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天の子  作者: 夢樹明
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千賀地半三正種

 天文18年 7月  暑い


 まだ、薄暗いの明け方、お爺と僕、それに一三殿とで、話し合いをする。


「して、こたびは、いかがされたので」

 と、一三殿が口火を切る。


 お爺は、

「お天から話しある、そうだ」


 お爺に、促され

「一三殿、こたびは、お願いがあっての、わしの家臣として、仕えてくれんか」


 僕が言うと、一三殿は、ピクリッとしたあと、目を瞑った。


 一三殿は、考えているのか、動きがない。目も瞑っているようだ。


 本当は、もう少しあとでもいいかな、と思っていたけど、砂糖の売り上げが、半端でない程になって、いろいろと前倒しで、始めてみることに、したのだ。


 金太さんに、納豆や、にがりが手に入ったので、豆腐を作ってもらって、美味しくいただいている。

 納豆は、もともとの原形である豆豉を知る、金太さんには、簡単に作ることができた。

 そう言えば、せっかく作ってもらった麦芽飴は、酵母を利用した、お酒や発酵食品を開発してもらおうと思っている。


 一三殿は、目を開き、決意をしたように、僕を見つめる。

 そして口を開く。


「天丸様には、大変ありがたいお言葉、某、とても嬉しく思いまする。されど、某は天丸様に、偽りを申しておりました」


 と、頭を下げる。


「某の、誠の名は、服部半三保長。かつては、織田様とも、敵対致していた者でございます」


 更に、額を擦りつけるように、頭を下げる。


 僕は、ああ、やっぱりな、と、思い。


「存じておる」


 と、答える。半三は、身動ぎ一つせずに、頭を下げ続ける。


 天丸「半三、わしは、お主らが、清康公の死後、どのように生きて来たか、知らん。だがな、三河にて、どのような扱いを受けたかは、想像にかたくない。そのような、お主らだからこそ、わしの側にいて、支えになって欲しいのだ。お主らが、必要なのだ。半三、わしは、お主の返事を受けておらんぞ」


 微かに、震え、顔を上げた半三は、


「ありがたき幸せ、この服部半三保長並びに、伊賀服部党、織田天丸様に、誠心誠意お仕えさせていただきまする」


 そう言ってまた、顔を伏せる。




 こうして、服部半三を家臣として、召し抱えることになった。


 ただ、領地を与えることは、出来ないので、知識を一つ、紙の作り方を教える。といっても、藁や乾燥させた雑草を細かく切って煮付めて、ねばねば、アカモクの液で、紙漉きをする。あまり液が多いと、紙どうしが、くっつく畏れおそれが、あるから、配合は試してもらおう。


 それから、焼き物かな。伊賀には、良い粘土があるはずだから、常滑や信楽で、年老いた職人や借金のある者、理由が、あって外に出たい者を勧誘して、試してみるのもいいかも知れない。


 僕は、常々思っていたのだが、手裏剣やマキビシは、粘土を捏ねて作る方が、簡単だし安くできるのではないかと思っていたのだ。


  手裏剣は、ほぼ牽制で、当たればラッキーな、使い捨て、マキビシは、そもそも地面が、ある程度固くないと使えない。

 マキビシは、テトラポットを尖らせたら、出来そうだから、試して欲しい。


 それに、信楽には、陶石があるはずだし、今なら、その価値をほとんど知られていない。

 陶石は、砕いて使うと、陶器の原料になる物だ。だからと言って、おおっぴらに取っていると、周りに変に思われるから、加減が大事になる。


 お爺は、陶器の原料の言葉に、思わず前にのり出してきたよ。行く気まんまんだなぁ。


 お爺には、信楽で、すり鉢を頼んで来て欲しいな。商売で、人脈を広げてもらいたい。


そろそろ明るくなって来たので、お開きにして、朝ごはんにしようかと、話していると、


「おそれながら天丸様、このように厚遇されるには、やはり、服部の名は、いささか都合が悪うございます。出来ますれば、名をいただくことは、できましょうか?」


 半三は、話しを聞きながら、考えていたのだろう。

 かなり真剣な様子だ。お爺も、頷いている。


「わかった、では、その方は、千賀地半三正種とする、服部の名は、影において使うが良い、良いな」


「ははぁー」


 面を上げた半三の顔は、晴れ晴れしていた。

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