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非常事態❼

 スカイツリーを中心にして蠢く人々の群れは、それ自体が闇のカーニバルのメリーゴーラウンドのようで、怖いはずなのに、見てると何だか、自分まで仲間に加わりたい気持ちになってくるのだった。

「危ない!」窓に額をぶつけて、自分が窓から飛び降りようとしていた事に気づく。あの集団の中に、きっとこの遠心力を作り出している、悪い魔法使いでも潜んでいるに違い無い。

 もはや外で起きているのが災害なのか幸いなのか、実際のところおれにも分からなくなってきた。

母ちゃんは? 偶然にも外の魔法から解けたおれが、父ちゃんの肩を揺さぶって訊いてみる、あんなのをずっと見続けていた日には、遅かれ早かれ頭のネジがやられてしまうに違いない、あ、ああ、怖いってって、布団かぶって寝てるぞ、と曖昧に父ちゃん、放心していたような無表情から、徐々に普段の父ちゃんへと戻ってゆく、そして気つけ薬のようにグビッとビールを一口飲むと、母ちゃんにも知らせてやんなきゃな! 引き剥がすように窓から離れると、慌ただしく階段を下りて行ったのだ。


 すぐに玄関の戸の開く音が聞こえたので、下を見ると、サンダル履きの父ちゃんが、自転車置き場へと向かうのが見えた。おれは急いで窓を開けると、父ちゃん、どこ行く気?

おお、ちょっと様子見て来るわ!

ダメだって! (まだ魔法が解けてないのか?)おれは真剣に引き止めると、殺されちゃうよ!


 リビングに集まったのは、おれと父ちゃん、それに母ちゃんだ。

「父ちゃん、裕太と・・・それからカンナにも、連絡取っといた方がよくねえかい?」母ちゃんがスマホをいじりながら云った。

「おう、さっき掛けてみたけど、電話繋がらねえんだわ」父ちゃんがテレビをザッピングしながら、「クソ、どのチャンネルも同じだな、見ろよ、せっかく台風で寝なかった稲も、モグラに食われなかったジャガイモも、ぺっちゃんこじゃねえか!」スカイツリーと都庁に押し潰された田畑の映像を見て、父ちゃんは悔しそうにテーブルを叩いた・・・いや、笑ってる!? 父ちゃん、まさかおかしくなった?

「ばか、そうじゃねえわ!」真顔になると、いきなり、「おい、百瀬さん家が急に金持ちになったのは、覚えてるだろ?」

「え、ええ、」キョトンと母ちゃん、「棟上げの餅まきん時に、カンナと行ったけど、新車のクラウンの上に餅を置いたら、えれえぐざられたで、腹立ってすぐに帰って来ちゃった。昔はあんなじゃなかったにね」

「高速道路成金ってヤツだ、」父ちゃんはマジメな顔で、「たまたま百瀬さん家の田んぼに、高速の橋脚が立つって事で、国から億ってカネを貰ったらしいぞ」

「そりゃ知ってるけどさ、それがどうしたって云うだい?」

「ニブいな、ホレ、俺ん家の田んぼにも、公共事業がやって来てくれたじゃねえか!」

「あっ、スカイツリー!」と母ちゃん、「都庁!」とはおれ。

「そうだ、考えてもみろ、高速道路の橋脚1本で何億もくれるだぞ、それに比べて、こちとらは御本尊(?)と来たモンだ、そりゃも〜、桁も違うってハナシだべ!」両手で牛の乳でも搾るようにワナワナと、まるで、もう既に札束を掴んだかのような勢いである。それを冷めた目で見ているおれに気づくと、「何だ、将太は嬉しくねえだか? これからは堂々と胸張って、ニートが出来るだぞ。売りゃあ、そこいって数十億は入るだで、オメーにだって、一億ぐらいはやるだしな」

「やったね父ちゃん、明日はホームランだ!」

「ハッハッハ、こ〜いつ〜、現金なやっちゃな〜」だからヤメてくれ、子供扱いしておれの頭を撫でるのは。


 おれもそこそこ調子良いな、でも、ニートはお金にゃ弱いんだ。

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