初めてのお仕事⑮
嗚呼、俺は白馬の王子が憎い!
どうやらそいつは男からも人気のある奴らしいから、元の世界で松尾さんの心を奪った上島のような、サッカー部のキャプテンタイプの、クリスティーの小説に出てくるような色黒な好青年に違いない! いいかい、よおくお聴きよ、たいていはその好青年というのが、真犯人なんだぜ!
幸い、タカハシの心の叫びは、シノちゃんには届かなかったようで、屈託ない表情の彼女は、更に迂闊な質問でタカハシの心を惑わしてくるのであった。
「ところで、なんでわたしに、あんなにしつこく〈いやがらせ〉をしてきたの?」女とはこうゆうものだ、意識せずにウブな男心にナイフを突き立ててくるのだから始末に追えない。
〈いやがらせ〉・・・か、そうか、中学の頃の松尾さんにも、気を惹きたくてした、下手なジョークも俺の行動の一つ一つも、そうゆう風に見えていたのだろう。
しかし、そんな悲惨な少年時代を経ても尚かつ、それをバネにして、還暦を過ぎた今でさえ女学生たちからチヤホヤされている秋元康史という強者も居る、しかも俺のようなインチキな加護も無しにだ!
それを見ると、やはり自分の努力不足というものも思い知らされる、スポーツも勉強も、ましてや音楽など、何一つとしてマジメに取り組んでこなかった結果が、還暦無職という寂しい人生の土台になってるのは間違いない。それを、たまたま異世界で初恋の人を見掛けたからといって、ワンチャンやり直せるなどとトチ狂うとは、まるで自分から何の成長も反省もしてないと証明しているようなもんじゃないか!
そんな葛藤もあってか、タカハシは口調を改めると、
「俺が若かった時に、好きだった娘さんに、たまたま君が驚くほど似ていてね、だから年甲斐もなく舞い上がってしまったんだ・・・迷惑だったかな?」
「うん、すっごい迷惑だったし、気持ち悪かった!」
・・・(ポキッ)
2人が笑いを堪えているのが分かったので、俺は敢えて振り向く事はしなかった・・・とんだブルージン・ピエロもあったもんだ。
既に心の折れた俺に云う、
それに、何をされても反撃しないって、アレは命懸けで戦った相手に対して、失礼よね。
君が女だったからね。
最初は男だったわ。
それでも、初恋の相手に似ていた君を、傷付けるようなマネはしたくなかったのだ。
それってまるで、最初から女の方が弱いって決め付けてるみたいで、一方的だし、ひどく傲慢ね!
そんなつもりは微塵も無かったのだが、そう見えたのなら謝るよ・・・まあ、出産に子育てもあるし、単に女性を守りたいというよりも、結局は自身も含めた家族を守ろうとする牡の意識も、古い人間にはあったんじゃないのかな? でも、さすがにシノちゃんを見ていたら、自分もこの古い考えを改めなくちゃと思ったよ、こんな強い女性を、守ってやろうだなんて、どうやら俺は、とんだ勘違い野郎だったみたいだ・・・すると、
「おいおい、もういいかい?」と、伍長のクリちゃん、「このままだと、僕がカナタから鉄拳制裁を貰っちゃいそうだからね、まずは仕事優先で頼むよ、それとも誰か、僕の代わりに、カナタに殴られてくれるかい?」




