風間出羽守
天文18年 8月後半
「お天、お天~」
何やら呼ばれている天丸です。
お爺だな?今日は珍しく勉強をしていたのに、やっぱり崩し文字は、解読が面倒だなぁ。
ガラッと、障子を開けて、お爺が入って来た。
「おおっ、ここにおったか、お天、手習いとは感心なことだ。これから会わせたい者がおるでな、すまんが、ついて来てくれ」
「はい」と、返事をして、後をついて行く。
途中で、半三と会って一緒になる。お爺が、会わせたい言った者のいる部屋に入っていき、僕が、部屋の前まで行くと、半三に市平、三矢が前に出て、四つ葉が、僕の肩を抱き、僕の椅子を前に突き出して、身構える。
チラッと、見たところ、大きな人がいたような?
お爺が、のんきに、
「どうした、入ってこんか」
と、手招きしている。
半三が、
「しかし」 と、固い声を出す。
お爺は、
「大丈夫だ、危険はない、早よう入ってこんか」
と声をかけてくる。
部屋に入ると、お爺の他に、3人座って待っていた。
僕は、お爺の側に、四つ葉が持って来た椅子を置いてもらって座る。
前に座ってる人は、大きい、座ってるのに、立っている人と同じくらいに見える。
誰だろうか、あいさつを受けてみるか。
「風間出羽守に、ごさる。天丸様には、お初にお目にかかります」
‥‥え?何で、え?ちょっと信じられない人物が来たんだけど。
もしかしなくとも、風魔だよね?風魔小太郎だよね。
お爺が言うには、古い馴染みらしくて、実を言えば、若い頃一緒に馬鹿をやった中だとか、それが、最近になって、久しぶりに会って、飲みながら相談を受けたときに、「任せておけ」と、胸を叩いて連れて来てしまったらしい。
「何とぞ、天丸様の臣下の末席にお加えいただきたく」
と、頭を下げる風間出羽守に、僕は、困惑していた。すると、
「某、天丸様、家臣、千賀地半三正種と申す。出羽守殿に、お聞きしたいのだが、確か、小田原の北条家にお仕えのはず、如何なるご存念か」
そうだよね、そこは気になるよね。
僕も頷いて、風間出羽守をみる。
風間出羽守は、理由を話し出す。ここ数年忙しく働いて来たそうで、2年程前には、大戦も有ったのだが、仕事の出来る者が、極端に減ってしまったらしい。
北条には、恩賞を貰いはしたが、とても一族の再建には、至らず。ケガを押して仕事に出る者も、失敗して命を散らす者もいる中、報酬は、成功報酬がほとんどで、報酬を受けることができずに、立ち行か失くなって来ているそうだ。
なるほど、確か、北条は、今川との、河東の戦いをしばらく続けていたはずだし、天文15年の河越夜戦での、北条勝利までの働きでは、かなりの者が命を落としたのだろう。
出羽守に寄れば、働きの出来る者の半数以上が死に、ほとんどの者が手傷を負ってしまい、元のように、働きの出来る者は、元々の人数の3割を切るまでに、減ってしまったそうだ。
しかも、戦続きの中に、大戦である、河越夜戦までしたことで、その年は、米も録に取れず、北条としても、家臣や農民への慰撫を優先して、風魔への褒美は、後回しになり、仕事の報酬も、一族全体で分かつには、少な過ぎたようで、悩んでいたところに、たまたま行った先で、お爺に会ったところ勧誘を受けて、ここまで来たという流れのようだ。
「北条家は、どうするの」
と、聞いてみると、風間出羽守は、
「分派いたします」
と、答えて来た。
お爺の勧誘を受けたのは、6月の終わりの頃で、二カ月程前のことらしいが、北条家への不義理は出来ないという一派もいたので、なかなか話し合いは付かなかったが、働きの出来る者を中心に北条に残り、年寄り、女、子供、ケガで働きを思うように出来ない者を率いて、尾張に来たらしい。
まぁ、今は、北条と、敵対するようなことも考えつかないし、今川のことを考えれば、悪くないと思う。
念のため、僕は、領地が無い為、銭や物による報酬となることを話しておく。
古渡城は、押さえてあるが、手柄を立てなければ領することはできない。
ただ、9月にある吉良家の戦に介入して、11月の安祥城の戦を今川を押し返して、勝つことができたら可能ではないかと思っている。
お爺の紹介だし、古い馴染みの人らしいし、というか、風魔小太郎を断るなんてことあり得ないのではないか。
と、その前に一つ、
「出羽守殿、お聞きしたいことがあるの」
「何なりと」
「龍勢を、知っているの?龍飛かも知れないの」
「‥‥‥はい」
「わかったの、家臣にするの」
という訳で、風間出羽守一党を受け入れることと成りました。
お爺は、つくづくチートだと思い知らされた天丸でした。
ちなみに、風間出羽守の後ろにいた2人は、嫡男の太郎佐と弟子の段蔵だそうです。