スラムの夜は更けて⑫
と、誰かにクイクイっと耳を引っ張られる。見ればペチペチっ子ではないか。
「どうしてアッチで、皆と一緒に食ってこねえだね?」不思議に思って俺が訊くと、
「バカね、ゴブリンの言葉が分かるわけないでしょ、ナンか、アンタと一緒に食べたいみたいよ、フン、変わった子ね、って! ちょっと、ビターなケーキとクリーミーな紅茶って、どうしてこんなに合うのよ〜!?」
失礼な言葉はさて置き・・・
「そうかそうか、じゃあおじちゃんと一緒に食べたくて、待っててくれただってかね? お嬢ちゃんはどうしてそんなに良い子だだね〜?」
タカハシはこれ以上ないほど目尻を下げて、手の平に乗せた妖精の頭を撫でると、紙皿と桜餅を出し、端から一緒に食べ始める。目の前で頬張るペチペチっ子は改めて見ても小さくて、タカハシが本域で食べたら誤って一緒にいっちゃいそうで怖かった。そうだ、俺は見ているだけで充分だ、幸せそうに、目の前でハムハムハムハム頬張る姿は、俺が向こう(現実)では遂に得られなかった、夢の家族の光景なのだ!
すると孫・・・いや、ペチペチっ子が顔を上げてピィピィ、何やら少し怒ってもいる様子、
「『見てないでお前も食え』ってさ、キモ!」
最後のは間違いなく、ニュンペーさんのアドリブだよね! それにペチペチっ子は、『食え』なんて言葉、使わないし!
しかし、いかんいかん、たしかに、余りの可愛さについ見惚れてしまった、だからと云って、食べてるとこをあんなにジッと見つめるなんて、やはり失礼だったな、お嬢ちゃんの気持ちも考えないと、子供の頃、このしつこさで、どれだけ飼い猫に引っ掻かかれた事か!
そこで俺は手段を変えた、よし、リスのマネをして、おちょぼ口から(前歯は無いから)八重歯を出して、小さくサクサクサク、ホラ、どうだ、食べるのを止めて、目を丸くしてコチラを見てるじゃないか、口の端にアンコを付けて、可愛いったらありゃしない、よし、ここで一発サプライズ、大口を開けて、グアーッ! 泣ぐ子は居ねが〜!! あ、ヤバい、フリーズしちゃった、ピ、たちまち小さな目に大粒の涙が、ピピッ、可愛い顔を歪ませて、ピギャーッ!!
しまった! よ〜しよしよしよし、よ〜しよしよしよし、って、全然泣き止んでくれない、女神さんは呆れた顔で見てるだけだし、頭を撫でてもイヤイヤと腕で退けられてしまう。ここは一つ、ウン、魔法に頼ろう、
「お嬢ちゃん、ホラ、コレを見て」とりあえず泣き止まぬペチペチっ子をちゃぶ台の上に乗せて、タカハシは両手を広げて見せる、「ね、何もないでしょ?」
「ゔん」因みに全部、アドリブである。そしておもむろに空を指差し、
「アレは何かな?」
すると涙を拭う手をパッパッと開いて、どうやら星の瞬きを表現してるようだ、こうなればシメたものである、タカハシはポケットに入れた手に商品を握ると、おもむろに夜空に伸ばしたその腕で、パッと星を掴む仕草、
「よし、捕まえたッ!」ここまで来たら、子供は泣いてなんかいられない、目の前に差し出しされた俺の右手を、ドキドキワクワク見つめてくる、ゆっくり拳が開かれると、そこには星の形をした金平糖が!




