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純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第二章 聖女の仲間

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半魔にとっては雑談。


「こ、古代文字ってそんなや、疚しい内容なのですか……?」

「んなわけあるか」

「で、では聖典が…………?」

「世界の理を記載する最古魔道具に何言ってんだお前」


アクセルが言ったくせに!!!

私なりに答えを探している中、淡々と返してくるアクセルに口の中をぎゅうっと噛む。なんだろう!?すっごくからかわれてる気がする!!

アクセルの冷ややかな目は慣れているけれど、……慣れ過ぎなくらい慣れているけれど!!!!

旅の間もニーロやラウナがいた時もアクセルって特に私にこうやって呆れたような眼をすることが多かった。足手まといで役立たずの私に、仲間の中で一番そういう目を隠さない人だった。羨ましいくらい自分に正直な人だと思った。


むぐぐ……とどう返せばわからない私に、アクセルはまた溜息を聞こえる音で吐き出すと、コンコンと結界を指先で叩いた。

指の先が聖典を指していて、返せと言っているのがわかる。私も両手で持って結界の向こうに差し出せば、すぐにアクセルは片手で掴んで受け取った。


「お前は決闘のことについて相談にきたのか聖典について聞きにきたのか古代文字について聞きにきたのかどれなんだ」

「どちらかというと聖典を……」

でも一番聞きたいのはアクセルのことだよ。

その言葉を飲み込んで、今は三択からきちんと選ぶ。決闘のことはもうアクセルに相談しちゃいけないし、古代文字も読めるようになりたいけど、やっぱり一番は聖典だ。

もっと詳しく知れれば、モイと聖典を分離することも、私が過去に戻っちゃった現象もちゃんとわかるかもしれない。


ふーんと、鼻を鳴らすアクセルは一度分厚い聖典を閉じた。それから表紙を開いてぺりぺりと指先で一枚一枚捲っていく。……あれ?!これもしかして話してくれる?!

アクセルが!!直接聖典のお話してくれるの?!


「一言で言えば「あり得ないことを可能にする魔道具」だ。俺は〝身体の完全なる浄化〟だが、理論上は死者の蘇生も、世界を滅ぼすも、過去に遡るでも未来を変えるでもなんでもできる」

「!?そんなことまで可能なのですか……?!」

過去!!と、その言葉が頭に響く。すごい!本当に手がかりが!!

思わず前のめりになりすぎて鼻先が結界の向こうにはみ出した。

アクセルが「コレには無理だけどな」と本を指先でトントンと叩く。聖典はそもそも製作が極めて困難な魔導具だと。膨大な魔導計算式の術式、関連知識も必要で時間もかかる。どんな聖典を作るかによってその概念の専門知識も理論も必要になる。人間一人の命じゃ人生全てを注いでも中身を完成まで書き切る前に死んでしまうと、丁寧に言葉を続けてくれた。


「聖典一冊につき、歪められる理は一種が限界。死人生き返らせるなら〝死者蘇生〟用の聖典、世界滅ぼすなら〝世界滅亡〟用の聖典をいちから作るしかねぇし死ぬほど時間と頭も使う」

つまりはその聖典専用の望みなら叶えられるということだろうか。

「死者蘇生の聖典」なら死んだ人を生き返らせる関連ならゾンビでも生者でも死者を操るでもできるとか、アクセルの作ってる「身体の完全なる浄化」ならやり方によってはこの世界の魔物や魔族を全滅することもできるのかもしれない。

そう考えると、アクセルの聖典も望み薄じゃなくなる。……だけど、私達と出会ったアクセルは聖典なんて製作もしていなかった。

昨日話してた残りの製作年数から考えても完成したとは思えないし、つまりは作るのを諦めたということになる。聖典の完成を諦めたのか、それとも聖典が必要じゃなくなったのか。それは、今の私にもわからない。


「……もしも〝過去に戻れる聖典〟とかあったらどうしますか?」

「使うに決まってんだろ。ンな代物それこそ〝神域〟級だ。応用のし甲斐もある。……本当にできんなら、俺もそっちが欲しい」

羨ましいくらい頭が良いアクセルの的確さに心臓が何度も跳ねながら、最後の呟きは不思議で首を捻る。

アクセルは何よりも身体が元に戻りたいのだから、過去に戻るなんて遠回りしなくても「元に戻る」聖典があれば充分な筈なのに。それを言葉でも尋ねようとすれば、……急激に喉に氷柱を突きつけられたような寒気が走った。



「過去で俺がこんな姿になった原因全部ぶち殺すッ……!」



うわぁぁぁ……。

過去に戻ったらアクセルの身体も過去なんだけど、と。言えるような空気でもなかった。まるで氷の中に閉じ込められたように殺気が研ぎ澄まされて、息を止める。

ああでも応用って言うからやろうとすればそういうのもできるのかな。私はどうやって聖典が発動したのかきっかけすらわからないけれど。


ギリギリと歯軋りを鳴らすアクセルは、いつの間にか目がまた赤と黒だった。指で摘んだページをまとめて百枚くらい飛ばす。その先は白紙のページがまだまだ残っていた。それから書きかけの聖典を一度閉じて、別の白紙を広げ出す。


「逆行の聖典……いや過去改変でもなんでも良い。そんな聖典があれば、世界だって思うがままだ。まずは魔物ぶっ殺してむしろ滅亡させてエルフが踏み躙られた歴史から……!」

エルフ至上主義。そんな言葉が頭に浮かぶよアクセル。自分の種族と歴史を大事に思うアクセルはいつだって羨ましいくらい素敵だよ。聖女の私は教会どころか愛国心すらなくなってる駄目っぷりなのに。

もう世界歴千五百年にも関わらず、エルフの敗戦や迫害からリセットしたいアクセルは本当にアクセルらしいなぁと思う。


ガリガリガリガリ!!と聖典製作の倍の速さの殴り書きが今は古代文字じゃなくて共通言語で、ぼそぼそ呟くアクセルの言葉は歴史の本を開いてるようだった。

あぁ、そういえばアクセルが私達と正式に旅を始めた頃は毎日のようにエルフ族の恨みとか歴史とか溢してたなぁと思う。言わなくなったのはいつ頃だろう。アクセルなら、伝説の聖典ももっと私より有効活用するんだろうなぁ。


古代文字も読めるアクセルだし、あの中身も読めるだろう。

もしかしたら本当に、これからアクセルが自分の聖典にかける筈の年月も全て省略してあげることができるかもしれない。私がこうして過去に戻ることができたのも、モイや記憶も神聖魔法の全部を忘れていないのも聖典のお陰だ。

本当に人体にまで干渉できる聖典なら、アクセルの望みも叶うのかもしれない。アクセルが今書いている聖典はどういう理由でも逆行前には挫折したけれど、完成された伝説の聖典ならこの一瞬でアクセルの望みが叶うかもしれないとまで考える。

ちょっと世界の歴史紀元前まで変えそうで、安易に渡しちゃいけない気配はするけれど。でも事情を話して協力してもらえれば、アクセルの身体ももしかすると……



でもそれは〝アクセル〟なのかな。



「…………」

私の知ってる、今目の前にいるアクセルでいてくれるのかな。

私もこうして記憶が残っているし、アクセルも記憶が残ったままやり直すのか。それとも完全に全部書き換えちゃうのか。

私よりも羨ましいくらい上手く聖典を使いこなせそうなアクセルならどれもできちゃうだろう。

アクセルはどんなアクセルでも好きだけど、……私が知ってるこのアクセルが消えちゃうのは嫌だと思う。もう既に、逆行した後で聖典の旅での思い出もアクセルとの出会いも全部なかったことにされちゃったけれど、瞬きした瞬間に今このアクセルがいなくなっちゃうのは悲しい。

だけど、きっとそれがアクセルにとって一番の願いだと。

今はもう、あの夢で知っている。


「エルフ大虐殺からまずは人類大虐殺に変えてやるしエルフから奪った採掘場も奪い返してついでにうちの一族も屑王族共は王族の暗黒歴史ごと抹消してまともな王族だけ残してやる。大体紀元前の大陸大戦だってあと二ヶ月待てば敵三国は魔族侵略で潰れてエルフ族の勝利だったのも今は歴史的に証明されてるんだからそこから絶対変えてやる。あとこのサデュット帝国もな?神聖魔法と神官の規定を無駄に上げたからこうして神聖魔法を使うやつが減ってこんなのが聖女になったんだよ。聞いてるか?お前のことだおまえ!!聖女!おい!聞いてるか?!」


「…………あっごめん、なさい。聞いてませんでした」

「本ッ当良い度胸してやがんなお前!?」

バシンッ!と床を叩くアクセルに慌てて謝りながら、やっぱりアクセルはアクセルでいて欲しいなぁと思う。

アクセルはいつも口が悪いから、これくらいじゃあんまり特別怖い気はしない。ニーロやラウナにだって毎日これくらい怒ってた。それに目の色が戻ってて、本気でないとわかる。

いつの間にかアクセルが書き殴っていた紙は十ページ目に突破する厚みがあった。…………やっぱり頭が良いと、消したり直したい歴史がたくさんあるんだなと思う。

どこまで伝説の聖典で叶えられるのかはわからないけど、こんなにたくさんあってもアクセルが一番叶えたい願いはきっと変わらない。


「ッおらよぉ!ざーーーーっとこんだけだこんだけ!!エルフの歴史も人間の歴史も間違いだらけだクソッ!」

ボンッと、投げつけられた紙束は私に直接じゃなくて足下の床に叩きつける形で渡された。どうしよう、貰って良いのかな。

床に転がった束を拾いながら、汚れてないか両面を撫で払う。投げたとはいっても、結局こうして読めるように書いてくれたアクセルはこの頃から丁寧だったんだなぁと胸が温かくなる。アクセルの字も好きだなぁ。

1ページ目から見れば、ガリガリと書き殴った文字はいつものアクセルの綺麗な字じゃなくて小さくなったり大きくなったり字のバランスもまばらで、字と字がくっついてたりはみ出しそうなところを無理矢理詰め込んだ文もあった。

親切に共通語で書いてくれた字を読めば、半ばエルフ視点の人類の歴史を読んでいるようで、…………うん。やっぱりアクセルにモイのことを明かすのはもうちょっとだけ考えようと思う。本気じゃないのはわかってるけど、せめて外の世界に出てから打ち明けたい。


これはあとできちんと読むとして、アクセルが時間逆行の聖典を手に入れちゃったらすごいことになるのだけはわかった。

聖典の可能性がどこまでかはわからないけど、流石に大陸大戦の勝敗変えたりエルフが大陸支配したりはちょっと今より変えすぎる。

冗談みたいに大きな字で〝人類奴隷化!!〟とか書かれているけど、せっかく奴隷制度自体五百年前になくなったんだし、旅でもアクセルは奴隷制度を「全種族の汚点」って言ってたし、多分実際は奴隷制度自体壊滅しちゃうんだろうな。

多分アクセルも全部が全部本気じゃなくて、私達教会への鬱憤で書いてるんだろうなぁと思う。こんなところに閉じ込められたんだから当然だよね。


「アクセル王子殿下は過去の歴史も変えたいとお考……」

「アクセル」

「アクセルは……あくせ……え?」

急に言葉を遮るように言われて、うっかりそのまま返したけど思わず詰まって聞き返す。あれ?これって名前でってこと??なんで?!

アクセル、聖典の旅で出会った時も自分の呼び方に拘りとかないようだったのに。逆行した今は私も初対面だからきちんとしてたのに。まさかアクセル、王子呼びされるの好きじゃなかったのかなと思いつつ首を捻る。

また書きかけの聖典を開き直したアクセルは、まるで何も言ってないかのように他の文献も次々と開いては傍に置きだした。もう飽きちゃったのか、ガリガリと今度は綺麗な文字で聖典を書き足していく。


「あの、……アクセル王子殿下いまなんて……」

「アクセル。さっきから何度も何度も呼び捨てしてやがったくせに急に戻すな気持ちわりぃ。良い、もうアクセルで」

え?!!!!!??!!!

投げやりに言うアクセルに、思わず大きな声が出た。口を両手で押さえるのも間に合わなくて、聖堂内に声が響く。

アクセルが煩そうに顔を顰めながらペンを走らせる中、私一人が思いきり目が泳いだ。あれ?!私いつからアクセル呼び捨てにしてたっけ?!

思い出そうとしても思い出せない。アクセルとの話に夢中で、うっかり以前の話し方になってしまったのかもしれない。

「ごごごごめんなさい!!」と謝りながら一気に顔の熱が上がっていく。  


うわあああどうしようアクセルから呼び捨て良いよ貰った!!事故だけど貰えた!嬉しい!!!!

旅の道中に会えた時はただただアクセルが王子だって気付くのが遅れたからそのままで良いだったけど!今回はもうそんな風に呼べないと思ったのに!!なんかちょっぴり昔に戻れた気がして嬉しい!


「じゃっじゃじゃじゃあアクセルと呼びますね……?あ、あああの、私のことも良かったら」

「聖女。決闘はあと何分後だ?」

はっ!!と、アクセルの言葉に時間を思い出す。しまった、つい欲を出して時計も気にしていなかった。

うろうろと周囲を見回してもここには時計がない。旅でも時間なんて私は気にしなかったから時計を持つ習慣もなかった。

うっかり夢中になり過ぎてどれくらい経ったかわからない。まずい!ニーロとラウナ待たせてるのに!!

とにかく時計を確認すべく城内聖堂に戻ることにする。


「そっそれではアクセルまた!これ終わったら今度こそ大事なお話もしますから!」

「は?えっ、おまっ?!まさか転移できっ」

失礼します!と、声を上げ、転移魔法を使う。


アクセルが何か言った気がするけれど、気付いた時にはもう城内聖堂に転移した後だった。


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