初めてのお仕事㊺
「とにかく、ルナっちの空っぽの魔力を、補給しなくちゃな!」
タカハシが明るく云うと、しかしルナは目に見えて顔を曇らすのであった。
「補給って・・・?」
あ〜あ〜、なるほどナルホド、そうゆう事ね、俺から直で、ズバババーって輸血される図でも思い描いちゃったのかな? そりゃ〜ショックだわな、特に年頃の若い娘さんなら尚更だ! でも、なんだろう、なんかお父ちゃんの下着だけ、洗濯機から弾かれちゃったような、この虚しさ疎外感は? それでも優しいルナっちは、
「先生の魔力は、私には強すぎるから・・・」なんて、泣かせる事を云いやがる。だから、
「なんか勘違いしてるようだね」と俺、ポケットに手を突っ込んでファイバーたっぷりの小瓶を買うと、そのままポーション草の葉も煎じて調合、ホイっと取り出したのは、異世界とこの世界を結ぶ奇跡のコラボ、その名も『ミラクルマジックポーション』だ!
しかし初めて見る不思議な容器に、なかなか手を伸ばす勇気の出ないルナ、まあ、そうだわな、ついこの間まで、『知らない人から物を貰ってはいけません』って育てられてきたんだろうし。しゃ〜ない、論より証拠、俺で試して見せてやんべか。
「まず俺が飲むからサ、よ〜く見てなよ」
コックリと頷いたルナの前で、片手を腰に当てて一気飲み。ゲプ、と小さなゲップの後で、俺の身体に驚くべき変化が現れた。
先生、歯が! アレ、前歯が生えてきた! じゃあ40で抜けたアレって・・・まさか、乳歯?
先生、禿が! おい、言葉のチョイス、そして悪意!って、フサフサ?
先生、顔のシワが。母さん、僕のあのほうれい線、どうしたでせうね?
先生、お腹が! 1メートル近くあったウエストが、今や半分に? おお、しゃがんでも腹がつっかえない幸せ! ズボンの第一ボタンが、初めて閉まった! 辛い努力は要りません、一日一回、飲むだけで代謝を早め、脂肪を落とします♪と、まるで怪しいサプリメントの広告文だが、とりわけルナとティナの二人にはウケが良い。世界が変われど、容姿に対する女性の執着は、万国共通という事か。
そんな訳で特製ポーションの効能も十二分に示した俺は、とっとと元に戻る事にした。
【タイムゴーズバイッ!】
過ぎた日に背を向けて、時間経過魔法で、ゆっくり時間を感じる。
するとみるみる身体が弛み始め、ズボンの第一ボタンが卒業式も待たずにブチッと飛んで行ったのを手始めに、取り出した手鏡には、恐ろしい勢いで風化していく俺の姿が映るのだった。まるで大きく口を開けた人型の風船(?)を、不意の来客から隠そうと、慌てて空気を抜いているかのようである。と、パツパツに張っていた口元にも、大きく〈八〉と、まるで雪舟が足の指を使って描いたのかと疑いたくなるほどの、リアルなほうれい線も現れて・・・で、そろそろかな。
【ストッピング!】
全ては感覚だ、そこいって2〜3歳ぐらいの誤差はあるのだろうが、マイナンバーも無いこの世界だったら、大した問題も無いだろう。俺は頭上の、悲しみは雪のように降り積もった抜け毛の山を振り払うと、グラグラする二本の前歯も思い切って引き抜き、そしておかえりなさい!再び懐かしい自分とまた笑って会えたのだ。
なのに、俺の満足とは裏腹、若者たちからは軒並み不評で、
え〜、ナニ戻しちゃってんのよ〜、絶対アッチの方が良かったのに〜、と何故かティナから責められる始末で、それに対し俺は、アレは昔の自分で、過去に縋るのは未練がましい男のする事なのだ、と少しは先生らしいところも見せたのだが、やはり子供ら全員から今の自分が批判されるという苦境には耐え切れず、いいだ、俺はこの、自分勝手なオッサンっていう、ありのままの姿を好きになってくれる人しか、信じないし、好きにならないって決めてんだからッ!と、子供らを前に子供よりも見苦しい言い訳をするのであった・・・
先生、とティナ。
ウン?と、取り乱した事で、バツが悪そうにタカハシ。
ドンマイ。って何が? タカハシの困惑をよそに、小さな拳をギュッと握って励ましてくる。
なんでそんな、憐れむような目で・・・まさか俺の不幸って、両手でも足りないくらいなの?
「そうそう、」と不意に、リーダーが何かを思い出したように、「獣人族の女性たちは、見た目よりも、戦闘力で旦那を選んでるって、確か聞いた事がありますよ!」
てかもう、普通に『見た目』って、云っちゃってるし・・・




