表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第二章 聖女の仲間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/30

20.聖女にとっては不思議な朝で、


「!おっ……おはようございます聖女様」

「…………おはようございます……?」


今日だけで七度目の挨拶に、私は首を傾ける。

部屋から出て、さっそくアクセルがいるかどうか確認に行こうと、今回も直接経路ではなく転移魔法を使うつもりだった。だから聖堂である礼拝堂に向かっていたのだけれど、その短い距離の間にもう七度修道女の人達に挨拶をかけられていた。


なんか、おかしい。

大聖堂には大勢の教会員がいて、修道女だけでなく神官もいる。けれど、昨日まで皆見かけても一礼をくれるくらいで、聖典の旅から戻るまでこんな挨拶を積極的にしてくれたことなんてなかった。

それなのに、通り過ぎる前から積極的に私に笑いかけてくれるし、遠巻きとはいえ挨拶までしてくれる。

最初は嬉しくて声は跳ねたし、どきどきして声がひっくり返ったりもしたけれど、流石に短時間で連続七回にもなれば、もう疑問しかない。また聖典の力で世界が変わっちゃったとか?まさか聖典を使う前に戻ってしまったのかとまで考える。皆からの反応は、どちらかというと聖典を持ちかえってきた後の反応の方が近いから。でも、ここにちゃんとモイはいるし……


「!失礼致します聖女様!少々宜しいでしょうか………?!」

「ッはい!」

ヒッ!と肩どころか身体ごと揺れながら振り返る。

当然、まだ教会の中だから話しかけてくるのは修道女だ。でも、私そんな仲良く話しかけてもらったことなんかない!

駆け寄ってきた修道女も、やっぱり見覚えはあるけど殆ど知らない人だった。私は教会に育てられてからすぐ神聖魔法を理由に〝聖女〟として教皇様に育てられたから、こういう年の近い修道女達とも面識が殆どない。

それなのに挨拶に留まらず呼び止められるなんてと、向き直った後も肩がびくびくと震えた。しかも一人だけじゃない、さっきおはようごさいますをくれた他の人達まで興味があるようにこっちを見てる。

もしかしてまた教皇様が余計なことを知らないうちにやったのかなと嫌な予感まで沸いてきた。

私の前で立ち止まった修道女は「あの……」と背中を丸めて私よりも姿勢を低くして、上目に覗いてきた。なんだか既視感のある眼差しだと思ったその瞬間。


「先日の魔物発生した町を救われたのが、実は聖女様だったという噂は本当でしょうか……?」

「……。それを、どこで………?」

わぁぁぁと、頭に一音が鳴り響く。噂って回るの早い。

顔が変にヒクつきながら頑張って笑顔を作る。視界の端では話を聞いてた人達も驚いた様子はなかったからつまりは皆それを知ったのだと今理解する。否定するか肯定するかは、情報源による。

教皇様だったら絶対悪い企みがあるから否定するし、もしラウナなら仕方ない。私が隠してるわけじゃないと言っちゃったんだから、誰かに話しちゃっても良い。

ただ、教会の修道女と神聖魔法嫌いのラウナに接点が全く思いつかない。もしくはラウナみたいに家族とか友達があの町に住んでいたとかの可能性も


「救われたヴァーグの民が何人も祈りを捧げに来られましたので……。あの魔導師ラウナから、魔物を浄化されたのは聖女様だと聞いたそうです」


当事者ーーーーーーーー……。

もうそれは怒れない。何よりすごく納得できた。そうだよね、ラウナもともと私に真偽を確かめたかったのも妹さん達の為だもんね。

聖女か別人かだけでもちゃんと教えたいよね。それにちゃんとラウナが代わりにお礼を言ってくれたことも伝えるべきだよね。ラウナが妹さんや家族と昨日仲良く話せたんならもうなんでも良いよ。


続けて説明してくれる修道女の話によると、今朝礼拝堂を開ける前から大聖堂の前にはずらりと集まっていたらしい。

今日は礼拝の日でも特別な記念日でもないのにどうしてと思ったら、ヴァーグの町の人達だった。ラウナから話を聞いて「聖女様に救われました」とわざわざ私が所属している大聖堂にまで祈りに来てくれた。

しかも、その人集りを見た帝都の人達にも噂が回って、城下の人達も礼拝堂に集まってきているとか。……つまり、城下にも広まっちゃったということだ。


そんな状況なのに教皇様がよく何も言いに来なかったなぁと思えば、その教皇様が今は礼拝堂に立って説教をしているらしい。

呼びに来なかった理由もこれで納得できた。教皇様には逆に町のことは知らないと言ったから、きっと本当は無関係な筈の私を呼ぶと面倒なことになると思ったに違いない。私、教皇様に嘘を吐いたことなかったから。


「それで?事実は」と僅かに前のめってくる修道女に、思わず半歩下がる。

修道女にまで知られたら間違いなく教皇様の耳にも入るけど、ラウナを嘘つきにするわけにはいかない。肯定と共に頷けば、その途端「素晴らしい!」と歳の近い修道女さんに今までに無い眼差しで褒められた。


「トロールの集団を一掃するなど普通では考えられません!流石は教皇様が見初められた聖女様です!」

……聖女は関係ない。

罪のない一般人には大変な相手だったのは正しいけれど、トロールなんてラウナも魔法一発で滅ぼしたし、ニーロなんて魔法補助無しの蹴りで吹っ飛ばしたこともあるし、アクセルなんて頭を捥いでた。

魔力の込められた攻撃じゃないと死なないけれど、それでもニーロもアクセルも戦闘不能に追いやっていた。聖女じゃなくても神聖魔法じゃなくても倒せる魔物だから、あれだけで褒めるのはちょっと怖い。

修道女は私の実力を知っていた筈なのに、……教皇様、礼拝堂でどれだけ大仰に言っているんだろう。トロールは世界最強魔物とか言ってたらどうしよう。


「それに昨日はあのニーロ様と決闘して勝利されたのですよね?」

「しかも一瞬のうちだったと伺っております」

さらなる質問をしてきたのは、目の前にいる修道女じゃない。さっきから視界の隅にいた方の修道女達だ。やっぱり私以外は修道女同士は仲が良い。一緒に暮らして、羨ましいくらい家族みたいな関係だ。会話に途中から参加するのも全く気にしない。私はされるのも初めてだけど!


ニーロは第四皇子で、大聖堂にもよく顔を見せにきてくれることもあったから大聖堂で過ごしている人は皆知っている。………ニーロと一緒に、さっき話していたラウナとも戦ったのにそっちは知らないのが情報と噂が偏っているなと思う。

ラウナも帝都では有名な魔導師だけど、ニーロの知名度はそれ以上だ。闘技場で今一番の人気者だから。当然、修道女にも人気は高い。教会全体は闘技場に否定的だけど、ニーロ格好良いもん。けど、ラウナもすっごい格好良いのに。


「いえその、皆さんが想像するようなものではないですよ……?」

町の一件と違って、昨日のは本当に運が良かっただけで誤解も多いと思えば、決闘のことは肯定しにくい。「えっと」とか「その」と言いながら、逃げる理由ばかりを考える。

どうしよう礼拝堂も今は混雑しているなら入れない。正規の経路で地下に入るなら回り道をしようかと、そう考えた時だった。


「!そこの者!!なにを気安く話しかけている!」

突然の怒鳴り声に、修道女の背筋が伸びたと思えば大慌てで謝り、逃げていく。

相手がわかった瞬間に私は脱力した。礼拝がちょうど終わったのか、あまりに嫌な相手に思わず顔に力が入った。教皇様だ。

「無事か聖女?!」と心配しましたとこれ見よがしに表情を変えて駆け寄ってくる教皇様から目を逸らす。修道女達と同じく、教皇様から逃げるべく踵を返して来た道を戻る。


「待て聖女!」

教皇様に肩を掴まれても、払いのけた。

それでもまた掴み直してくる教皇様に今度は無理やり振り返らされた。気を抜くと正直に睨んでしまいそうで、なるべく感情を抑えて見返す。神聖魔法はどれだけ邪悪な性格でも人間相手には効果がない。


「一体どうしたというのだ聖女よ!件の町もお前の功績というのは本当か?私に嘘を吐いたというのか?!」

「はい。嘘つきました。それでは」

話したくない。うっかり話すと、教皇様こそ皇帝陛下に嘘吐いてるくせにとか言いたくなる。

もう一度身体の向きを変えようとした瞬間、今度は強く両肩を掴まれた。「ちゃんと聞きなさい!」と唾が飛ぶほどに怒鳴られても、目を逸らす。


「聖女よ。私はまだお前が単身で旅に出ることを認めたわけではないぞ」

またその話かと、溜息が先に出る。もう終わった筈なのにと言う気力もない。

ニーロ達にも結果的に勝ったことになって、皇帝陛下だって勝利認めてくれたのにしつこい。自分でも冷ややかな声になってると自覚しながら、教皇様に仕方なく言い返す。

「ちゃんと決闘にも勝ったではありませんか。そもそも一人ではありません。私は同行者に」




「俺がいる」




突然、背後から聞こえた声に心臓が止まった。

私と向かい合っていた教皇様も、今気が付いたように顔ごと視線を大きく上げる。私より教皇様より高い、身長に。

声を掛けられるのと同時に掴まれた肩の感触に、それだけでも心臓がひっくり返りそうになったのに、振り返ればもう口が大きく開いてしまった。腰が抜けかけて足下がふらつく中、私よりも先に教皇様が「貴方は!!」と声を響かせた。

宵闇色の髪に、エルフ特有の耳と黄金の金眼。のっしりとした高身長猫背に、鋭い牙と爪。窓からの日差しすら眩しそうに顔を顰めるのは、間違いなくアクセルだ。


「あっアク……」と開いた口をパクパクさせて、アクセルの名前すらすぐに呼べない。

バクバクバクと心臓が煩くて、目が瞬きも忘れて瞼を剥いた。アクセルが、いる。地下じゃない、大聖堂内部に!!!!

茫然としたまま舌もまるで回らない私を猫背で見下ろすアクセルは、肩を掴んでいた手を今度は私の頭に伸ばす。ガシッッ!とアクセルの羨ましいくらい大きい手に鷲掴まれる。あああ!これ!懐かしい!!!


「どこにいやがった雑魚聖女がァッ……聖女の分際でどんだけ寝てんだ普通はもう起きてんだろ修道女見習え雑魚の分際で……!!」

「ごっごごごごごめんなさい……!!わっ私ずっと神聖魔法の勉強の代わりにそういうの免除されていて……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ