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初めてのお仕事㉔

「いいか、お前ら、次の昼休みまでに、各自ポーション草10本だ、出来なかったら昼休憩はナシ、もちろん伍の仲間は連帯責任、1時になってもダメだったら・・・」ナベちゃんは転がってる男たちとカナタを交互に見ると、「今度は手加減出来るかどうか、分かんねえからな!」


 そんな訳で休憩時間は短くなってしまったのだが、とりあえず最初の場所にブルーシートを広げて俺たちがくつろいでいると、倒れ込んでいる仲間を何とか助け起こした他の連中が、トボトボとコチラにやって来るのが見えた。きっとリーダーたちの本性を知って、少しでも離れた場所で休憩を取りたいと思ったのだろう、カナタたちはそれを見て、ただニヤニヤと笑っているだけだ、どころか持参した焼串肉と皮袋のワインで、堂々と酒盛りを始める始末、それを見るとタカハシは、本当にこちらの派遣は何でもアリだなと呆れる反面、不謹慎ながらも何故だか心が軽くなるのも覚えるのだった。少なくともここでは、元の世界のような、日々不完全燃焼のようなストレスを感じる事だけは無いだろうーー


午前に一回だけの休憩時間

作業場横の長いすに座って、項垂れてただ時間を潰すだけの派遣の仲間たち

遠い喫煙所までの往復、そしてトイレと自販機で買うコーヒーの時間で、どんなに手際よくやっても、いつも5分は持っていかれてしまう

まるでガス室のような一室に押し込まれ、浴びるように煙を貪る姿は、遡る事ホームズの時代、イースト・エンドに出てくる阿片窟にも近しい

チャイムに追い立てられるようにして作業場に戻ると、ナベちゃんやカナタのような孫にも等しい齢の社員がお待ちかね

5分前行動、と感情を失くした声で

作業を始めたタカハシの背後から、無言のまま見つめるというプレッシャーを与えた後で

もう少し、作業のスピードを上げましょうか?

ノートPCを覗き込みながら、決して顔を見ようとしない

せめて1分間で2回、梱包して流してくれないと、勤務怠慢と取られて、トレーニングの対象になりますよ

(だったらテメエが・・・!)

もちろん、口には出さない

ただ、昼までの2時間、狂ったように手足を動かし続けるだけだ

若造の社員が、俺ら派遣のリーダーと何やらヒソヒソ

ちょっと、タカハシ君

ホラ来た! それにしても、10代から『君』呼ばわりされる日が来ようとはな!

社員の野郎に何を吹き込まれたか知らないが、午後からは梱包よりもキツい仕分けへと配置替え

これこそこまねずみだ! 流れて来た荷物を台車に積み上げて、並んだカーゴへと運んでゆく

ピー、ピー!

仕分けが間に合わず、コンベヤが止まって騒ぎ立てる

詰まってるよっ!

分かってるわっ! ピッキングに増員をかけといて、何をわざとらしい!

夕方、タイムカードに並ぶ元気も無く、喫煙所で死んだように煙草をくわえる

見るとはなしに覗いたスマホに、今日の歩数50000歩と出ている、吐いた煙が魂ではないかと、慌てて引き戻そうとしている自分が可笑しい・・・

それでも交通費を浮かす為に、帰りも自転車を漕ぐ

職場から一番近いコンビニで買ったビールを、店の脇に直に座り込み、缶の尻を天に向けて、一気に流し込む!

生き返る!!

夏場に工場から、カラッカラになって帰って来た親父と、同じ事を云っている

小学生だった俺は、コーラを飲みながら、不思議そうに眺めてたっけ

半分ほど一気したビールが美味くて、自然と涙が浮かんでしまう

駐車場の前の歩道を、駅へと急ぐ派遣社員たちを、煙草の煙で見送る

まだまだ、激安スーパーに寄って、値引きシールの争奪戦が待っているのだ

それにしても、俺が右手に持った、この缶ビール1本よりも安上がりな夕食なんて・・・ねえ! 信じられるかい!?

お、とっつぁんだ!

と、見慣れた声が響く

シルエットだけでも分かる

これまでいろんな現場を渡り歩いて、遂には一方に傾いてしまった、使い込まれすり減らされた、商売道具のような身体・・・

山ちゃんだ

タカハシよりも安い発泡酒を抱えて戻ると

カンパイ!

今日は若い連中と一緒じゃないの?

今日はゆっくり休むとか云ってたべ

酒も飲まずに、ストレスとかどうしてんのかね?

山ちゃんはヤラしい笑顔を浮かべると、右手をゆっくり上下に動かす

一番楽しい、そして短い時間の始まりだった・・・

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