第1話 出会い
ーーー精霊とはこの世の全てに司る霊である。争うことなく共存することで世界は平和に包まれるだろうーーー
パラケル・S・クラトス
ーー「お前だけは生きろ!」
太く、そして力強い男の声ははっきりと聞こえた。
顔はよく見えないが、男はこちらを向いてギュッと手を握る。
「この国...いや世界を...」
男が何かを言おうとした時、窓から入る眩しい光と同時に地震のような衝撃が起こった。
その瞬間、男は手を離し、あとは頼むと隣にいた女性に声を掛け、光の方へと走っていった。
そして女性がこちらに歩み寄ってくると強く抱きしめられた。
「貴方なら大丈夫!私達が見守っているから。」
耳元で囁かれると徐々に意識が朦朧としてきた。
薄れゆく意識の中でふと自分の手を見ると鍵を握っていた。
先程の男から手を握られた際に渡されたものである。
根拠があった訳では無いが、絶対に失くしてはいけないものだと感じとり、ただひたすらに鍵を握りしめた。
「お父さん...お母さん...」
少年は微かに言葉を発しそのまま意識を失くした。・・・ーー
目を開けると太陽の光が眩しくこちらを照らしていた。心地よく風がなびき、川のせせらぎが聞こえる。
耳をすませば鳥や動物の声が聞こえてくる。
「またこの夢か。」
川岸で横たわっていた男はそう言いながら体を起こし、あくびをしながら大きく背伸びをした。
そして、枕替わりにしていた剣と横に置いていたリュックを持ち、背後に見える大きな森の中へと向かって歩き出した。
ー男の名前はサン。訳あって離れてしまった仲間を探して旅をしている。
近くの村で、ある洞窟の情報を手に入れ向かっていたが、道に迷っているところだ。ー
「はぁ・・・洞窟どこだよ。」
サンはため息を吐き、呟きながら村での会話を思い出した。
ーー
「ちょっと訪ねたいんだが。」
村の青果店でサンが女性の店員へ話しかけていた。
「いらっしゃい。あんたこの村の人じゃないね。旅人かい?」
女性店員は笑顔で話しかけた。
「まぁ、そんなとこだ。ところでおばちゃん。モヴロスって聞いたことあるか?」
女性店員は首をかしげた。
「聞いたことないね。なんだいそれは。」
「いや。聞いたことないならいいんだ。邪魔したね。」
そう言ってサンは振り返ると奥に古びた家を見つけた。
少し気になり見ていると、後ろから先程の女性店員が話しかけた。
「あそこには行かない方がいいよ。昔話が好きなじいさんがいるだけだよ。いつもいつも同じ話ばかりしてね。気味が悪いよ・・。」
サンは少し嬉しそうに頷いた。
「昔話ね・・・。」
そう言って古びた家の方へ歩き出した。
「すみませーん。ごめんください。」
サンは声をかけながら扉を叩いた。するとミシミシと音を立てながら扉が開きおじいさんが顔を出した。
「旅の人がこの老いぼれになんのようだい。」
おじいさんはサンを睨みながら話した。
「昔話を聞こうと思ってね。」
おじいさんは少し驚いた表情を見せた。
「旅人に話すような話はない。周りを見てみろ。儂なんかと話しているだけで白い目で見られるぞ。」
そう言われ、サンはあたりを見渡すと村人達がこちらを見ていた。
「昔話で村の皆を怖がらせるだけの厄介じじいさ。」
おじいさんはサンへ帰れと言いながら扉を閉めようとした。
「モヴロス!!」
サンは一言、おじいさんへ向かって声をかけた。
少しの静寂の後、おじいさんが扉を開けた。
「入りな。」
サンはありがとうと言いながら家の中へと入った。
「じいさん。一つ聞いていいか?なぜこの村に精霊が1体もいない。なにより村の人達がそれを気にしていない。精霊がいない村なんて初めてだ。ってかじいさんは精霊分かるか?」
サンは不思議そうに尋ねた。
「あぁ。・・15年前に何があったか覚えているか?」
おじいさんはサンへ問いかけた。
「精霊戦争だろ。知らない方がおかしい。」
サンは少し苛立ちながら答えた。
「あの日、戦争を終わらせたと言われる無数の流れ星の一つがこの地に落ちた。その時からだ、精霊が現れなくなったのも。そしてなぜか皆、精霊の事を忘れている。もちろんあの戦争もな。その他の記憶はあるが、精霊の事だけ覚えていないのだ。精霊だけがなにかに閉じ込められたかのように...。」
その時ふとサンは顔をおじいさんへ向けた。
「そうじゃ。モヴロスじゃ。」
それを聞いたサンの表情が明るくなった。
「やはりあるんだなここに。」
「断定はできんが恐らくな。北の森へ向かえ。あそこには多くの洞窟がある。あるとすればその中じゃ。儂も探しているんだが、若いころのように体が動かなくてな。」
おじいさんも明るくなったサンを見て少し嬉しそうな表情をしていた。
だが、サンは一つ気になっていた。
「なぁ、じいさん。なんでそんなに詳しいんだ。しかもほかの人達は記憶がないのにじいさんだけ記憶がある。」
おじいさんは少し間を空けてから話始めた。
「儂はこの村が、このアルヒ村が好きじゃ...。今の話を信じるかどうかはお前次第。もしお前さんが無事戻ってくれば儂の全てを話そう。ただの旅人に話すような話ではないからな。幸いこの森には強い獣たちはいない。ただ見つけるのが大変なだけじゃ。」
それを聞いたサンは分かったと言い荷物を持って家を出発した。
サンの後ろ姿をおじいさんは見送った。
「どこか見覚えがあるような男じゃな...。あの森には数年、数十年に一度やっかいなのがいるらしいが、まあ大丈夫じゃろうあの強さなら...」
おじいさんは少し嬉しそうな表情であった。ーー
現在
道に迷いながら歩き続けていると、遠くから何かの物音が近づいてくるのが聞こえた。
サンは近くにあった大木に身を隠しながら、音のする方向に目を凝らした。
すると出てきたのはストアール(牙がある少し大きな獣)だった。
サンはストアールを見ると、
「今日の夕飯にしよう。」
そう呟き、狩りに出ようとしたが、ストアールとは違う気配を感じ、その場に隠れたままもう少し様子を伺った。
シュッ!
その音と同時にストアールの頭に矢が突き刺さった。
そして、矢の音がした方向を見ると、茂みの中から1人の少年が出てきた。
ぼさぼさの頭に、獣からはぎ取った毛皮の服を着ていた。
少年は手馴れたようにストアールをその場で解体し始めた。
サンはその姿を見ると、周囲に他の気配がないことを確認し、少年の前に姿を表した。
「お見事!凄いな、少年。ストアールを子供1人で倒すなんて。」
その声に驚き、少年はすぐさま弓をサンへと構えた。
「誰だ!そこを動くんじゃない。動いたら射つぞ。」
少年は動揺を隠せなかった。そして心の中で思っていた。
ーこいつは何者だ。オレが気付かないなんて。ー
サンはその場で立ち止まり、両手を上げた。
「驚かせてしまってすまない。射たないでくれ。ただの旅人だ。名前はサン。道に迷ってしまって困ってるんだ。」
少年は弓を構えたまま、サンへと近づきサンを中心に1周グルっと見回した。
そして、ゆっくりと弓を下ろした。
「付いてこい。少しでも怪しい素振りを見せたら弓で頭を撃ち抜くからな!」
少年はそう言いながら、解体したストアールを持ち、茂みの方へと進んで行った。
サンも分かったと言いながら、少年の後をついて行った。
歩くこと数分、木々がなくなり、岩場へと変わった。
岩場を少し登ると洞窟のような入口が姿を見せた。
そして少年はその洞窟の中へと入っていった。
しかし、洞窟と言っても入口から10m程度入ったところで行き止まりになっており、完全に秘密基地のようになっていた。洞窟内は灰になった薪や少年が寝泊まりしてるような形跡があり、おそらくここで暮らしているのだろう。
「君の名前は?」
サンが少年へ質問すると、少しの沈黙が発生した。
そして、暗い表情をしたまま答えた。
「お前に教える名前などない。」
そう言うとサンを疑うような目で睨んだ。
「そんなに睨むなよ。名前くらい教えてくれてもいいだろ?」
少年はサンの言葉を無視するように、後ろへ向きストアールを調理し始めた。
調理と言っても、火を起こし、肉を焼くだけであった。
その姿をサンはじっと黙って見ていた。
肉が焼き上がる頃、少年は口を開き、小さな声で話しかけた。
「おっ…おまえもくうか?」
それを聞いたサンは少し驚いた表情をした。
「いいのか?ありがとう。」
「そんなにじっと見られてたら1人で食べるのも食べづらいからな。」
そう言いながら、肉をサンに渡した。
サンはすぐさま肉にかぶりついた。
「うまい。久しぶりに美味いもの食ったぜ。ありがとな!」
笑顔で少年へ向けて話した。
サンのそんな姿を見て、少年は少しづつ表情が和らぎはじめた。
「チャビだ。」
少年が話すと、サンはキョトンとした顔で少年を見た。
「名前だよ。オレの名前」
「チャビって言うのか。改めて、オレはサン。よろしくな。」
サンが手を伸ばし握手を求めた。
しかし、チャビは握り返しはしてくれなかった。
サンは残念そうに手を引いた。
「旅人がこの森にいるのは珍しいな。ほとんどの人間は馬車で通り抜けるから森なんて素通りだ。なにが狙いだ。」
チャビはまだ少し疑いながらサンへ質問した。
「疑り深いやつだな。オレからしたら少年一人この森にいる方が怪しいくらいだ。」
サンは少し笑いながら話を続けた。
「ずっとこの森に住んでるのか。」
「あぁ...」
チャビの表情が急に暗くなった。それを感じたサンは話題を変えた。
「そういえばこの森の中で・・・」
サンが話始めたその時だった。
ズドーン!!
森の中から大きな音が聞こえた。
「チャビ!なんだこの音は。」
サンは驚いて、チャビに話しかけた。するとチャビは険しい表情をしながら弓を手に取り、立ち上がっていた。
「間違いない。あいつだ。じいちゃんの仇。」
チャビはそう言うと音の方向へ走り出した。
あまりに集中した表情であった為、サンは話すのをやめて、チャビの後をついて行った。
チャビは森の中を全力で走っていく。木々の障害物があるにもかかわらず、まるで何も無いかのようにものすごいスピードで進んで行った。
「さすがだ。この森は自分の庭のようなものだな。」
サンはそう言いながら走っていた。
音のする場所に近づいたところで、チャビは一旦止まった。そして、木に身を隠し覗き込んだ。サンも同様に覗き込んだ。
「ストアールか。」
サンが呟く。
数百メートル先に5体のストアールが目に入った。
だが、そのストアール達からは先程のような大きな音を出している様子はなかった。
「その奥だ。」
チャビが口を開いた。
5体のストアールの奥を覗くと倍以上に大きいストアールが姿を表した。
「この森の主、キングストアールだ。そして、あいつが…」
チャビの表情がまた険しくなった。
よく見ると、チャビは少し震えているようだった。
「じいちゃん...」
そしてチャビは目を閉じ、昔のことを思い出していた。
ーーオレはこの森に捨てられていた。
じいちゃんは独りで洞窟に住みながら、森で狩りをしていた。
ある日森に捨てられていた赤ん坊だったオレを見つけて育ててくれた。
それからずっとじいちゃんと暮らし、言葉や読み書き、狩り等様々なことを学んだ。
そして、オレが11歳の時事件は起きた。
「ねぇ、じいちゃん。そういえば、なんでここに1人で住んでたの?」
「敵討ちじゃよ!この森の主と戦うためにな。数十年に1度この森に現れるんじゃ。だからここに住んでるんじゃよ。まぁ、その戦いに臨む前にチャビと出会って戦う気も無くなってしまったがな。ガッハハハハー」
笑いながら話してくれた。
その後によく話を聞くと、近くに小さな村があり、じいちゃんはその村の住人だった。
若い頃に冒険者をしていたじいちゃんはその村の食料を確保する為、週に1度1人で狩りに出ていた。
そして狩りに出ていたある日、キングストアールが村に現れた。
村の人々を襲い、壊滅させた。
狩りから戻ったじいちゃんは唯一の生き残りとなってしまった。
敵討ちを決意して、森に入ったところ、赤ん坊であったチャビに出会い、見捨てられず育てることにした。
ズドーン‼
そんな話をしていると、外から大きな音が聞こえた。
「チャビ今から言うことを絶対守るんじゃよ。」
じいちゃんは急に真剣な表情になり、話しかけた。
「これを持っていなさい。」
鍵をチャビに渡した。
「何があっても変な気を起こすでないぞ。これを持っていればお前を導く者が必ず現れる。その時まで失くすんじゃないぞ。この鍵がお前の道を示すはずじゃ。元気にしておるのじゃぞ。チャビ!!」
そう言ってチャビをギュット抱きしめた。そして音の方向へ走って行った。
今思えばあれは、キングストアールが現れた音で、じいちゃんは闘いに行った。そして… ーー
「…ビ…チャビ…大丈夫か?」
チャビがハッとサンを見た。
「急に固まったから何かと思ったぞ!大丈夫か?」
サンはチャビを心配しながら声を掛けた。
「大丈夫だ。問題ない。オレは今からキングストアールを討つ。邪魔するなよ!お前は勝手にしろ。」
チャビはそう言うと、さらにキングストアールへ近づいて行った。
「勝手にしろ!と言われてもオレは道に迷ってるし、チャビなら洞窟の場所知ってそうだし、何より良い奴だから手助けするしかないな。ってかじいさん強い獣いないって言ってたけどいるじゃねえかよ。それよかじいさんにとってはあいつも朝飯前ってか」
サンは微笑みながら5体のストアールの方へと走り出した。
「とりあえず、邪魔しないようにストアールを倒しておくか。そういえば精霊の気配を感じなかったな。チャビの精霊って…?」
そんなことを考えている間に既に闘いは始まっていた。
「ギィーー」
獣の声が森に響いた。
よく見ると、キングストアールの左目に矢が刺さっていた。ダメージを受けているようであった。
そして、その声を聞いて、5体のストアールがキングストアールの方向へ向かおうとしていた。
サンは背中から剣を抜いた。背丈の半分ほどの長さがあり、赤い剣先が見えた。木々の隙間から入る光が剣に反射し、さらに光って見える。
サンはストアールの後方からジャンプし、中央にいた1体の頭に剣を突き刺した。そして、素早く剣を抜き左に振り下ろしストアールの頭を切り落とした。そのまま流れる様に右にいるストアールに向け剣を振り上げ、さらに頭を切り落とした。
あっという間に残り2体となった。
それに気付いたストアールは標的をサンへと変え少し後ろへ距離をとろうとした。
しかし、その隙をサンは見逃さず一気に距離を縮め、剣を下から振り上げ、頭を切り落とした。さらに体を回転させ残り1体へ接近し、剣を頭に突き刺した。ストアールの動きが完全に止まるのを確認した後、ゆっくりと剣を引抜き、血を振り払い、鞘へと納めた。
「よし!完了。」
そう言いながらキングストアールの方へ顔を向けた。
「コイツらは大した事はないが、キングストアールは手強そうだな。」
「わぁー!!」
奥からチャビの声が聞こえた。
ーー「最初の1発だけか…」
チャビがキングストアールの意表を突くように、茂みの中から放った最初の1発が左目に刺さりダメージを与えたが、2発目以降は急所を外れ、ダメージを与えられずにいた。
普通のストアールと違い硬い皮膚に覆われており、矢が刺さらなかった。
キングストアールはチャビの位置に気付き突進を仕掛ける。
チャビは突進を躱しながら再び矢を放った。
しかし、ダメージは与えられず弾かれてしまった。
「くそっ!あんなにでかいのになんて動きだ。」
チャビは小言をもらした。
キングストアールは方向を転換し、再びチャビに向かって突進した。
チャビは後退しながら矢を放った。
しかし、キングストアールには効かず、気付けば徐々に岩場へと追い込まれていた。
さらに、キングストアールは岩場すら気に掛けず突進した。
チャビは突進を躱し、キングストアールは岩場へとぶつかった。
その時であった。
岩場の中に洞窟が出現した。
「なんだあの洞窟!知らなかった。」
チャビは驚いた表情で目を凝らした。
一瞬洞窟の奥に何か見えた様な気がしてもう一度見ようと気を逸らした瞬間、キングストアールが再度突進してきた。
「わぁー!!」ーー
サンが声を聞いて駆けつけると、チャビが血を流しながらなんとか立ち上がろうとしていた。
「チャビ!!大丈夫か?」
サンが駆け寄ると、チャビは声を振り絞った。
「あいつはオレが倒す。じいちゃんの仇だ!」
そう言いながら自分の胸元を強く握りしめた。何かを掴んでいるようであった。
「分かった。あいつはチャビに任せる。でもサポートはさせてくれ。」
サンはサポート役に回ることを決めた。
しかし、一つだけどうしても気になっていることがあり、チャビに聞いた。
「その握ってるのはおじいさんの形見か何かなのか?」
そう訪ねると、チャビは胸元からネックレスを取り出してサンへと見せた。ネックレスの先端には最後におじいさんから貰った鍵が着いていた。
そして、それを見たサンは驚いた表情を見せた。
「チャビ…これ…。」
サンはそう言いながら辺りを見渡し、何かを確認した後、自分の胸元から色違いの同じような鍵を取り出した。
「なんでお前もこれを持ってんだよ!」
チャビは驚いたようにサンへ問いかけた。
「おじいさんからは何も聞いてないのか?」
「聞くも何もその前に…」
チャビは言葉を言いかけたが、ふとおじいさんの言葉を思い出した。
ーー「これを持っていればお前を導く者が必ず現れる。その時まで失くすんじゃないぞ。この鍵がお前の道を示すはずじゃ。」ーー
「もしかしてお前が…」
チャビがサンへ話しかけようとした時、またキングストアールがこちらへ突進してきた。
すぐさまサンはチャビを抱え横へ躱した。
「詳しい話は後だ。チャビこの辺りで宝箱のような物を見た記憶はないか?何でもいい、思い出してくれ!」
サンが訪ねると、少しだけ考え、何かを思い出したようにチャビが答えた。
「さっきキングストアールが岩場へ突進した時に初めて見る洞窟が現れたんだ。そこの中にそんなようなものを見た気がする。」
それだ!とサンが答えると、さらに自分がキングストアールの囮になってる間にその宝箱の元へ行くようチャビへ伝えた。
そして、すぐさまサンがキングストアールの元へ単身突入した。
チャビは洞窟の中へ走り出した。
洞窟の中にはこの場所には不釣り合いな宝箱が一つだけ置いてある。
しかし、普通の宝箱とは違う異様な空気を放っていた。
それを感じ取ったチャビは恐る恐る宝箱へ近付いた。
そして、ネックレスを取り出し鍵穴へと差し込んだ。
奥までしっかりと入れ込みゆっくり回すと、カチャッと音が鳴った。すると、蓋が勝手に開き中から金色の光が輝かしく放出された。
チャビは驚いて後ろへ倒れてしまった。
キングストアールの攻撃を躱していると、洞窟の中から金色の光が大量に飛び出してきた。
その姿を見て、サンは驚いていた。
「チャビは大丈夫なのか。今の光はなんだ?」
洞窟に近寄ろうと考えたが、キングストアールを近づけるわけにもいかず、もどかしくもチャビを心配しながらサンはおとりに徹していた。
宝箱の中から光が放出し終わった。
チャビはゆっくりと立ち上がり恐る恐る宝箱の中を覗き込んだ。
中には真っ白な弓が置いてあった。
チャビは手を伸ばし、ゆっくりと弓に触れようとした。その瞬間またも光だした。
次は弓が白く光っている。チャビは眩しさで目を閉じた。
数秒後ゆっくりと目を開けると、いきなり白いドレスが目に入った。
「えっ・・・」
チャビは驚きながら視線をさらに上へと上げるとそこには女性が立っていた。
黒く長い髪に端正な顔立ちであり、美しいとはこういうときに使うのが正しいのだろうと思わせる綺麗な女性であった。
「チッ...子供じゃねえか...」
女性の口からあまりに意外な小さな声が聞こえた。
チャビはあっけにとられていた。
「えっ!今舌打ち...」
女性はチャビの言葉にハッと気付き、何事もなかったかのように話し出した。
「お待ち申しておりました。私は弓の精霊フェイル。今からあなた様を主とし、いかなる時も主にお使いいたします。以後よろしくお願いいたします。」
その言葉を聞きチャビはさらに頭が混乱していた。
「なんだよそれっ!ってか誰だよお前」
「あらっ、鍵を持っていたのに何も聞いてないのですか?」
話を続けようとしたが、外の戦いの雰囲気を感じたフェイルは話を止めた。
「話をするより、実際に使った方が早いですね。」
そういってフェイルは白い光に包まれた。すると先程宝箱に入っていた白い弓に変化していた。
チャビは恐る恐る弓へと近付き、手に取った。
すると、先程の白い光がチャビを覆うように光り出した。
キングストアールの突進をサンは横に躱した。
「逃げるだけっていうのも大変だな。チャビは大丈夫か?」
洞窟から光が飛び出してから音沙汰がなくなり、サンは心配していた。
すると洞窟から異様な気配を感じた。と同時にサンの表情が少し和らいだ。
「うまくいったかな。・・・・しまった。」
サンが少しキングストアールから目を離した隙にキングストアールが洞窟に向けて突進しようとしていた。
キングストアールも異様な気配を感じ、動き出していた。
サンはすぐに追いかけた。そして剣を抜き戦闘態勢に入った。
「チャビには悪いが攻撃させてもらう。」
しかし、その直後洞窟の中から一本の白い光がキングストアールに向かって飛び出した。
白い光はキングストアールの額に突き刺さった。通常の弓矢では弾かれていた硬い皮膚を軽々と突き破った。
キングストアールはその場に止まり、ゆっくりと倒れた。
サンは少し驚きながら洞窟を覗いた。
洞窟の奥には弓を構えた姿勢のまま立っているチャビの姿が見えた。
しかし、先程までの姿とは異なり真っ白な貴族のような服装(現代風に言えば中世ヨーロッパの貴族)に身を包んでいた。
数秒の沈黙が流れ、チャビはその場に倒れ気を失った。そして服装は元に戻り白い弓だけが残っていた。
ゆっくりと目を開けると眩しい光が目に入ってきた。辺りを見渡しても見覚えのない部屋であった。
何よりベットの上に自分がいることに驚いていた。
「さっきのは...夢だったのか?」
チャビは声を漏らしながらふと横を見ると白い弓が置いてあった。
「さっきの弓だ。夢じゃなかった...」
そういってまた恐る恐る弓を掴もうとすると、部屋の扉があいた。
「おっチャビ目が覚めたか。調子はどうだ?」
サンが笑顔で部屋へ訪れた。サンはキングストアールとの戦いを伝えた。
キングストアールを倒した後、サンがチャビと弓を持って、迷いながらもなんとかアルヒ村にたどり着き、モヴロスの情報をくれたおじいさんの家で休ませてもらっていた。チャビは丸2日眠っていた。
「あ..ありがとう。」
チャビは小さい声でサンへ感謝を伝えた。
「ん?何か言ったか。」
サンはきょとんとした顔でチャビの方を向いた。
「なっなんでもねぇよ!!」
チャビは少し恥ずかしそうに怒っていた。それを見てサンは笑っていた。
「あのさ、教えてくれよ。鍵の事、あの弓の事・・・お前知ってるんだろ?」
サンはチャビの言葉を聞いて頷きながら扉の方へ向かった。
「約束通り話を聞かせてくれ。」
サンがそういうと扉からおじいさんが部屋へ入ってきた。
チャビは誰だ?という表情をしていた。
「このじいさんがチャビがいたあの森を教えてくれたんだ。そしてなぜあそこに宝箱つまりモヴロスがあったのか知っているんだろ?そしてそれが恐らくチャビの答えにも繋がる。」
じいさんはベットの横にあった椅子に座り二人の顔を見た。
「約束じゃからな。ただ先に一つだけ聞いておくことがある。おそらくこの話を聞いてしまうとお前たちのこれから進む道が決まってしまう。というより託すことになるのが正確かもしれんがそれでも良いか?」
サンはすぐに頷いた。そしてチャビを気にかけゆっくりとチャビの方へ顔を向けた。
「何が何だか分からないんだ、このままなんてありえないだろ。話を聞いてから決めるよ。」
まっすぐな瞳でおじいさんを見つめた。
おじいさんは少し微笑み分かったと言い、話し出した。
「自己紹介がまだだったな。私の名はリーデル。話は精霊戦争の10年前、今から25年前の話じゃ・・・・」