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純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第二章 聖女の仲間

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13.聖女にとっての相談で、


「どうしましょうアクセル皇子殿下……」

「ッ?!うお!!?いつの間にいやがった雑魚聖女!!?」


転移早々、乳白色の大理石に膝をついて座り込む私に、アクセルから少しびっくりしたらしい声が返された。

皇帝陛下の許可の元、戦技場を用意してもらえることになったものの準備にかかるまでの時間だけでもと一度城内の聖堂に逃げ、……もといアクセルに会いに戻ってきた。


ほんの二、三時間とは言われたけれど、そんな間ずっと教皇様と一緒にいるなんて息が詰まるし、ニーロとラウナの視線も痛くて落ち着いて待ってなんていられない。

城内の聖堂から、転移魔法でアクセルのいる地下聖堂までは一瞬だった。アクセルが封じられているのは聖域で良かったと、失礼ながら今は思う。

聖典の旅でも最後まで一緒にいたのはアクセルだったし、こうやって二人でいると落ち着く。


床に座り込んだ状態から半分ひっくり返ったように私に向き直るアクセルに、私も「突然失礼します」と一礼する。

本当はもっと大事な話をしに来る予定だったけど、後に予定が入っている今じゃ落ち着いて真剣な話もできない。そして今はモイかアクセルしか相談できる相手はいなかった。


「実は、神聖魔法しか使えない身であるにも関わらず、国一番の剣闘士と魔導師と決闘することになってしまって……」

「遠回しに死ねって言われてんじゃねぇのかお前」

「ッですよね?!」

待ってましたと思う回答に、うっかり前のめりに声を張ってしまう。やっぱりアクセルわかってくれた!!

流石は神聖魔法人口も多いエルフ族の王子様!神聖魔法のこともよく理解してる!!出会った時から神聖魔法に私達の誰よりも詳しかったもんね!!夢でもいろいろ知ってたもんね!!?


声が大きすぎてしまったからか、アクセルに大きく喉を反らされた。

口を結んだまま引き攣って、背中まで仰け反らせる。私も両手で口を押さえながら「大きな声出しちゃってごめんなさい」と謝ったけれど、アクセルはまだ私に顔を引き攣らせたままだ。大丈夫これくらいは慣れてる!いつも通り!!!

さっきまで誰にも言えなかった弱音が一気に噴き出してくる。旅中もアクセルはいつだってそうやって正直な気持ち教えてくれるところが大好きだった!!


「わたっ、私っ……神聖魔法しか本当に駄目なんです!使えないんです!!他の魔法は初期魔法すら使ったことなくて……!なのにいきなり二人相手なんてっ……どうすれば良いと思いますか……?!」

「知るかよ降参しろ降参」

「それよりいつの間に入ってきたんだ」と、顔を引き攣らせるアクセルは身体も真正面に向き直ってくれる。

降参という言葉に「できませんっ」と首を左右に振りながら私も一歩分這い寄る。最初から降参して良いなら本当にする!ニーロとラウナと戦うのだって嫌だし、二人同士で争わないで済むなら最初から決闘自体断っていた。

でももう、受けると皇帝陛下にも言ってしまった。教皇様にはいくらでももう嘘もつけるし無視して良いけど、皇帝陛下にはなるべく迷惑もかけたくない。今だって教皇様に欺されているけどすごい良い皇帝でニーロのお父さんで私にとっても伯父さんみたいな人なのに。


「ちゃんと戦っているのを見せないと、……その、私の大事な人達同士で戦わされないといけなくて……。……あの二人が戦ったらどちらも無事では済みませんっ……!」

「随分凶暴な〝大事な人達〟だな」

う゛゛う゛う゛……と、今度は私が唇を結びながら唸ってしまう。

本当にアクセルは羨ましいくらい誰に対しても容赦ない。そんなところが格好良くて堂々してて好きだけど、今は言い返す言葉が出ない。

「降参だろ降参」と気怠そうに言うアクセルは、また本を開いてはペンを走らせ出した。昨日と変わらず聖典製作への余念がない。そういう真面目なアクセルは大好きだけど!!


「アクセル皇子殿下は私よりも神聖魔法にお詳しいと思うので、何か知恵を拝借できたらと思いまして……!」

「降参一択。神聖魔法なんかどうせクソも役に立たねぇんだからそれに固執しただけで負け組だ諦めろ」

「~~~~っ!!!」

あまりに仰る通り過ぎるよアクセル!!!

アクセルの言っていることがその通り過ぎて頬を膨らませてしまう。神聖魔法がこの国で崇高視されてるだけで、その実態をアクセルはわかってる。

神聖魔法は名前ほど万能な魔法なんかじゃない。役に立たないことの方がずっと多いし、なのに習得は難しいし神聖魔導書も古くて解き明かすこと自体難しい!

むしろエルフの国であるハルティアではさほど珍しくもない魔法だったんだもんね?!アクセルだってエルフ族の王族で少なからず使えてた。我が国に来たのも神聖魔法が使えないからじゃなくて、我が国の神聖魔法が突出していたからだ。……それも昨日の夢のアクセルの話だと昔よりその質も低下しているみたいだけど。そんなこと、私も知らなかった。


本当に、アクセルのことも私はわかっていなかった。

ニーロも皇帝陛下と何か約束してたり、ラウナも様子がおかしかったりしたけれど、本当に私は仲間のことを何も知らないままで。

こんな私、やっぱり〝仲間〟じゃないただの〝お荷物〟だ。


「……そう、ですよね」

こんな場所で百年も一人だったアクセルにさえ気付かないまま、旅に出た。

夢に見たアクセルの涙声が頭に響く。夢の中のアクセルは、すごく寂しくて、寂しくて、……全部が怖くて仕方なかった。


ずるり、ずるりと座ったまま猫みたいに四つ足でアクセルの背中に歩み寄る。

眼前の結界に、指先でなぞってみれば水面のように柔らかかった。勝手に入っちゃ駄目だとわかっているけど、背中を丸めてまた聖典に夢中になっちゃったアクセルに手を伸ばす。

魔の要素のない私の手を、水面の結界はつぷりと飲み込みそのままアクセルへと通してくれた。気付かないアクセルに、封印された時のままの服の裾を摘まんで引っ張れば、思ったよりも大きな反応が返ってきた。

ビクッッ!!と大きく身体を揺らしたアクセルが、顔を上げて宵闇色の髪の隙間から私を見る。直後には「うおっ?!」とまるで虫でも見たように自分の裾を掴む私の手をバシリと叩き払った。

そのまま威嚇するように牙みたいな歯を食い縛って丸い目を向けるアクセルに、私も目を合わせる。

勝手に頼りにきた私だけど、…………そうだよね。私なんかよりずっと、アクセルの方が長い間悩んで、苦しんでいるのに。



「ごめんね」



自分でも情けなく眉が垂れたままだと鏡を見なくてもわかった。

一緒に床に座り込んだまま、身体の大きなアクセルの方が頭の位置も高くて見上げる。丸くなったアクセルの目は魔眼じゃない綺麗な金眼だ。それだけで、今アクセルが怒ってないのがわかってほっとする。

アクセルは自分の目が嫌いだといつも言ってたけど、私はこうやってよく覗いた。お陰でアクセルの金色の目をみると、すごく安心した。どれだけ怒っても、意地悪なことを言っても、アクセルが本気で怒ってないとわかるから。

アクセルからは返事はなくて沈黙だけが返ってきた。やっぱり迷惑だったんだなとわかりながら、でも意地悪をすぐに返さないアクセルはやっぱりいつもより優しい。……本当に、アクセルがこんな近くにいたなんて。


もっと、もっと早く知り合いたかったなぁ。


「……相談はやめます。アクセルは、どんな聖典を書いているのですか」

「?!アクッ、おまっ……。…………。……、……ン」

相談なんかじゃなくて、今はただアクセルとお話してちょっとでも癒やされたい。そう思って話題を変える。

アクセルからも急に話題が飛んだからか、言葉を詰まらせるのが聞こえたけれど、最終的には無言で書きかけの聖典を開いて私の方に見せてくれた。……ああこういう感じ、すごいアクセルだなぁ。

無言で静かだけど薬くれたり、食事くれたり、ハンカチくれたり、アクセルのそういう無言の優しいところ大好きだった。

結界にぶつかるくらいの距離まで突きつけられた聖典に、私も顔を近づける。アクセルの殴り書きしたのに綺麗なペンの跡に、数式のような記号がきっと魔導計算式なのだとわかる。だけどどれも昨日と同じ古代文字で読めない。


「術式、ですよね……?どんな、聖典を作っているのですか?」

「俺の身体から魔を強制浄化する術式に決まってんだろうが」

「アクセル専用ということですか?ならアクセルの身体のこととか、そういうのも鮮明に隅々まで書いてあるのですね……」

「…………」

言いながら、指で文字をなぞる。

どこまで詳細じゃないといけないのだろう。アクセルから咳き込むような喉の音が聞こえて、ちらりと顔を見上げた。魔法陣の中にいる以上、空腹もなければ歳も身体を壊すことがない筈だけど……大丈夫かな?

風邪ですかと聞いてはみても、返事はない。ぼしゅんっと小さい音と一緒にとうとう書きかけの聖典が結界の外からまるごと私に押し出された。アクセルの大事な聖典なのに!!


両手で落とす前に受け止められたけれど、良いのかなと心配になる。

間違って持って帰らないようにしようと心に留めつつ、もう一度書面を眺めた。私が見てもさっぱり内容はわからないけれど、緻密な文字の並びは適当なんかじゃないことはひと目でわかった。

腕も足も組んでお説教する前みたいにこちらを見やるアクセルの視線がちょっとチクチクしつつ、また乾いた文字を指でなぞる。

聖典の旅では古代文字を教えてもらうような余裕はなかった。こうしてゆっくりと過ごせる時間があれば良かったのに。

「古代文字、私は全然わからなくて。翻訳するとどんなことが書いてあるのですか?」



「ヘンタイ」



へっっっっ…………?!!

ハッ!!と思わず息を飲み顔を上げる。見れば、ジトリとした眼差しのアクセルが怒ってないけど心底呆れている目に瞼が落ちていた。なんで?!

フーーッと鼻息まで吐かれて、やれやれと困ったように首を振られた。なんだろう、聖典の旅よりもすごい子ども扱いされている気がする!確かに逆行前に出会った時よりは今の方が子どもだけど!!

えっえっと、聖典を床に開いたまま目が泳ぐ。なんだろう、古代文字ってただの古くて難しい文字だって思ったのに、エルフだと何か変なことだったのかな?


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