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天の子  作者: 夢樹明
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お爺とお婆~信長登場

 自己紹介を忘れていました。


 織田天丸、数え4つ(天文18年、1549年現在、実質3歳)の男の子です。


 織田弾正忠信秀の十男にして、織田三郎信長の弟になります。


 僕を胡座に乗せて、酒を飲んで楽しげに大笑いしているのが、お爺の天文屋(てんもんや)中根喜右衛門です。


 お爺は、一見すると、どこかの山賊か海賊を思わせる髭モジャモジャの風貌と筋肉質の身体に、その身体の至るところにある傷跡が普通の商人とは、一線を画する凄みを出している。これでも熱田の町の顔役をしていて、今回、天丸の踊りをねじ込んできた。爺バカです。



 もともと、お爺は、熱田近くの中根の3つの城、(中根北城、中根中城、中根南城)周辺を支配する、豪族、村上氏に縁のある家の出身で、若い頃から、戦の陣借りや傭兵として商人の護衛なんかをしていたそうで、やがて商売に興味を持ち、戦の手柄で、商売の鑑札や商家と知り会い、取り引きを続け、なんと大陸の明まで行ったことがあるそうだ。



「おお!桶屋、ここに居たか」


 突然、甲高く大きな声が響く。


 声の方を見ると、見事に歌舞いた男が、似たような集団を引き連れてこちらにくる。


「桶屋じゃねぇ!天文屋だ!ったく、こっち来い」


 皆、場所を開けると、どかどかと宴会場に入ってくる。

 歌舞いた男は、お爺の隣にどっかりと座ると焼きイワシを噛り

「旨いのう」

 と呟き、料理に次々手を出していく。


 お爺は、

「若様も、一つ」

 と、酒を進める。


 信長様は、嫌そうに、

「三郎で良い」

 と、酒を受け取る。


 僕を見ると、

「お天、良い舞いであったぞ、日の光に照らされて、まこと、天女かと思おたぞ」


 僕は、

「ありがとございましゅ」

 と少し舌足らずな返事を返す。


「じゃが、最後の天の子とは、どういう意味じゃ」

 と睨んでくる。


 僕は、コテンと頭を右に倒し、

「わかんない」

 と答える。


 お爺は、すかさず

「こんな幼子が言うことなど、なんだと言うのか。子供など、覚えた言葉を直ぐに使いたがるものだぞ!そんなものにイチイチ意味などあるか!」


 お爺と、信長様がにらみあっていると、


「あらあらお前様、なにをしているんだい」

 と言って二人に割って入ったのは、お婆である。



 お婆と言っても、四十そこそこのはずなのだが、実年齢よりも遥かに若く見える熱田の女衆のまとめ役をする女傑なのだ。


 二人の前まで、スススと進んでくると、僕を指差し、

「お天にイワシなんて食べさせたら、ダメじゃないの!」


 お爺も、信長様もなにを言ってるのか、わからないようで、

「いや、あの」とか「え?なにを」とか言っているうちに、僕を抱き上げ


「こんな子供に、イワシを丸ごと食べさせるなんて、骨が喉に刺さったらどうするのさ。まったくこれだから男衆は」


とか言いながら、僕を抱いてさっさとその場を離れて行った。


 お爺と信長様や周りの連中も、あっけに取られて見送っている。


 お婆は、

「本当に、何やってんだかねぇ」

 と呟いた。


 お婆の名前は、メイといい、お婆などと呼ぶのが失礼なほどの、大陸系の美人で、かか様がいたときは、美人姉妹と噂になったことがあるほどだった。


 お婆の凄いところは、ただ美人なだけじゃなく熱田周辺の女衆の取り纏めをして面倒を見ているのだ。


 遊女屋に、居酒屋経営をメインに料理屋の手伝いなど仕事の斡旋から、果ては下級武士の奥方からの相談までこなすスーパー女傑なのです。だから女衆の信頼感は絶大で、影響力が凄過ぎる。


 今も、なんだかんだと、お爺と信長様を煙に巻いて、僕を連れ出して穏便に済ませてくれた手腕は、尊敬に値するものだ。


 







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