滝川彦九郎一益
天文18年 8月
「滝川彦九郎一益に、ございまする」
1人の武士が、平伏している。お爺が連れて来た、僕の家臣らしい。
チョッと、何言ってるか、わからない天丸です。
僕は、椅子に座り、両脇に、お爺と半三が、同席している。
「たきがわひこくろういちます?」
「ははぁ!」と、ますます頭を下げる。
なんだろう、滝川一益って、滝川彦右衛門一益じゃないの?
とりあえず面を上げてもらう。
20代ぐらいだろうか、少し垂れ目気味かな。以外に、がっしりした体型をしていそうだ。
お爺に、どういう経緯で、来てもらったのか聞いてみた。
お爺の話しだと、出張の帰りに津島に寄って来たそうで、道を歩いていたら、騒いでる連中がいたそうで、数人を相手に1人やり合ってのが、滝川一益だったそうで、話しの内容は、賭けの銭を払え払えないを口論しているようで、このままなら、下手したら殺し合いかと思ったところで、お爺が割って入って、一益の銭を立て替えて助けたそうだ。
普段なら、そんなことしないが、一益が鉄砲を持っていたことで、興味が出て声を掛けたそうだ。銭については、働いて返してもらうつもりだから、連れて来たんだとか。
不思議に思って、滝川彦九郎に、鉄砲を手に入れた経緯を聞いてみた。
何しろ、鉄砲が種子島に伝来して、6年あまり、いくら生産できていても、入手には、それなりの銭と伝が必要なはずである。お爺だって、半三の伝とそれなりの銭を、砂糖だけど、使って鉄砲を手に入れたのだ。
滝川彦九郎が、どこから鉄砲を手に入れたのか、気になるところだ。
彦九郎の話しによると、摂津の戦で、三好方に傭兵として陣借りしたそうで、この戦中に1人はぐれてしまったとき、流れ矢に当たったらしい兵の遺体を見つけた。
その兵が、鉄砲足軽だったらしく、鉄砲や玉薬、つまり火薬に、鉛玉を所持していた。
彦九郎は、前から鉄砲に興味を持っていて、その兵の身ぐるみを剥いで、鉄砲足軽に化けてから、鉄砲部隊の近くに陣取り、見よう見まねで、鉄砲の扱いを覚えてから、戦の終わりに、鉄砲を隠して、自分の装備に変えて戦の褒美をもらってから、何食わぬ顔で鉄砲を持って、早々にとんずらしたそうだ。
これは、なかなか大胆で、図太い、それでいて冷静に判断して動いているようだ。
それにしても、三好は、その頃から鉄砲を戦に使ってるのか?侮れないな。
もしかしたら、舎利寺の戦いか?まぁいいか。
その頃から、1年以上たっていたそうで、実は玉も玉薬も、とっくになくなってたようで、銭も無く逆転のつもりで、博打をしたら大負けして、どう、ごまかそうか、考えていたところで、お爺に助けられたそうだ。
何か、今、袋叩きにされている彦九郎を助ける、三郎信長兄上の姿が浮かんできた。
お爺に助けられて、話しをしてみたら、天丸様の家臣ならと、ここに来たそうだ。
なんで、僕ならいいのかは、わからないけど、わざわざ来てしまった者というのは、失礼だけど、本当にいいのか?滝川彦九郎一益!
凄い確率で、同名の別人の可能性もあるが、ここで、僕が断って、三郎信長兄上とのつながりの無いなかで、無事に兄上の家臣として仕官できるかは、未知数になる。
このまま、他国に行かれても困るので、滝川彦九郎一益には、僕の家臣として仕官してもらうことにします。
彦九郎のことは、お爺に任せます。天文屋の傭兵部隊の一部を指揮してもらうようです。
天文屋の傭兵部隊って何?と思う人も多くいるでしょうが、このような時代で、商人が普通に商売出来るわけがない。
山賊、盗賊、当たり前、中には、村事態が、商人を招いておいて、その商人を襲ってから、盗賊に襲われたように見せ掛けるようなことも、ままあることなのです。
だからこそ、自衛の為にも、護衛の傭兵部隊が必要なのです。
中には、預かり場の出身の者も多くいて、戦いの訓練も出来ていない者もいるから、彦九郎に面倒を見てもらおうと、お爺は、画策しているようだ。
そう言えば、秀吉の木下藤吉郎は、若いとき、旅の商人をしていたはずだけど、ただの農民が、1人で旅をすることができたのか、こんな事情だから、秀吉の忍者説もあったんだよね。
秀吉といえば、そろそろ今川側に、仕えてるのか、微妙なところだよな。
半三に調べてもらってないけど、このまま何もしなければ、多分、普通に三郎信長兄上に仕えることに、なるのだろうな。