初めてのお仕事⑩
で、伍長はどうするの?とはクリちゃん、放っとけば永遠に終わりそうもない会話をいち早く見て取って。
よし、消去法でいこう、とタカハシ、まずは少年2人!
は、はい!
・・・
うん、2人は無しだ、プレッシャーで、元来の賢さを活かせないだろうし、ましてや秘密を抱えた伍長なんて、危なくて信用出来ないからね。
わた・・・! 僕が何を!
そしてトミちゃん、君には稀にみる人望があるんだけどーーけど? けどって何だべ、けどって!?ーー悲しいかな、それは「宴会部長!」という限定的なものだ、残念だったね、今度イベント関係の仕事があったら、是非とも頼むよ!
そして俺、タカハシは、単にやりたくない、と云う訳で伍長はクリちゃんに決定だ!
来るんじゃなかった〜、とは零しつつも、別段文句を云って来るでもない、なに、伍長なんて云ったって、そんなのただの形式だけだよ、俺は云って、ポケットから上高地ビスケットとペットのレモンティーを出すと、親交を深めようと即席のお茶会を開いた。
だからトミちゃん、一枚ずつね、一枚ずつ、車座に座って紅茶はペットボトルの回し飲みだ、コップ要らずで距離も縮まる一石二鳥、女座りでビスケットを頬張るシノちゃんにフツフツと心乱されるものの、だからトミちゃん、食いながら飲むんじゃないよ、シェアだって云ってんのに、だいたい自分の魔道具はどうしたのさ? アレよりコッチの方がウンメ!と悪びれもせず。対象的なほど上品な飲み方で、タカハシさん、こんな上質な甘い飲み物を、いったいどこで・・・? 透明な容れ物も驚きだけど、これほどのもの、王室に卸してる店でだって、扱ってませんよッ! ハンケチで口を拭きながら、それを知ってるショウちゃんこそ!? 回し飲みなんて!と敬遠していたシノちゃんが、ショウちゃんの言葉に動揺する、さり気ない優しさで、綺麗な布で飲み口を拭いたペットボトルを渡されたシノちゃんが、クリちゃんに軽く一礼、そして『美味しい』の誘惑の前に小さな意地など敢えなく瓦解、ビスケットなんて、喉を飢えす口実、ただの呼び水、決め手はタカハシが未だ口を付けていない事、そして一口、アッ、美味しい・・・
パシッ!
と、この瞬間を待ってました! 光速でペットボトルを奪ったタカハシは、間接キッスのタイム・スリップ! 半世紀振りに、しかも異世界で果たした、初恋の昭子ちゃんとの奇跡の再会! それはレモンティーだった筈なのに、カルピスのような、甘く切ない味もして・・・と、間違っても遠い憧れを汚さぬよう、ちょうどクラリスにルパンが手渡した、一輪の花のような純潔と優しさで、スマート且つさり気ない演出をするつもりだったのに・・・
しかし現実はと云えば、時ならず戻った昭子という名の青春に、まるで蜘蛛の糸を見つけた亡者の如き執着に我を忘れて、ギラつく目で『お宝』ペットボトルの飲み口をロックオン、帆船に絡み付く大ダコのように、すぼめて伸ばした唇で吸い付くと、時を移さず今度はシノちゃんの目をロックオン! チューチュー・チューチュー、とまるで夏のお嬢さんのようなクラクラ来そうな刺激的な飲み方をしたものだから、シノちゃんは自分ならず祖先の尊厳までも傷付けられたと激怒して、もう残りの人生の全てを棒に振っても構わないから、ただの一度だけで良い、心ゆくまでこの破廉恥で罰当たりな男を殴らせて欲しいと天に祈った所、やおら己の身体と魂に力が漲るのを覚えたものだから、有り難い、これぞ正に天啓とばかりに、どうか神々もご照覧あれと大きく振りかぶると、
パッコーンッ!!
まるでかぐやの入った唐竹を割るよう、そのままお迎えを待たずとも月まで帰れそうな勢いで殴り飛ばされたタカハシは、ナベちゃんとカナタの上を掠めるようにして飛んで行くと、背後にあった大岩に、まるで悪さばかりして仏様から元々の母胎へと戻された石猿のように、半ば一体化するが如くに納まった訳だが、殴られた一瞬だけとは云え硬化を解いてしまったのは、やはり初恋の思い出が掛けた男の薄情けか、はたまた口を訊いてくれなくなって久しいコンシェルジュさんの企みだったのか、実のところタカハシにも良く分からなくなっていたのだ。




