召喚①
「おお、ハーレムや、リアル・ハーレムや・・・」
ワンカップ片手に、向かいのベンチに座る学生カップルを眺めて、タカハシは粘着質に舌をぴちょぴちょさせながら呟いた。ベンチの真ん中には、イマドキのチャラい茶髪の男子、そいつが両隣にミニスカギャルを侍らせて、この世の春を謳歌しているのだ。
正に《両手に花》、こんなシチュエーション、異世界モノか、ドーティの妄想でしかお目にかかった事が無い。それにしても・・・おいヲイ、あのハーレム野郎、ロクに彼女たちの話を聞いてもいないじゃないか、髪をいじったり、スマホを覗いたりで・・・こりゃ、《もったいないオバケ》どこの騒ぎじゃないぞ、何と云う、圧倒的な青春の無駄遣い! もっと彼女たちを、ネッチョリこってりマッタリもっこり、大事に扱ってやれないものなのか? 例えその話の内容が恐ろしくツマらないモノだったとして、俺なら一晩中だって付き合ってやれる自信がある、しかもその間、一瞬たりとも視線を離さずに、だッ! なのに・・・なのに世の女たちときたら、俺らシャイボーイをダカツの如くに嫌って、それでいて優しくもなければロクに話も聞いてくれないイケメンに、コロコロころりん騙されるのだ、なのにそれでも口を揃えて云う事には、『ブサメンと付き合うくらいだったら、イケメンに弄ばれて捨てられる方が、まだマシよ!』と、それはそれはもう、キッパリと!・・・な〜、誰でもいいから教えてくれないか、前世で俺、何かアンタらにヒドい事でもしたんかなあ・・・?
ここまでの妄想で、既にそこそこ楽しくなっていたのだが、空きっ腹にアルコールというのも相まって、尚も愚痴は止まらない。
チックショー、俺があともう10歳、若かったらなあ・・・いやいや、直に60だし、ちょっとくらい若くなったって、どうにもならんっショ、講談師のようにパシパシと腿を叩き、それをツマミに酒をちびちびとやりながら、何が楽しいやら自虐的な一人ツッコミに満足そうな笑みを漏らすと、しかしその前歯は、当然のように(?)欠けている訳で・・・
昼下がり、平日の静かな公園、カップルたちは学校をサボって、タカハシは人生をサボ(無職)って、という、それぞれに似て非なる理由を抱えて、お互いここに集まっていたのである。
「で、オッサンさ〜、さっきからな〜にブツブツ、訳の分かんねーこと云って、コッチ見てんだよ?」って、おいヲイ、ハーレム野郎の奴、コッチに来ちゃったよ! ゴホッ、ゴホッ! 驚いた拍子に、酒が変なトコに入ってしまう。うぇ〜っ、タカハシは苦しそうに、手の甲で涙とヨダレと、ついでに鼻水までも拭うと、ちょっと待てって、たかだか目が合ったぐらいで、フツーそんなに怒るか? てか、最近の子らって、こんなキレ易いんか? 文部省はナニやってんだ?
尚も怒れるハーレム野郎に、情けなくもタカハシはTシャツの襟を掴まれて、グイグイと乱暴に揺すられたものだから、カップに残った酒も殆ど零れてしまった。なのに、
「あ、ジジイ、きったねえなー、靴に酒が掛かっちまったじゃねえかよ!」とメチャクチャな言いがかり、「どうしてくれんだよ、弁償しろよな!」と、無職のタカハシに追い打ちを掛ける。困ったなあ、財布の中にはもう、500円しか残ってないのに・・・途方に暮れていた、正にその時である!