人外すらドン引きの「女の園」 2
「えぇ……。何あれ」
ハーレムちゃんは衝撃から、口が塞がらなかった。
ただ、これだけでは無い。
カバンに虫やゴミを入れられる。
「ゴミ溜め」「王国の寄生虫」「ドブ令嬢」などの罵詈雑言。
すれ違いざまに、教材で殴られる。
精霊の祝福で、生み出された、大量の水を浴びせられる。
実習用のドレスを切り裂かれる。
食堂で受け取った、食事を蹴散らされる。地面に落ちた、それらを「食え」と命令される。
これだけであれば、生徒同士のイジメだけで、済んだだろう。
(勿論、問題なのだが)
さらに教員からの不当な成績。
授業中での言葉攻め。
分かるはずもない問題を指名される。
教員からのイジメも、エスカレートしていたのだ。
これらの出来事が一日で起きたのだ。
ハーレムちゃんは、お腹いっぱいの気持ちだった。そして大きく溜息をする。
「流石にハーレムちゃんでも、ドン引きだよ」
今は羽を休めるため、外壁の出っ張りに座っている。そして遠くから様子を観察していた。
今、ナルは別棟へと、移動するため庭を歩いている。
舗装された道を真っ直ぐに向かう。
そのナルを狙っているのが、草木に隠れた二人の生徒たち。二手に分かれ、道を挟むようにいる。
そしてナルが二人と、すれ違う瞬間。
「せーの!」
二人は息を合わせて、バケツの中身、大量の土を、ぶち撒けた。
「うぐっ」
突然の出来事に声が漏れた。そして衝撃から、しゃがみこむ。
「「イェーイ!!」」
二人は拳を振り上げ、走り去って行く。
「クスクスクス」
すれ違う令嬢たちは、ナルの姿を見て、声を漏らして笑う。
ナルは頭から土を被り、着ている制服も茶色に染まる。
「可愛そー」
「うわっ、汚い汚い、まるで汚血のよう」
「あれは汚血の『ドブ令嬢』よ」
「あら、そうだったわね。フフフ」
「泥まみれで、お似合いね」
「そのまま授業に参加したら?」
そんな言葉を言われても、ナルは意に返さない。「何時ものことだ」と慣れた手付きで、土を払い、着替えに向かった。
「これが人間の所業なの?」
(あまりに下劣。何故、同族である者たちが、このようなことを?
大層な理由が無ければ、納得いかないわ!)
ただハーレムちゃんは、久しぶりの下界を、甘く見ていた。
「レーグラント家は、国の汚れ仕事。
下水道管理をしていて、汚いし臭い。目に入れるだけで汚れる」
「しかも下水道を運営するために、元罪人や貧困民、老人、汚血などを雇っては、馬車馬のように働かせている」
「ナルティア本人が、下水道で働き、命令をしているらしい。本当にドブ令嬢に相応しい」
そんな理由には、個人的な考え、正否が怪しい情報、ただの主観が混じっている。
イジメる理由にしては、とても弱い。というか「しょうもない」。
ハーレムちゃんは、顔を真っ赤に、頬を膨らませて、怒っていた。
「ん? 『汚血』って何?」
ハーレムちゃんは、聞いた覚えがない、単語に疑問符を浮かべた。一瞬で頭は冷静になる。
「そんな言葉、あったかしら?
まあ聞いて見るのが一番!」
ハーレムちゃんは、一人ベンチに座る学生に向けて飛ぶ。
ピューと音が出そうな飛び方には、(勿論、そんな音は出ないが)精霊らしさが垣間見えた。
「そこの子! ちょっと良いかしら?」
目を隠すほど、前髪の長い学生が、驚いて飛ぶ。
「うわっ!? せ、精霊様!?」
「こ、声が大きいのね」
(人選を間違えたかしら?)
学生は一瞬で「すみません」と謝る。そして体を震わせながら、ハーレムちゃんの一挙手一投足を見ている。
「少し聞きたいことが、あるのだけれど」
「ぇ? ぁ、はぃ」
(次は小さいわね。まあ良いわ)
「『汚血』という言葉を知りたいのだけれど。
どういう意味か分かるわよね?」
「ぇぇ、分かります」
すると学生は周囲を見渡す。人がいないことを、確認するとハーレムちゃんに近づく。そして声を小さく喋り始めた。
「『汚血』は差別用語の一つです。
深く説明する前に、まず『純血』という言葉を。
『純血』は戦時に活躍した、四大精霊から『祝福されたものたち』。ここディーネ王国では、今の国王と同じ血を継ぐ者を、『純血』と言います」
(ビクビクしていたのに、スラスラと説明するのね。ん? 「戦時?」戦争があったの!?)
ハーレムちゃんは、空白の一○○年に起きた出来事に、驚いていた。
だが学生は気づかず、話を進める。
「『純血』は知っての通り、精霊様の祝福を「一身に受ける」ことができます。
そして戦時中に、生まれたのが『汚血』と呼ばれる「血が混ざった者たち」です」
学生は暗い話に、声量も落とす。
「戦争では『強姦』が沢山、行われました。なので他国民との、『ハーフ』と最近は言うらしいですが。
これを「祝福を受けることが出来ない」者たち、「他国の血が混ざった」『汚血』と呼んでいるのです」
ハーレムちゃんは、衝撃があった。
しかし話が進むので、意識を戻した。
(なるほどね。確かに、ハーレムちゃんの時代には、ナルちゃんのような、見た目はなかったわね。
黒髪に青い目。今、気づいたわ。
あっ! あれか)
「『禁忌』のことね」
ハーレムちゃんは、過去の記憶から思い出す。
「はい。戦前では他国民との『子作り』は、「絶対に行ってはならないと」言われたそうですね。
ですが現在ではーー」
「分かったわ! ありがとう!」
そう言い、ハーレムちゃんは決心したように、飛び立って行く。
「ぁ、ぁぁ。どぅも」
「やはり、というか、何と言うか……ね」
ハーレムちゃんは、中学の校舎を、全て見渡せるほどの高さにいる。
今は、怒りも、驚きも、悲しみも無い。無感情。
その表情には、下界を見下ろす、精霊の姿があった。
「一○○年経とうとも、人間の本質は同じなのね。
やはり、あの子がしようとしたことは、間違い無かった。ただ正解では、無かったんでしょうけれど」
脳内には、忘れもしない『あの子』が映る。
「はぁー」
大きく溜息を吐く。
そして涙を浮かべた。
「駄目ね」
勢いよく、涙を拭う。
「よし! 今はナルちゃんのため、頑張らなくちゃね!」
手を腰に当て、胸を張る。
「ナルちゃんは、「他の子にハーレムを届けて」なんて言ってたけれど。ハーレムちゃんには分かる!
ナルちゃんにこそ、ハーレムは相応しい! ハーレムを届けるぞー!!」
大声で宣言をした。
「カア! カア、カア」
「のわっ!?」
するとカラスたちの襲撃にあう。
「ちょ! 待った、待った!」
ハーレムちゃんは、全速力で安全地帯へと降りる。
ボスッと、大きな木に隠れる。
「あだだだ。痛いわね」
枝に自慢のドレスが引っ掛かっている。
枝を抜きながら、解放される。
「取り敢えず、ナルちゃんにハーレムを届けるため。『決心』させないとね! 頑張るぞ! オー!」
カラスに襲われたにも関わらず、懲りずに大声を上げたのだった。




