追放③
「ようこそお出で下された、勇者の方々よ!」
不意に重々しい声が響くと、これまで騒がしかった貴族たちがピタリと口を噤んで、規則正しい列へと戻って行った。そうして出来た赤い絨毯の通路を、両脇に衛兵を従えてコチラへと近付いて来る人影。
「王様、召喚の儀は成功ですぞ」迎えた老人が、かしこまって云う、「召喚された3人、ヒロシ様は勇者、アスカ様は賢者、そしてアヤナミ様は魔法使いと、それぞれに神からの祝福も与えられております」
「そうか、でかしたぞ。これで魔王軍の脅威も、幾らかは和らぐと云うものだ」
「アンタが王様か?」すると空気を読まないハーレム野郎が、いきなり王様の前に立ちふさがり、「勝手に俺らに、何しちゃってくれてんだよ!」
慌てて間に入った鎧の兵士に、
「ジャマだ、モブは引っ込んでろっ!」
ガシャッ!
嫌な音に驚いて見ると、何とハーレム野郎の拳が、兵士の腹を鎧ごと突き破っているではないか!
「ははは、コリャ面白ぇ、これが勇者様の力ってヤツか!」引き抜いた腕から滴る鮮血を、細い舌を伸ばしていやらしく舐めると、「じゃあ、魔王とやらの前にサァ、まずはお前ら全員皆殺しにして、俺がこの国の王様になってやんよ!」
「この無礼者が!」
「王様をお護りしろ!」
それからは上を下への大騒ぎ! 勇者の加勢とばかり、使い方も分からない魔法を連発して広間を破壊するアスカとアヤナミ、慌てて王様に結界を貼る魔道士、拾った兵士の剣で5つの首を同時に刎ね飛ばす勇者、悲鳴を上げてその場で腰を抜かして失禁する貴族、拘束の鎖や炎に氷に雷と、ありったけの魔法で勇者一行を押さえようとする魔法使い、結果、勇者たちは首輪を嵌められて大人しくなったのだが、その場に居合わせた半数は帰らぬ人となってしまった。
「ちくしょー、何だよこの首輪は? クッ、力が出ねえ、オイ、俺様をどこへ連れて行くつもりだ!」
兵士らに抱えられ、騒がしく部屋を出て行く勇者一行を見送ると、老人は大きなため息をついた。
「ヤレヤレ、とんでもない狂犬じゃわい」そして勇者を取り押さえた大男に向かうと、「助かったぞ、騎士団長殿」
云われた大男は頭を下げると、
「いえ、大賢者様の拘束魔法のお陰です。王様は、ご無事で?」ってか、あのじいさん、大賢者だったのかよ、それに騎士団長って・・・《モフ耳》じゃん!
「ああ、」王様は未だ眩しい結界に守られたままに、「しかし毎度の事ながら、異世界人とは厄介な連中ばかりじゃのう」
「はい、やはり身の丈に合わない力に、弱い心が負けてしまうのでしょう」顎髭を擦りながら大賢者が応える。
「まあ、おいおい馴らしてゆけば良い事じゃ、何であれ、あれほどの力は、やはり貴重なのじゃからな」無言で運び出されてゆく遺体を見つめながら、王様が苦々しく云った。