天丸と信長の問答
三郎信長兄上に、刀を突き付けられて、フリーズしている天丸です。
意表を突かれた市平が、動こうとするのを手で征するせいする。
うっかり思っていることを口走ってしまった。武士に取って鎌倉は、やはり特別なのだろう。
「答えよ!」
と睨み付けてくる。
覚悟を決めて口を開く。
「お天は、思うの‥‥」
外向きの口調で、鎌倉幕府について、思っていることを、説明する。
鎌倉幕府は、平家を倒し、平泉の藤原家を打倒して武家をまとめて、強い力を持っていました。
「鎌倉は、強かったの」
その形態は、御恩と奉公という、奉公に対して恩賞を与える形ですが、幕府と敵対した者を倒して、相手の土地を功績のあった者に分け与えて、恩賞としていた。
だが、蒙古の襲来によって、その形態が崩れさることになる。
蒙古の襲来を知った朝廷は、鎌倉幕府に、蒙古討伐を指示する。
鎌倉幕府の命令で、日本各地から、集まった、武士たちは、蒙古兵と戦い勝利を納めました。
「蒙古にも勝って、押し返したの」
ですが、恩賞を出すことが出来ませんでした。もちろん、恩賞を出さなかった訳では、なかったのですが、満足の行くものではなく、結果的に、鎌倉幕府に対する影響力が、低下することになります。
武士たちは、幕府の命令の為に借金をしてまで、戦に赴きながらも、満足な恩賞も受けられずに、莫大な借財に悩むことになる。
「だけど、恩賞を出すことが、できなかったの」
幕府としても、状況を打破する為に、朝廷と謀り、徳政令を出して武士の借財を失くすことが出来ましたが、商人たちとの関係が悪化しました。
元々、銭に関しては、朝廷による銭の発行の失策があった為に、貨幣経済が大きな混乱に落ち入ることになったのですね。
朝廷による銭の失策とは、新しい貨幣が出る度に、新しい貨幣1枚で旧貨幣10枚との交換という比率になることで、やがて、銭を交換せずに、銅として使う方が遥かに得になってしまったのです。
「朝廷に、徳政令を出してもらったけど、幕府と武士の関係は、戻らなかったの」
実は、この頃、鎌倉幕府は、銭など卑しい物という考えを広めたのですね。ですが、生活の為に、領地を売って糧を得る武士も増えて行き、また、それによって、力を得る武士もいました。
武士の混乱は、幕府の力を下げることになってしまう、幕府としては、影響力を持ち続けること考えたのか、朝廷にも口を出すようになって行きました。
そういうことをしていると、後醍醐天皇のように、倒幕に動く人も出てくる訳で、幕府の政策の失敗で、没落して不満を抱く武士もいて、結果、足利尊氏に滅ぼされてしまうのですね。
「それに、銭が卑しいって言った、銭は卑しくないの、銭は、形のある力なの、力は、味方にしないと勝てないの」
「それでは、商人を優遇しろと言うのか!」
「違うの、利用すればいいの、銭も情報も強くて勝てる方に出すの」
「そう上手くは、行くまい」
「法度を作って、律令を行き渡らせるの」
「法度など、作ったところで、守らねば、意味は、あるまい」
「もちろん、力だけでは守らないの、だから、帝に認めてもらうの」
三郎信長兄上は、ピクリッとして、しばし黙った後、
「大言を吐きよるわ」
と、刀を鞘に納め、
「その遊具は、没収する。二度と同じ物を、作ることを禁ずる」
そう言うと、ドカドカと部屋を出て行ってしまった。
三郎信長兄上のお付きの人が、双六を片付けて、持ち去って行った。
しばらく、ぼーぜんとしていたが、パッタリと倒れてしまった。
直ぐに、市平たちに抱き起こされて、羽城を辞することにした。
竹千代君も、呆然としていたが、後日、違う双六をお届けする、として帰ることにした。
話しの流れが、明後日の方向に行ってしまって、余計なことまで口走ったかも知れないけど、竹千代君には、インパクトを与えられただろう。
先がどうなるか、わからないし、どれだけ僕と、三郎信長兄上の話しを理解できたか知らないけど、竹千代君には、グローバルな視点を持ってもらいたいと思います。
帰りには、市平の背中に縄で、おぶられて馬に揺られていました。