竹千代と双六と信長
天文18年 8月半ば
お爺の商売も順調な今日この頃、美濃の大市の為に、いつもより忙しそうに動き回る、お爺を横目に、今日は、お出かけをする天丸です。
お出かけ先は、熱田の南にある羽城です。
加藤図書助殿の居城になります。図書助殿は、熱田でも有数の豪商な訳で、当然のように、織田弾正忠家の家臣筋になります。
お爺とは、いろいろ張り合っていたようでしたが、僕が生まれたことで、さすがに不味いと思ったのか張り合うこともなくなったそうです。
お婆が、言うには、お爺が、ちょっと寂しそうに見えたそうです。
さて、いったい何の用で、羽城まで行くかというと、そこに、松平竹千代君がいるからです。
松平竹千代君とは、言わずと知れた、徳川家康公のことなのです。とはいえ、今は、織田家預かりで、軟禁状態、つまり人質な訳です。
三郎信長兄上は、良く遊び‥‥陣中見舞いに行ってたりするらしいですが、僕は、初めてなので、お土産を持ってご挨拶に行きます。
さて、今回、馬に乗る、市平の前に座って、羽城まで来ましたが、とても、お尻が痛くなりました。
歩くには、少し遠いけれど、馬ならそれほどかからないという言葉を信じたのですが、数え4つの僕には、つらいものがあったようです。
羽城に着いてからは、前持って訪問する事は、連絡してあったので、すんなり通された。お尻の痛みの為に、市平に抱っこしてもらって進みます。
部屋では、竹千代君たちが待っていました。
竹千代君に断ってから、お尻が痛いので、羽織とかを敷いて座ります。
「織田天丸です」
「松平竹千代である」
あいさつしただけで、ちょっとした緊張感が漂っている。
向こうとしても、何をしに来たのかを探りながらも、竹千代君は、
「本日は、如何様なご用ですか」
僕は、
「本日まかり越しましたのは、是非、竹千代君に、あいさつと贈り物をと思いまして」
そう言って、甘い焼き菓子と遊具を出してもらう。
甘い焼き菓子は、1つ口にして、竹千代君のお付きに渡します。
そして、遊具を出して説明しながら、遊んでみたいと思っていると、廊下をドカドカと足を踏み鳴らしながら近ずいてくる者がいます。
バン!と障子を開け放つ者がいて、
「竹千代久しいな」
と、三郎信長兄上が、部屋へ入って来ました。
「なんじゃ、お天もいたのか」
と、どっかりと座ると焼き菓子をムンズと掴んで、ボリボリと、勝手に食べ始めたのでした。
更に、出していた遊具に興味を持って説明を求められました。
最初、双六だと説明すると、興味を失ったのか、また、焼き菓子をほお張っていた。
双六の名前を「国取り物語」と言うと、三郎信長兄上は、また、興味が出たのか、説明を聞き始める。
これは、遥か未来でも、、一世を風靡した、人生のゲームの武士バージョンだったりします。
まず、武士として生まれ、サイコロを振って、マスが進むと、転職ができます。転職先は、僧侶と商人になります。そのまま武士でも、続けられます。そして、注目なのは、札のマスに止まったら札を引いてその通りにしなければならない。職業札の場所と行事札の場所で、それぞれ違ってくる。銭をもらえたり、払ったり、結婚したり、子供が生まれたり、御祝儀わもらったり、銭が足りないときは、土倉に借金したり、借金を返したり、戦をしたり、川が決壊して、田畑が流されたり、物の値段が上がったり、一揆が発生したり、いろいろな出来事を経て、一国一城の主になるまでのリアル双六になります。
その双六を織田信長と子供とはいえ、徳川家康と競う僕、ちょっと嬉しい。
駒は、家のような形で、自分が乗っていて、人を模した棒を刺す穴が空いています。
最初は、作った僕が有利でしたが、三郎信長兄上の引きの強さに驚くことになったり、僕は、転職で商人になり、荒稼ぎしたり、竹千代君は、お付きの方々総出で、ああでもない、こうでもないと意見を出し合って考えたり、勝ったり、負けたり、何度かしたのです。
そこで、不思議なことに気がつきました。商人や僧侶に転職するのが、僕だけで、三郎信長兄上や竹千代君は、武士一辺倒で遊んでいます。
質問してみたら、武士が、他の職業に就くなどありえない、との答えが返ってきた。
竹千代君は、ともかく、三郎信長兄上まで、そのような考えに、凝り固まっているとは、思いもよらなかった。
更には、銭によって、状況が変わり過ぎるという文句まで来ました。
さすがに、カチンと来たので、思わず、鎌倉は、銭を軽ろんじたから、滅びることになったのだと、言ってしまった。
直ぐ様、刀を抜いて僕に突き付ける三郎信長兄上、市平が動こうとしたのを手でせいし、どういうことかと、聞いてくる三郎信長兄上。