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非常事態❾

 一番近いスーパーは、車で5分で行けるデリシアだ。一滴でもガソリンを節約する為に、先に買い物の方を選んだのだ。道中、カンナが黒塗りのボクシーで、笑いながらおれの軽を煽って来るので腹が立つ。

 意外にも店内は空いていて、一番の懸念だったトイレットペーパーと水も、充分な量を確保出来た。一旦全員で駐車場に戻ると、軽トラの荷台へと荷物を積み込む。

じゃあ、カンナはここで、見張りを頼むよ。おれは妹の空カートを引き取ると、空ちゃんに向かって、お菓子買って来てあげるで、待っててネ〜。

ハァ? 『見張り』ってチョット! 水やトイレットペーパーなんか、盗ってくヤツなんかいないっしょ!

あ、バカっ!

おれは慌てて、カンナの口を抑えようとしたけれど、万事全ては遅かった。

ザワザワ・・・

 カンナのデカい声を聞いて、買い物を終えて、帰るはずだったファミリーたちの動きが止まる、自転車で今日一日の惣菜だけを買って帰りかけていた老婆などは、タイヤを泣かしながら引き返して来る始末、スマホを取り出した連中は、思い付く限りの応援部隊に、出動要請を打診しているのだろう、さ〜て、戦争が始まった!

ゴメン、兄ちゃん、何だか分かっちゃった、カンナは素直に謝ると、ここはアタイと空とで死守するから、行って来て!

 何だかB級映画のワンシーンのようだなと思いながらも、任せたぞ! おれは2台のカートを押して駆け出した。オムツと粉ミルク忘れないでーっ、と背後からカンナの声が追って来る、あれでもやっぱり、母ちゃんなんだな、思わず頬が緩む、あとアタシのナプキンも〜ッ! おれは危うくコケそうになった・・・


ハァハァ、ゼェゼェ・・・✕3。

で、どうだった〜? のほほ〜んとカンナ、タバコを吸いながら。見りゃ分かんだろ、地獄よ地獄、中はトイレットペーパー1個を巡って、殴り合い寸前の状況だよ、誰かさんのせいでね! カンナの後部座席にオムツを放り込みながら。コッチはどうだったよ? うん、最初は何回も父ちゃんが来てたし、その後で何人か、空カート押しながら軽トラに近付くヤツが居たから、アタイの車のクラクションで追い払ってやった。って、笑って云う事か? ムム〜、やはり女は強し・・・

それにしても、急に入って来る車が多くなったよね〜、ベビーシートに空を括り付け。ああ、紙一重だったべ、おれは父ちゃんと母ちゃんの空カートも引き取ると、店の入り口で鬼のような形相でカートを探している一団の方へと勢いよく転がしてやった。


ホラ、早く乗れ乗れ、醜い争いが始まる前に、さっさとガソリン入れ行くぞ!

アイアイサーッ!って笑ってコイツ、またおれの車にピッタリ貼り付くつもりだな・・・


 外では避けられた〈醜い争い〉は、実は家に帰ってから待っていた。

何だい、父ちゃん、こんなモンばっか買って! 軽トラの荷台を見て、何やら母ちゃんが騒いでいる、いや、怒っているのか。

 おれも気になって荷台を覗き見、どれどれ、いったい父ちゃんは、何をそんな買ったんだ? トイレットペーパーとティッシュによる、姑息なカモフラージュの下から出て来たモノは、500ミリの缶ビールが3ケースに、煙草が3カートン、焼酎の大ペット2本にウイスキーの大ペットと、紙パックの一升入りの日本酒が3本、おまけにツマミが数十袋というのはご愛嬌、と云ったトコ。スタンドに止めた父ちゃんの軽トラで、やたらゴロゴロ云ってたのはコレだったのか・・・

って、父ちゃん、自分のモンばっかじゃん! 双子でもないのに、カンナとおれが見事にハモった。

4台分のガソリン代出させといて、何云うだね!と醜い逆ギレ。だったら父ちゃんは、酒と煙草だけで10日間やってけるだね?とジト目で母ちゃん。あったりめーよ、俺の身体はビールと煙草で出来てるだでな、って、聞くだけで健康に悪そうなんだケド。

 父ちゃんがいそいそと小屋へと酒を仕舞ってる間に、俺らは家族の必需品を家の中へと運び込んだ。

 結果、リビングにはちょっとした小山が出来上がった。食パンに始まり、菓子パン、饅頭(仏壇にもね!)、羊羹(最後の手段だ!)、乾パン、(これが一番人気だった)肉と魚とフルーツの缶詰✕100、ビスケット、粉ミルク、カップラーメン(水でも作れるらしい)、インスタントラーメン(砕いて粉末スープを掛ければ、あのラーメンのようなオツマミに)、スナック菓子、トイレットペーパー、ティシュ、ミネラルウォーター、レトルトカレー、パックライス、お粥、ソーセージ、チョコレート、単三乾電池、紙おむつ、ライター、ローソク、そして空には大好きな(と云うか、実質コレしか食えない)たまごボーロ!


お、カンナも2階行って、スカイツリー見ねえか? 小屋から戻った父ちゃんが、ご機嫌を伺うようにカンナに話し掛ける、って、さっそく1本開けてるし!てか、父ちゃん飲酒運転じゃん!

もう良いよ、アレ見てると何だか、頭痛くなって来ちゃうし。

ホレみましょ、あんな罰当たりなモン、やっぱ見るモンじゃねえだわね、こうゆう時ゃあ、ウチで家族でじっとしてんのが一番だだね、珍しく娘と意見が合ったので、母ちゃんは上機嫌である。しかし調子に乗って、抱いている空に向かい、ね〜♪と笑いかけたら、豪快に泣かれてしまったものだから、敢え無く空の占有権を奪われたのだ・・・


 空の小さな口にたまごボーロを入れてやりながら、アタシにも何か頂戴よ、戦利品を選り分けているおれに手を伸ばして来る、ホイ、朝までチョ〜安心、ビターンッ! ハウッ!? 元テニス部の、カンナの逞しい手で思い切りビンタされてしまった。男のおれにこんなモン買わせといて、それのお礼がコレってか? しかし力では敵わないので、1万円近くの駄菓子の詰まったパンパンのレジ袋を前に置く、ヤッターッ! 二人羽織みたいに空とバンザイをして、こんなお菓子見るとサァ、なんか遠足ん時みたいで、楽しいよね! 手放しで喜ぶ妹に、カンナ、おやつは一日、500円までだだでな!とここは兄として厳しく。

え〜、そんなの、きのこの山2つ買ったら終わりじゃん。

って、充分だろヲイッ!


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