非常事態⑨
「よし、そうか、ご苦労」電話を切った官房長官が説明する、「皆さん、良い報告です、問題の土地を所有者が手放してくれました。これで我々は、いつでも攻撃が可能です!」
「いったい、幾ら使ったんだね?」
「ホンの1000億で了承してくれたそうです」
「何だってそんな大金を!」
「大金? もし親族に何かあったら、バケモノはもっと大暴れするのですよ、首都を壊滅させられると思えば、1000億なんて屁みたいな金額だ!」
・・・
「考えてもみなさい、次に奴が現れた時、もし我々が彼の身内に危害でも加えたと知られようものなら、ヤツ・・・タカハシは、どんな非情な行動に出るでしょうか? それを考えると、私は子供のように怖くなるのです、この私が、怖くて震えるんです!」
「確かに、賢明な判断だったようだな」
「安心して下さい、先方は好印象だったとゆう事です、少なくとも今は、ヤツは我々と敵対してないのです、それが一番重要な事です」
そしてようやく、岸谷総理の緊急事態宣言が発表された。
黒いカーテンと日本国旗をバックに、記者団を前にした岸谷首相が、緊張した面持ちで原稿を読み上げる。
「え〜、たった今我が国は、何者かによるサイバー攻撃を受け、防衛省のシステムがハッキングされた結果、誤って二発の迎撃ミサイルが発射されました」
「そのミサイルはどこへ」会見場がざわつく。
「一発は東京都庁、もう一発はスカイツリーと確認されております」
「現場は? 生存者は居るのか?」
「残念ながら、非常に厳しい状況であるとしか・・・」
政府のやり方は強引だった。
6日に長野に消えた筈の都庁とスカイツリーが、本日8日に爆撃されたと国民に云い聞かせたのである。全くデタラメもいいとこだが、しかし少しでも反骨精神のある人間たちは既にあらかた始末された後だったので、こんな馬鹿げた放送に誰も疑問の声を上げようとはしなかったのである。
『国がそう云ってんだから、間違い無いよな、そういや昨日だって、スカイツリー見えてた気もするわ』
と云った訳で、政府は三郷村に待機させていた30両の戦車と、普天間と横須賀からスクランブルさせた3機の戦闘機を使って、都庁とスカイツリーに同時攻撃を加えたのである。
息着く間もなく100台の重機が瓦礫の山を取り囲み、これも待機させていた30000台のダンプカーに人間ごと積み込むと、たちまちにして中央自動車道には長い渋滞の列が出来たのだが、都内には徹底した戒厳令が敷かれていたので、徐々に瓦礫の積み上がるスカイツリーと都庁の跡地を目撃する者は居なかったのだ。
一方、情報統制は現場では自衛隊、内では超能力集団が執った。前者は武力行使によるデモの殲滅、後者はSNSの徹底的な監視。特筆すべきは、この集まった3人の子供らで、彼らは頭に繋がれた電極を通して、意識ごと直接ネットワークの中へと入れるらしく、特定した色のような波長を見つけると、即座に政府のマザーコンピューター富嶽へとアクセスし、その犯人の情報を頼りに地図アプリを見ていた別室の少年が、ピンポイントで念を送って心臓を停止させるという離れ業であった。ネットワーク上には殆ど時間の経過といった概念が無く、沖縄の配信者とブラジルの配信者が同時に亡くなるというのは我々にとっては新たなる脅威でもあった。




