非常事態❿
長い寄り道になってしまいました・・・(笑)
そこからは嵐のようだった!
で、今さらなんだけどさあ、とおれ、片付いたリビングでハッピーターンを剥きながら、これまでの事、ホントにただの偶然だと思ってる? 何だ、急に何云うだ?と父ちゃん。だって、スカイツリーも都庁も、他に行くトコなんて幾らだってあったろうし、どうして2つとも俺ん家を狙ったように落ちて来たのさ? そ、そりゃまあ、何かしらの理由が在ったんづら、答えになってない父ちゃん。その〈理由〉ってさ、ひょっとしたら、おじちゃんなんじゃないかな? ヘッ、兄ちゃん、何云ってんの? カンナの大声で空が目を覚ました。
父ちゃんだって、薄々おかしいって思ってんじゃないの?ヨチヨチと空の頭を撫でながら、1つだって大ごとなのにさ、それが2つ同時なんて、ゼッタイ普通じゃないよ、偶然じゃないとしたら、それをやった誰かが居る訳じゃん? まあ、そうづらな、と苦しい顔の父ちゃん、アイツも、いつまでも子供みてえなトコがあったでなあ・・・んだども、アイツに出来るのはせいぜい妄想ぐらいだぞ。その〈妄想〉が、現実になったとしたら?とおれ、あれだけ近くに警察や自衛隊が居るのに、誰一人として土地の所有者んトコ来ないのって、おかしくない? ま〜、云われてみりゃなあ。ひょっとして政府はもう何か知っていて、だからおれらの扱いに慎重になってるんじゃないかな、行方の分からないおじちゃんが、実家に潜伏してるんじゃないかって。お前、アニメの見すぎだわ、父ちゃんは笑っておれの頭をクシャクシャした、不安な時に限って、おれを子供扱いしてくるのだ。でも・・・
「最初の訪問者で分かるよ」
「何が?」
「アレをやったのが、おじちゃんかどうか」
「???」
父ちゃんが3本目のビールを開けた時、家の前に、10台近い黒塗りの車が止まった。
ヤバい、将太の云う通りだ、政府の連中、ワシらを殺しに来やがった!
落ち着いてって! 全く、我が親ながら情けない、殺すつもりだったら、もうとっくに俺らなんか死んでるって、第一、こんな目立つ登場なんかしないって!
お、おお、そうかそうか・・・そうだよな! 途端に元気になると、
これはようこそ、わざわざこんな田舎まで、さぞかしご足労の事でしょう、と見ていて恥ずかしいほどの揉み手で出迎えるのであった。
タカハシ・・・さんのお宅でしょうか? 皺一つ無いスーツの男が訊いてきた。
はい。
✕✕さんと云うのは?
ああ、それは、私(!)の弟です。
まさか・・・ご在宅なので?
いえいえ、弟は東京で暮らしてますんで。
ホッ、それは良かった。心から安堵したように云う。
それで、今回はどういったご要件で?
突然で恐縮なのですが、高橋さんの持っている田んぼと畑を、国で買い取らせて頂く事は出来ないでしょうか?
ホレ来たッ!と言葉にこそ出さなかったものの、動作と表情で父ちゃんの考えてる事なんか丸分かりだ、が、こんな分かり易い男に大金の交渉なんかが出来るのだろうか、最悪、脅されてただ同然で国に没収されちまうんじゃなかろうか、全てはここに居ない〈おじちゃん〉の御威光如何に懸かっているのだ。
取り敢えず、立ち話も何ですし、狭苦しい兎小屋みたいなとこですが、どうぞどうぞ、上がって下さい。
代表の3人を前にして、意外にも父ちゃんは落ち着きを見せていた。昼間の缶ビールが、良い方向(?)に向いたのかも知れない。母ちゃんが震える手で置いた来客用の高いお茶を飲むと、ゲップとセブンスターの煙で皆にセイ・ハロー、
もちろん、国に協力したいという気持ちは山々です、しかし江戸時代から十代続けて守って来た土地、さすればさすがに、私の一存では・・・って、せめて一つぐらいは真実を云おうよ!
分かってます分かってます、相手は恐縮して、ですので、我々としても、ご主人にはご希望に沿った金額を用意させて頂きたく・・・
はは、いきなり『カネ』の話ですか。
これはっ! 大変失礼しました。
まあ宜しい(何が『宜しい』の?)、ところで・・・と父ちゃんは新しい煙草に火を付け、メジャーへ行った、あのショーへー・オオターニという男、彼は全く、この日本国の宝だとは思いませんか?(父ちゃん・・・ドコへ?)
は、ハァ、確かにそうですね。(困ってるゥ!)
でしょう? 何と云っても二刀流という、打って良しまた投げても良しと云うんだから素晴らしい。そこで私、思った訳ですよ。
は?(驚いてんぞ!)
私の土地に出来たスカイツリーも都庁も、正にこの二刀流と同じなんじゃあないかと。(どゆコト・・・いやマジで!)
な、何の話を・・・(だろうな)
彼の契約金はご存知かな?(ん、まさか・・・)
確か、日本円で1000億とか・・・
ほう、さすがですな?(って、日本中が知ってるわ!)そこで私も考えた訳です、海を渡ったサムライボーイと、同じ手柄を立てたとなれば、安土桃山時代から十五代続いたあの土地を手放しても、それならばとご先祖様たちも納得して下さるのではなかろうかと・・・(知ってる古い時代を云っただけだな、さっきは十代って云ってたろ!てか、あの田んぼと畑を手に入れたのって、昭和かギリでも大正だよね?)
じゃあ、1000億で譲って下さるのですね!(ってキタょーッ、『どうせ税金だし〜』のお役所仕事の錬金術ーッ!)
あ、ちょっと良いですか?(父ちゃん、ヤメロよ、ヘタに欲かいて、奇跡的に上手くいっている交渉をパァにする気か!)こうゆう〈ご祝儀〉に、割り切れる数字とゆうのも宜しくないと思うので、いっそ1003億円にするというのはどうでしょう?(1001はどしたー、てか、『いっそ』の使い方がおかしいだろ! それに単に3億って、俺ら3人兄妹に渡す分を思い出しただけじゃねえかよ、ヤっロ〜、意地でも1000億を塊で手に入れるつもりだな!)
全然構いませんとも(アンタもちっとは構えよ!)、口座に振り込ませて頂きますが、金額も金額なので、何なら分割で・・・
いっくわつでッ!! 父ちゃんに迷いは無かった、もはや清々しく見えるほどだ。
はい、あなた、と母ちゃん。キレイに三つ指をついて、父ちゃんに通帳の束を手渡す。(オイ、さっきまで手ぇ震えてたろ!)
子供らの通帳に1億ずつ、残りの1000億を、私の口座でお願いします。
いえ、通帳は結構ですよ、コチラでお調べして、遅くとも1週間以内には振り込ませて頂きますから。悪い顔で声を落とすと、こういったお金ですから、お互い面倒な証拠も残らない方が宜しいでしょうし。
はははは、公務員様も大変ですなあ。
いえいえ、農家の皆さんほどでは、オホホホホと、代官に饅頭を渡す越後屋か!
アホらし、おれは頭を冷やそうと、一人2階のベランダへと向かうのだった。
連中を見送った父ちゃんが、鼻唄混じりでやって来た。ベランダの手すりに凭れて、見るとはなしに、遠く北アルプスへと目をやる。
やっぱ・・・おじちゃんだったね。
ああ、今頃何してるだかな、空に向かって怪獣のような白い煙を吐く。
煙草貰える?
作業服の胸ポケットから、皺くちゃのセブンスターを出すと、100円ライターで火を付けてくれた。正面がのどかな分、背後から聞こえて来る地獄のような喧騒は異様で、それがキッカケで封印された扉が開くんじゃないかと思われるほどだった。
父ちゃん、ビールもいい?
おう、飲め飲め、取り敢えずお祝いだい! 飲みかけのビールを手渡す、おや、さっきまでの発泡酒じゃない、盆と正月にしか飲まない銀色のビールだ。
北アルプスから視線を落とすと、いつもと変わらない室山が見えた、父ちゃんがおれの視線に気付いて、
国敗れて山河あり、とは良く云ったモンじゃねえか、とオツな事を云ってくる、しかしすぐに、だけど俺らにゃ、金があんだけどな、ヤッホーイッ!ホーイ、ーィ、ィ・・・。山彦までもが笑ってる、一瞬たりとも心を動かしたおれがバカだった。
ね〜、父ちゃ〜ん。
何だ〜?
おれ、酔ったカナ〜?
どして〜?
だってさ〜、ホラ、アレ見える〜?
お〜・・・見たくねえけど、見えてるぞ〜。
じゃ〜、やっぱアレ、おれの妄想なんかじゃないんだね〜・・・
室山の上空で、気まぐれに火を吹き、トンビのように輪を描いて飛び回っているのは・・・
伝説の怪物、ドラゴンだった。




