初めてのお仕事⑬
な、なんてヤツらだ・・・って、しかし、まあ、良い良い、それで良いのだ! このまま、どうぞこのまま、むしろこのままで・・・当時はフォークダンスで、まるでばい菌でも触るようにして俺の指を摘んでいた松尾さんが、今はどうだ! こうして背後から俺の事を抱き締めてくれているではないかッ!? これ以上に嬉しい事ってあるか? いや、無い無いッ、16ンッ!! 首すじに食い込んだナイフこそご愛嬌だが、正直俺は今、ラオウの最期をも超えた正に幸せの絶頂だった、色が褪せるまで口付けた修学旅行の写真などとは比較にもならない、生身の彼女の温もりが、今の俺の背中にはあったのだ!・・・ん、『あった』のだ?
ん〜ん?
すると突然、タカハシがその幸せの絶頂で変な声を出した。それが余りに唐突だったので、ショウちゃんに借金を頼み込んでいたトミちゃんも、思わず振り向いて、おい、どうした、とっつぁんよ、面白え声出して。まさか恐怖で、頭さおがしくなったのけ? ふふ、『おかしくなった』か、確かにな、恋とは常に、人におかしな事ばかりさせるもの、が! コレは違う違う、そうじゃ、そうじゃ・・・なくて、そう、『何か』がおかしいのだ!
するとタカハシは首にナイフを当てられてるにも関わらず、その場でゆっくりとツイストを踊り出した、握った手を交互に振って、その勢いで腰をフリフリするヤツである。そして・・・ヤッパリ! 俺の肩甲骨に当たる、2つの健康的な膨らみ・・・?
「お前、女だろッ!」
サッと飛び退いたシノちゃんは、忍者のようにナイフを構えたままで、無理とは知りつつも次のタカハシの反撃に備えた、たった今もミスリルナイフで首を切り落とした筈なのに、傷付いたのは逆にナイフの方だ、ここまで3度も殺したというのに、ただの1度も死んでくれない、恐らくはアンデッドのスキル持ち、もしくはアンデッド本体なんだろうけど、でも、どうしてこんな奴が、スラムの派遣社員なんかに紛れているの?
「それはお互い様でんがな、」タカハシはシノちゃんが口に出すのを待てずに、「それにアンデッドなんて心外だ、これでもまだ、ギリ、ゴブリンで留まってるハズなんだけど」自分で云ってて悲しくなる。
「フン、降参よ、」シノちゃんはナイフを下ろすと、タカハシに云った。「格闘も魔法も、ミスリルの武器すらも効かないんじゃ、お手上げよ、オマケに精神支配までしてくるとはね、さしずめ、魔王軍の斥候、スパイといった所かしら、好きにすれば良いわ、出来れば痛くしないで欲しいんだけど・・・」ってシノちゃん、何故に誤解を招くような云い方を?
「シノさん、いったい何を云ってるの?」ショウちゃんが不安そうに訊いた。
「バカね、この状況で分らないの? 正体を知られたわたしたちを、生かしとく訳ないでしょ!」だから、どんな状況?
さすがにトミちゃんは大丈夫だよな、と笑って振り返ると、ナンマンダブナンマンダブと俺に向かって手を合わせ・・・
「おい、いい加減にしろよ!」
「ひぃっ、ど、どうか命ばかりは!」
「分かった、そんなふざけるなら、もう何も出してやらないでね!」
「ま、待ってけろッ!」と、さすが、脳よりも欲で生きてるトミちゃん、「じゃあ、とっつぁんが敵じゃないって証拠に、何か出してけろッ!」と、まるで俺を責めるみたいに、どうしてそうなる?
「じゃ、じゃあ・・・」俺はポケット・コンビニで氷いちごを5つ買うと、「コレ食って、ちょっとアタマでも冷やそうか?」




