大人たちの本音
炭団については、上手くまとめられたと思う。でも、これからが、本番です。
天丸「一三どのぉ、この炭団を作って欲しいの。お爺、いいよね?」
と、頭をコテンと傾けながら、可愛く聞いてみる。
お爺と一三殿は、顔を見合せると、お爺は、苦笑いしながら頷いてくれる。
ニッコリ笑って、お爺に抱きついた。
場所を移して、お爺、お婆、一三殿と、白湯を飲み、お婆に、抱っこされて話しを続ける。
天丸「一三どのぉに、お願いが、あるの。お茶を売って欲しいの」
「茶だって」 と、お爺
僕は、聞いてみる。
天丸「伊賀には、昔、帝にけんじょーした、お茶が、あるよね?」
一三「ほう、良くご存知ですな。だが、某も、詳しいことは、わからんのです。何しろ、ずいぶん昔のことで、古老にでも聞けば、解ることもあるかと」
天丸「それでは、お願いできますか?茶の葉の加工について、書き記したものを渡すの」
一三殿は、「承知した」と、お爺を見て、頷きあった。
でも、まだ終わりじゃないんだよね。
天丸「一三どのぉ、木綿と味噌も欲しいの、知ってる?」
これは、かなり確信を持って言えることだが、祭りの時、軽業をして見世物をしていた者たちが居て、お爺に聞いたら、伊賀の方から流れて来た集団らしく、お爺もよく護衛や人足の仕事を回しているのだが、その頭をしているのが、一三殿という話だった。
一三「ん~、三河の方で、手に入れることができるのではないかな、木綿は伊勢でも手に入れることが、できるだろうか」
お爺「お天よ、味噌は、解るが木綿は、どうするんだ」
お爺が聞いてくるのも解る。この時代、木綿は、高級な物は、輸入品だし、絹や青苧、麻の方が、一般的に流通しているからだ。
天丸「お爺、木綿で、蚊屋や網や船の帆も作れるの」
船の帆、と聞いて、お爺の目が、キラリと光った。それもそのはずで、丈夫な布地の帆は、船を持つ者、乗る者たち、全てが喉から手が出るほど欲しい物なのだ。
この時代、川船や、湖の船は、ムシロなんかを帆にしているものも普通にある話しで、そんな中、丈夫で大きな帆を張れる船持っているだけで、ステータスであり、自慢できる話しである。
お爺は、一三殿そっちのけで、木綿について質問して来た、わかる限り、質問には答えていたが、あんまり質濃く聞いてくるのを、お婆が、一括して黙らせた。
その後、疲れたろうと、お婆と一緒に奥に下がった。
お爺side
お天は、天丸は、どうしてしまったのだろうか。
突然、商売の話しがしたいなどと言われて、孫可愛いさに、場を整えて見たものの、結果は、想定を遥かに超えたものになってしまった。
あの炭団という物も、使うのは、言ってはなんだが、ゴミと言って差し支えない物を使って、商品と言える物を作るなど、知識や経験があって初めて出来るもの、それが、数え4つの童などに、どうして出来よう。
思い出されるのは、あの熱田の宮の舞台、あの光の中に立つ天丸の姿を、わしは、その姿を見て、うれしさの中に、言い知れぬ怖さを感じていた。まさに天の子、神の子であると、わしは、天丸のために、わしの出来る限りのことをしてやろうと思う。
一三side
某が、喜右衛門殿に呼ばれたときは、また、何か仕事を降ってくれるのかと、半分は、期待して訪れたのだが、まさか、喜右衛門殿の幼い孫が呼び出した本人とは、思いもしなかった。
少々期待外れの思いを表に出さず、幼い童の話しを聞いていると、なるほどと思えることもあり、更に仕事を出すとのこと。
こちらも、ただ、唯々諾々と話しを聞いているのでは、面白くもなかろうと気になる点を指摘すると、見事な返しにこちらが感心するばかり。
喜右衛門殿に、目で、確認を取ると、頷き返してくれる。
初めは、喜右衛門殿が、天丸君を介して、イタズラしているのかと思ったが、伊賀の茶、更には、三河の産物にまで、話しが及んだことで、これは、本物だと確信する。
某とて、長くこの戦乱の時代に身を置き、様々な、人やものを見知って来たつもりだが、天が祝福をするのを見たのは、あの時が初めてだ。
天丸君が、これから、どのように振る舞うのか、その振る舞いによって、こちらの対応を考えねば成るまい。
お婆side
まったく、この子は、自分のことを全然わかってないね。
どれだけ、注目されてるか何て、考えてもいないんだろうね。
更に、才を見せ始めたら、隠しきれるもんじゃないのに、
旦那と相談して、護衛を増やさなきゃ、一三さんにも相談しようかね。




