初めてのお仕事⑧
えんぴつのように真っすぐで、しかし天辺が見えないほどの大木に覆われた森は、しかしまだ入り口であるせいかも知れないが、意外なほどに明るかった。
「よし、お前ら止まれ!」やがて開けた場所に出ると、リーダーのナベちゃんが皆を振り返って、「これから15分の休憩を取るから、その間に伍を作って、伍長も決めとけ、休憩が終わったら、そいつだけ俺んとこに来い!」
ガヤガヤ・・・ドッと緊張が解けた派遣社員たちは、それぞれに集まってペタンと好きな場所に腰を下ろすと、一斉に談笑やら軽食などを始める、もともと友だちや知り合いで来ていた者たちも居るのだろう、大した交渉もなしに自然とそれらしいグループが出来ている。
俺はと云えば、トミちゃんこそ決まってはいたものの、残りのメンバーは全くの未定だ。
「トミちゃんってさ、この中に友だちとかは居ないの?」さっそく魔道具から水を飲んでいるトミちゃんに訊くと、
「おら、こう見えて『一匹狼』だかんな、」全然そうは見えないが、「友だちっちゅう友だちは居なけっど・・・お、なんだクリちゃん、珍しい、おらたちの伍に入るってか?」と、こちらへと近付く人影に手を振って見せる。
「うん、何か、面白そうだし・・・」と云ったのは長身の若者で、トミちゃんほどではないにしろ、その雰囲気にはどこかしら人好きを感じさせる所もあった、見た目にしたって分け目も正しい黒髪の、派遣には勿体ないような好青年、そう云えば彼は、ここまで来る道中で、度々俺らのやりとりを興味深そうに振り返ってたっけ、好奇心があるのは良い事だ、ヨロシクね、と満面の笑顔を作って手を差し出すと、ヒッと軽く引かれてしまった、それを見たトミちゃんが、ホレ見た事かと云わんばかりに、とっつぁん、だから歯ァ入れろって! ウルサイ、俺はありのままの姿で、それでも付き合ってくれる人としか付き合わないって決めてんの!が、
さて、コレで3人か・・・俺は煙草を吸って、草の上に腰を下ろした、こんな事で慌てたってしょうがない、どうせ誰かは伍からあぶれるのだし、その2人を貰えば良いだけの話。煙草を吸いながら周囲を見回す、
そういやココらって、魔物とかは出ないの?と今更ながらの質問。なんだ、とっつぁん、魔物を見たいのけ? 指を2本立てて訊いて来る、俺にも吸わせてくれたら教えてやる、という意味だろう、トミちゃん、早くもヤニの虜に・・・
「ふ〜・・・あ〜、うんめッ! もうちょっと行くとな、結界が張ってあってよ、その向こうにゃオメー、お待ち兼ねの魔物もワンサカってワケよ♪ だども間違ってもとっつぁん、結界から指1本だって出すんじゃねえぞ!」とまるで何か、覚えがあるとでも云うように、「とんでもねえ事さなるだでな!」
う、うん、俺は謎の説得力に訳が分からないまま頷いた。ハハ、トミちゃんはそれで、痛い思いしてるもんな、そう云ったのは、新しく加わったクリちゃんで、トミちゃんを見ながら何故かニヤニヤ。何それ、詳しく教えてよ、と俺。だいぶ前の話だけど・・とクリちゃん、結界の向こうに落ちてたナイフを拾おうとして、トミちゃんが結界からほんのちょっとだけ、足を出しちゃってね。ウンウン、それからそれから? そしたら草むらに隠れてたスライムに足をパクッ! おおっ!? すぐに引っ込めたんだけど、小指だけ持っていかれてね。え、靴は? あの時トミちゃん、裸足だったよな? ああ、と思い出して不機嫌に、前の晩飲み過ぎて、そのまま広場で寝て起きたら、靴を盗まれててよ! いやいや、命があって何よりで・・・ってホント、紙一重の生活をしてるのね。




