酒保商人
天文18年 秋
秋の深まる中、いまだ、天文屋に居る天丸です。
実は、出陣式のあと、かか様から、戦の危険があるので、天文屋に居る様にと、知らせがきました。
せっかくなので、ゴロゴロして‥‥ではなくて、皆で、ゆったり暮らしていける様に考えてみたいと思います。
それにしても、お店は、朝から、忙しいく活気があって、うるさいくらいです。何でそんなに忙しいのかな。
朝餉に出向いたときに、朝食が終わったのか、白湯を飲んでいる、お婆が居たので聞いてみた。
「お婆、お婆、何で、こんな忙しそうなの?」
「なんだい、お天、うちはね、戦のときの方が忙しいんだよ」
「?」
「そうだ、お天、ちょいと困ったことがあってね、あの、ナンと甘焼き菓子の注文が、ずいぶんと着てねぇ、麦粉が、足りなくなりそうなんだよ。何かしら良い方法は、ないかねぇ」
ちょっと考えて、
「それなら、そば粉を混ぜると良いと思うの」
「そば粉‥‥良いねぇ、ありがとよ、お天」
と言うと、お婆は、立ち上がり、出て行ってしまった。
店の方からは、「ちょいとちょいと」と、お婆の元気な声が聞こえてくる。
うん、わかんない?
戦だから忙しいの?
ご飯を食べてから、控えていた四つ葉達に調べてもらうことにした。
さて、部屋で、報告を聞いたところ、天文屋は、酒保商人と呼ばれる商人らしい。
説明を聞いてみると、言葉にある様に、いつでも、酒を保つことのできる商人。
つまり、遥か未来で言うなれば、コンビニのような商人なのだそうです。
もちろん、商品を用意できるだけでは無くて、例え戦場でも品物を届けることのできるだけの、力と信頼感が必要になってくる訳ですね。
今回は、安祥城の合戦の為に、忙しくしていた様です。
もちろん、天文屋だけでなく、熱田の店は、総出で、物質を集めて、戦場の織田弾正忠家方への運搬も担っているようです。
因みに、近年、酒保商人が、活躍した戦と言うのが、関東の河越夜戦なのだろう。
河越夜戦とは、北条家と、山内上杉家、扇谷上杉家、古河公方の連合を中心として、関東諸将が集まって行われた、大戦になります。
ざっと、北条方で、3000の兵にて、籠城する河越城を、関東諸将連合、約8万の兵により、半年ほど、囲んでいたらしい。
戦のときは、だいたい過大に喧伝します。それでも、関東諸将の軍は、少なく見積っても、5万以上の軍がいて、半年も河越城を囲んでいたことになるのです。
これでは、食い扶持を維持するだけでも大変になります。北条方の村を襲うのは、当たり前、中には、味方の村を襲うことも、たびたびあったと言います。
そんな中、大名に近い酒保商人たちは、陣の側に、陣中市を立てて、食料、酒の販売だけでなく、戦利品の買い取りを行い、大いに賑わったのだそうだ。
ただし、売る物は、ボッタクリ、足軽達が、戦場で、拾った武具や具足、村を襲って、手に入れた奴隷を代金替わりに買う物は、ほぼ捨て値、酒や米に雑穀などと交換がほとんどだそうだが、それでも、腹一杯、飲み食い出来れば幸せ、と言う者たちが数多くいたのが、この時代なのです。
もっとも、大名付きの酒保商人ともなれば、武具、兵量の取り引きだけでも、事前に、かなりの儲けを出しているのです。
だから、強く大きな大名家に、信頼される酒保商人になる為に、努力を惜しまずに、時に、損になっても、大名家に貢献して、勝ちを、少なくとも、大負けの無い様に心くばりを怠らずに、情報を集めるそうです。
何で、そんなに詳しいかというと、いつの間にか、風間出羽守の嫡男の太郎佐が話しに交ざっていたのです。
太郎佐は、風魔の忍びの者たちが、どれだけ苦労して、敵の油断を誘ったか、血を流したかを、最初は、静かに話していたが、だんだん熱く語り出してきた。
いや、わかんない訳では無いけどさ、10倍の敵を相手に、有利に戦を進めるどこか、勝ちを取りに行くのは、並大抵のことでは無いと思うのです。
実は、当初、駿河今川家も参戦していた為に、北条家は、今川家と戦をしていたのですが、駿河に有った領地を割譲することで、今川との戦を収めて、河越城の敵軍に対しては情報が渡らない様に苦心したのが、風魔になるのです。
北条方では、事前に、上杉、公方連合への降伏を考えていると、嘘の噂を流して油断を誘い、連合の戦陣市の商人や遊女にも風魔の手の者を紛れさせて工作を行い、正に、存亡を賭けて戦に挑んでいたので、被害度外視して、後先を考えること無く、味方である北条方の有利になる様に働き続けて、遂には、勝利を手に入れるのであった。
太郎佐は、戦の詳細を熱く語るのであった。