初めてのお仕事126
タカハシが近付くと、明らかに3人は警戒の色を示した、しかしそれは、先ほど受けた嫌悪や軽蔑とは違って、敵意は感じず、むしろタカハシの見慣れぬ風体への恐れからかと思われた。なので、
「ゴブリンじゃないよ、ゴブリンじゃないよ〜♪」と精一杯可愛い声でアピールしながら、その懐へと半ば強引に飛び込んで行ったのである。
驚いた事に、3人は人間ではなかった、こめかみの上、ちょうど眉毛の両端の上辺りから、ニョキっと短い角が生えている、肌も森に溶け込むかのような緑がかった色で、ゲリラ戦では無双の働きをするのではないかと思われた。ともあれ、獣人と云えばもれなく(?)《ケモ耳》が付いて来るという俺の認識は、実に浅はかと云わざるを得ず、まだまだこの異世界に於いて、自分など《にわか》だったと、改めて思い知らされた訳である。しかし、
「おい、さっきからジロジロと見やがって、いったい俺たちに何の用だ!」
タカハシの不躾な視線に耐えきれず、中でも一番若いと思われる男が云って来た。ああ、これはマズいな、ウッカリとは云え、彼らからしてみれば、こんな屈辱的な事も無いだろう、
「ゴメンゴメン、俺の国には角を持った人なんて居なかったからね、つい夢中になっちゃって」と素直に謝ったものの、やはり誘惑には勝てずに、「ちょっと・・・触っても良いかな?」言葉と同時に手を伸ばすと、
ペシッ!
若い男に、その手を思い切り叩かれてしまった。
「ダメに決まってんだろ、いいかげんにしないと、ブッ飛ばすぞ!」角まで赤くして興奮している。
「コレ、いいかげんにしないか。それに、大変な目に遭うのはお前の方だぞ」
タカハシに掴みかからんばかりの若者を抑えると、年長の男が困ったような顔で云った。その丁寧な物言いからして、それなりの人生経験も積んできてるのだろう。
「ハァ? おい、アンタまさか、人間なんかの肩を持つってんじゃあねえよな?」
「おいおい、『アンタ』って、」俺は思わず口を挟むと、「仲間・・・それも年上の人に向かって、そんな口の聞き方は良くないぞ」
「だったら何て呼べってんだ?」若い男は食って掛かると、「それとも何か? 俺らオークはバカみたいに、何でもかんでも、『オークさんオークさん』って呼び合ってりゃあいいって云うのか?」
おや、まさか・・・?
「ひょっとしてだけど・・・みんな、名前とか無いの?」
「もー許さねえっ!」
グシャ!
「ギャーッ!!」
結界を張ったタカハシを殴るのは、ダイヤモンドを素手で殴るようなものだ、潰れたトマトのようになってしまった手を抱えて、オイオイと泣き出す男に慌てて、【ヒール!】、すると、
「アレ?」
この一瞬で、いったい何が起きたか理解出来ない男は、しかし一つだけ、目の前に居るのは化け物(!)だと理解すると、
「ごめんなさい!」と、まさかのジャパニーズ土下座ッ! それを教えた人間に会ってみたいものだ。すると、
「わたしからもお願いします」同じく土下座のポーズを取ると、「この者の無礼は、まだ齢100の弱輩とゆう事で、どうか勘弁願いたい」
よわい・・・《ひゃく》ってッ!?
「え、ナニ、キミ、100歳だったの?」
「は、はあ、」とタカハシの様子に戸惑いながら、「正確には、103歳ですが」って、年収の壁かよ!
と、ココで無言のプレッシャー、分かった分かったよ、俺の歳も聞きたいケド、失礼じゃないかなって気を遣って、俺の口から云わそうってんだろ? 別にいいさ、それで減るモンでもあるまいし。
「俺、60ッ! あと2〜30年しか生きられないから、ヨロシクね、てへっ♪」
ペコちゃんみたいに舌を出してウインクしたのに、皆のリアクションの薄さにはガッカリだ・・・