スラムの夜は更けて⑭
相手にすると長いので、俺は立って靴を履くと、少し林の中を歩く事にした。肩にペチペチっ子が停まって、ハムハムと桜の葉の塩漬けをしがんでいる、複雑な心境だ。
「で、何か考えはあるのじゃろうな」ゲ、アンタまで付いて来たのか?「一時的な浄化魔法では、何の解決にもならんぞ、それと失礼な考えは慎むのじゃ」
「この桜林全体に、結界を張ります」
「ホゥ?」
「だけど、誰も入れないという完全結界ではなく、害の無い小動物や悪意を持たぬ人間は自由に出入り出来るという縛りを付けます。桜だって、誰にも見られず褒められずじゃ、きっと寂しいだろうって思うんで・・・」
「とぅ・・・」
「ん?」
「ありが・・・とう」
「おおっ!?」
驚いた! 声のした方を見れば、ペチペチっ子がコッチを見て笑っているではないか!
「お嬢ちゃん、喋れるようになったの!?」
「うん、たのしい!」
「め、女神さん、コレは?」
「進化ね、アンタのせいよ、異世界の桜の葉なんか食わせといて、今更しらばっくれたってダメよ」わ、分かってたのか・・・でも、そんな、軽いイタズラのつもりだったのに・・・
「ま、本人が喜んでるから良いんじゃない?」
「進化ってまさか、ペチペチっ子も女神になったの!?」
「ハァ? アンタ女神をナメてんの? 女神は神様の直轄、堕ちる事はあっても、進化でどうこうなるモンじゃないわよ!」
その時、タカハシの中でビクッと反応するものがあった。思い当たると云えば、コンシェルジュさんだけだ。
そう云えばコンシェルジュさん、ここに来てからずっと静かだったよな、さっきも応えてくれなかったし・・・何かあるのかな?
とにかく、俺が計画を打ち明けると、
「なるほど、それは名案じゃな」
「では、ご褒美代わりに、女神様のキスなどを・・・」ホレホレと、これまでの恨みとばかり、シミの浮いた無精ひげの頬を差し出す。
「そなた、石にされたいようじゃな」
「え、今度はまさかのメデューサ?」いえいえいえいえ、冗談っすよ、ジョ〜ダンッ。
「やります、やりますんで!」
目を閉じて、まずはこの桜林の地形を把握、その地形に沿って高さ10メートルの結界の壁を張り巡らせてゆく、さっき女神様がショートケーキのセロファンを剥がしたのと逆の要領だ、囲わずにてっぺんを空けたのは、新鮮な陽光に空気、そして小鳥たちの妨げにならないようにとの配慮である。そして、コレがちょっと難しい、ドラゴンの突進も止めるのに、リスやうさぎ、チョウチョに蜂に、そして花見の人間たちなら出入り自由な複合魔法・・・よし、イメージは出来たぞ、じゃ、
【メンバーシップ・パークッ!!】我ながら恥ずかしいが、俺の中で呪文はマストなのだ、むしろ妥協して日本語に逃げなかった勇気を褒めて欲しい。
「おお、呪文は何やら微妙じゃったが、仕事は完璧じゃな」一言多いが、満足そうな女神、しかしその満足の半分は、タカハシが出したお菓子のような気もするのだが・・・
「恐れながら、こうゆうのは元来、神様やそもそも森の王たる女神様のお仕事なのでは・・・」
「な、何を申すか、失敬な! 神も妾らも、お主なんかと違って、とっても、と〜っても忙しいのじゃ、じゃからこれからも気になる所を見つけたら、ジャンジャン・ジャンジャン浄化してゆくのじゃ〜ッ!」
そんなんで良いのかよ?って、おいおい、それじゃまるで、俺が『雑用』で呼ばれたみたいじゃ・・・待てよ、魔法陣に引っ張られた時に聞いた、『ついでじゃ』って、まさか! そういう事だったのか・・・
会う機会があったら、今度じっくり、神様に訊いて(尋問)みよう・・・




