれだけでまた顔がにやけかけた。やっぱりアクセルは恫喝するし怒るけど実は温厚だよね!

テーブルの下で何度も指を組み直し、口にするのが恥ずかしくて僅かに俯く。


「あ、アクセルは私の仲間で。私のというか、私達の仲間になってくれて一緒に旅をしていました……」

「仲間?………………は??それだけ???」

えっ、と。うっかり間の抜けた声が出る。

顔を上げればアクセルの目が僅かに丸くなっていた。頬杖を突いていた手からも少し頭が今は浮いている。それだけ、って……もしかして宿敵とか考えてたのかな。目は丸いけど、眉を寄せたアクセルは怪訝な表情で私から視線を離さない。

敵じゃないよ!!と訴えるべく「あくまで私にとってですけど」と頷けば、……またダン!!と足踏みが鳴らされた。

チッ!と舌打ちまで鳴らされ、私一人があわあわしてしまう。でもアクセル偉いね!床に穴あけていないよ!!!本気出せばクレーターだって知ってるよ!!


「!あっほらスープが来ました!アクセルの好きな魚のクリームスープですよ!!」

「だから、お前がなんでそれを知ってんだ……。そんなもん家族でも恋人でもねぇのにいちいち覚えてるもんか?」

ちょうど私達の料理を運んできてくれた店員さんに手を振りながら、気持ちを切り換える。

アクセルが喜ぶと思ったのにむしろ食べる前から疲れたような声に、私は浮きかけていた腰を下ろす。コトンコトンと置かれたスープからの美味しそうな香りと湯気越しにアクセルを見つめた。

料理も運ばれてきたからと、アクセルに一言断ってからここで神聖魔法を使う。ラウナの盗聴防止結界に似た、無音魔法だ。ラウナほど完璧に密談できる魔法じゃないけど、これで他のお客さんには私達の会話は聞かれない。

「これで安心です」と一言断ってから、まだ不機嫌そうに牙を剥くアクセルに私は首を傾げながら質問を投げ返す。


「仲間なら好きな食べ物とか知っているのは普通じゃないですか?一緒に生活したらわかりますし、アクセルは特に私達の中で好き嫌いがあったから……」

「んなもんわざわざ言わねぇだろ。たかが少し旅をした程度で俺の食の好みなんかわかるわけもねぇ。俺が自分で言ったのか?」

「はい。正確には「故郷でよく食べていた」と教えてくれました。!アクセル、この料理だけは自分でも作れるんですよね!」

すごく絶品でした……!と、無音魔法の安心もあって大きな声を出してしまう。途端にアクセルは手に取ったばかりなのにボトリとスプーンをテーブルに落とした。

改めてわし掴みながら、信じられないものをみる目で私を見る。いやでも本当に美味しかったよ!?

そうだあの時だけは食事の味も覚えてる!!ニーロとラウナがいなくなって落ち込んでいたけどあの味だけは美味しかったのも覚えてるよ!!好物過ぎて料理人に作り方聞いたまま覚えたって言ってた。あっでも


「作ったことはまだ無いんでしたっけ。アクセルは羨ましいくらい頭が良いからお料理のレシピ覚えたままなんですよね。アクセルちゃんと上手に作れますよ!きっとお料理も私より上手で才能もあると思います!」

わあああああああああああああああああ楽しい!楽しい!!!!!

過去でもアクセルとたくさん楽しく話すことできなかったし、未来から来ましたなんて絶対誰にも信じて貰えないし聖典のことも言えないからこんな風に話せる時が来るなんて思わなかった。でももうアクセルにはバレちゃったし話して良いよね?!


スプーンを握ったままの拳で気付けば力説してしまった。逆にアクセルは掴み直したスプーンを握ったままに俯いてしまう。

冷める前に食べなくて良いのかな。またゴンとテーブルに振動が伝わって、また怒らせたかなと思ったら今度は頭突きをしてた。「大丈夫ですか?!」と思わず席を立ってアクセルの背中に手を伸ばす。

ぐったりとしたアクセルの口からぽつぽつ「ありえねぇ……」「何が………」と呟く声が聞こえた。アクセルは王族だから料理できる自分とかもしかして想像したくなかったのかな。ニーロとラウナがいる間は一度も料理を作らなかったし。

でもニーロも普通に料理してくれたし、全然素敵だと思うけど。


「普段はニーロかラウナがお料理してくれてましたよ!二人とも羨ましいくらい器用で。私なんて料理を混ぜたり取り分けたりお皿を洗うくらいしかできませんでした」

当時は自分だけ役に立てなくて肩身が狭かったけれど、今思えば皆と食事できたあの時間はすごく幸せだったと思う。ニーロの串焼きもラウナの野菜スープも美味しかった。

すると「ハァ?」と少し頭を上げてくれたアクセルが、そのまま首だけを私に向ける。ギロッとした鋭い目はまだ黄金色のままだ。


「お前、そんなに料理下手なのか?ただ切って味つけるだけだぞ」

「あっ、はい。私、不器用で何度も皮剥きに失敗しちゃって。時間がかかるだけならまだしも、そのままスパッって手とか指とか切っちゃって、何度も皆を怒らせちゃって……」

もうナイフ触るなと怒られて、ニーロとラウナの口喧嘩まで起こしちゃった。

「お前が皮剥きしねぇから聖女が馬鹿やっちまったんだろ!」と怒るニーロと、「あんなゴツいナイフなんか持たせたらこうなるの目に見えてるでしょ!」と怒るラウナで、火に掛けた料理が焦げそうになるほどの長い喧嘩だった。

今思えばそれからだったかもしれない。ラウナが自分から料理に協力してくれるようになったのは。


「二人が食べる食材に血をつけちゃうのはやっぱり不衛生ですし気分悪かったよなぁって……私もそれからはなるべく料理用ナイフを触るのは控えるように」

「いや、そっちじゃねぇだろ」

急にアクセルからはっきり否定されて、言葉が止まる。

アクセル、逆行する前の記憶ある??いやでもあの時はまだアクセルに出会う前なのに。

瞬きを繰り返して見つめ返してしまえば、トントントンと向かいの席を指先で叩かれて「座れ」という意味だと理解する。ずっと背後に立たれるのは落ち着かなかったのかな。


元の席に座って、それでもまだ料理に手を付ける気にならない。

それよりもアクセルの言葉の意味が知りたくて「どうしてですか?」と尋ねる。チッと舌打ちをするアクセルは持ち上げた頭を支えるように頬杖を突き直した。


「お前、絶対今後もナイフ触るなよ。お前の、()()()()が、()()()()()()()()。……普通、任せたくもなくなんだろ」

「?そんな手って……私聖女ですから戦闘にはほぼ影響ありませんよ」

アクセルが指先で示してくる右手を、フォークを握るより前に彼へと開いて見せる。

研究職のラウナとか、戦闘で槍や拳も使うニーロが怪我したら大変だけど、私は神聖魔法だけだから手が切れちゃってもあまり影響はない。それにあの時も回復魔法ですぐに治せた。

ほら、と。示してみせた手のひらに、今度はアクセルが自分の左手を伸ばし返してきた。ぴったりと手を合わせるように重ねてくれる。…………これ、ちゃんと合ってるのかな。大きさが違い過ぎるけど。

どこの位置に合わせるべきか悩んでいる間にも、アクセルの口から「ちいせー……」と呟くような声がうっすら聞こえてきた。うん、やっぱりアクセルもどこに手を合わせれば良いか悩むよね。ああ、でもやっぱりアクセルは手も格好良いしすらっと長くて羨ましいくらい大きいなぁこの爪も綺麗だし……


「どうせアレだろ。その仲間連中は馬鹿みたいな過保護でお前がちょっと怪我したくらいで…………、……おい。聞いてんのか」

「!すみません!!つい!見惚れてつい……!」

うわあああ!またやった!!本当に本当にごめんなさい!!

ハッとつい手を見るのに夢中で、アクセルがせっかく話してくれていたのに頭から抜けていた。「見惚れる??」と怪訝に顔を歪められる中「本当にすみません」と謝りながら自分の手を合わせてくれるアクセルの手を改めて見つめる。


「やっぱりアクセルの手、好きだなぁって」

私の頭も鷲掴みできちゃうくらい大きな指と手は、エルフだからじゃなくてアクセルだからの大きさだ。

アクセルがまさかの頭を撫でてくれた時はすっごい安心して嬉しかったなぁと思い出したら、つい懐かしくて。私の場合、手首で合わせると自分の指がアクセルの指先には全然届かない。それどころかアクセルの指の隙間に近いくらいだなと、指の位置を指先の方へと摺り合わせながらずらして……みた途端。シュバッと手を引かれてしまった。


「ヘンタイ」

っっっまた言われた!!!!?

あれ?と言う間もないアクセルからの二撃目に声が出ない。

しかもアクセル引っ込めた左腕を反対の手で押さえたまま椅子ごと背中まで後方に反ってる!!お手々合わせ最初にしたのアクセルなのに!!!もうちょっとくっついていたかった!!!!


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― 新着の感想 ―
いちゃいちゃしてる!アクセルとエンヴィーがいちゃいちゃしてる! アクセルはきっとエンヴィーがアクセルの事をいっぱい好きって言ってたのを聞いて前は恋人だと思ってたんだよね。良きかな
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