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建国祭

「…………。あれは、そう。

 とても麗しい『女騎士』だ」


 褒めるの言葉を、必死に捻り出した。

 あれを褒めるには、この国の常識では、難しかった。


 このディーネ王国において、女騎士は存在しない。

『女騎士』というのは、「例えるなら」という造語だ。


 ディーネ王国、建国パーティにて。

 全ての貴族が勢揃いする中。公爵家の入場、最後尾の貴族。

 レーグラント家が入場した。

 相変わらず、当主オルデランとパートナーのシルティアの身長差に、笑いが起きる。


 その次に、一人の女騎士が花道を進んだ。

 一言で表すなら『青の女騎士』。


 濡羽色のショートで、青色のメッシュ。

 片側だけ編み込み、光り輝く、ブルーサファイアの耳飾りが、とても目立つ。

 目元の青メイクとマニキュア。

 黒絹を使った、青ボタンのシャツ。

 青色のベルトとショーパンに黒のスカート。

 青、単色で、存在感を放つヒール。

 腰には、黒の鞘に収まった、両刃剣を装備する。


 青も黒を主体として構成された、コーディネート。

 青色の持つ強み、『クール』や『爽やかさ』。

 黒色の持つ強み、『強さ』や『大人の余裕』。

 これらを用いたことで、ナルの元々の強みである『強さ』や『大人らしさ』、『男にも負けないクールさ』を、更に引き出した。


 そして女騎士は花道を歩き出す。



「に、にににに兄さん」


 ニアは隣に立つ兄の服を引っ張った。


「あ、ああああアイツだ、な……」


 ジアは口限りなく開き、目が飛び出している。

 二人は、どちらも驚きから体を硬直させる


 騎士科生徒たちは、建国祭の警備も行う。

 二人はレーグラント公爵家、ナルティアが入場することを知り、注目をしていた。

 何時もの女を捨てた、ボロボロでボサボサな格好。それを知っているからこそ、どのように着飾るのか興味があった。


 二人は何かと令嬢を見る機会がある。

 カラフルなドレスを着て、誰よりも派手にとする滑稽な姿。

 それを踏まえ「どんな酷いものなのか」と笑いながら想像していた。


「カッコいーー」


 ニアが、ただ一言。純粋な感想が漏れかけた。


「んぐっ」


 そして勢いよく、自身の口を閉じた。それ以上、口が勝手に動かないように。

 ナルは花道を美しく歩く。

 ニアは徐々に顔が赤くなるのを感じる。


 ドクンッ。


 心臓が跳ねた。

 目が彼女を追っている。


 防ぐなら目を離せばいいのだが。


 それを目に収めたい。一挙手一投足を目に焼き付ける。一瞬、一瞬を見ていたい。

 そして理性では抑えきれず、体は素直に従った。


(そばに居たい)


 ニアは一つだけ秘めた願いがあった。

 それは一度裏切られたこと。


 家族愛を感じたい。

 以前から少しずつ感じていたこと。

 始まりは、ナルが警備騎士に襲われた時。通行人が騎士に襲いかかり、最終的に半殺しをしていた。

 殺される可能性もあったにも関わらずだ。


「何故、そこまでさせたのか」


 それがずっと疑問だった。

 そしてナルを知るうち、分かったのが『家族愛』。

 

 今、ニアの目には、ナルが力強く見えていた。

 それは言語化するならば、『母性』を感じていた。

 当然ながらニアは『母性』を知るわけもなく、ただ「そばに居たい」と感じていた。


 ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!


 心臓が力強く鳴っている。

 身体中が熱く、特に頬は焼けるほどだ。

 そして目はナルに夢中だった。


 ちなみにジアは、衝撃で口を開けたまま、硬直し続けた。



「なにっ!? あれがナルティアですか!」


 ギオンの隣に立つ、副教員イルノは、声を上げて驚いた。

 周りの騎士科の教員や生徒たちも、全員が同じように目を見開き、口を開いて驚いている。

 全員が何時ものナルを知る。


 目の前の女騎士ナルティアを見て、同一人物だとは思えない。

 しかし顔も背丈も同じ。否定する要因は無い。

 何時ものボロボロが無いことを除けば。


「ンハハハ! すげぇな、こりゃあ」


 一人高笑いをするギオン。

 場に沿わない笑いだが、気にする者はいない。

 そして目の端から、涙が溢れる。


「すげぇな。クククッ、ンハハハ!」


 イルノの肩と、自身のお腹を掴み、ただ笑った。


「すげぇ! リオン、お前そっくりな奴だ」


 ギオンは亡き主の名前を呼び、笑い続けた。



 そしてレーグラント家の入場という騒ぎは収まる。

 建国祭のプログラムが進み、貴族たちの「王家献上の儀」が始まった。

 様々な貴族たちが領地から得た、最高級の作物や商品、芸術品を王家へと献上する。


 順番はレーグラント家へとまわった。

 当然、ナルのこともあり、注目は集まっている。


「我らレーグラント家一同、ディーネ王国の建国日を祝い、コチラを献上いたします」


 すると跪いていたナルが、腰の剣を抜刀する。


「なんとっ!」


 その両刃剣は輝きを放ち、目にする者を楽しませる。

「モザイクタイル」のような、色違いの青で構成された剣。

 青色、水色、紺色、白色といった色違い。

 その一つ一つは美しく宝石のようでもある。

 見た者たちは、感嘆の声を漏らす。


「もしや、これは精霊石か?」


 王が確信をしながらも、オルデランに問う。


「はい。こちら精霊石を使用した剣。宝剣になります」


 精霊石は下水道管理などで使われる、「祝福と同等か、それ以下」の力を持つ石である。ちなみに消耗品だ。


 王座に座る、一族の者たちは、その美しさに見とれていた。

 数段下にいる貴族たちも、美しさに見惚れている。

 オルデランは、そんな良い反応に口角を上げた。


「それでは、こちらの宝剣。

 我が娘が試し切りをいたします!」


 あえて声を大きく宣言した。



「ふー」


 毎年の恒例行事。

 ディーネ王家、第二王子ガレイアことガイアは、静かにため息をつく。

 毎年のことながら、令嬢からは色目を使われ、派手なドレスは目に痛い。

 一点、楽しみにしているのは、興味を寄せている、ナルティアが来ることだけ。


「まあ、期待はしてないがな……」


(正直、ナルティアの『強さ』を、今の王国のファッションで、表現できるとは、思えない)


 小さく呟く。


「お兄様、何か?」

「いや、何でもないさ」


 何時もの妹の猫撫声。

 ため息は続く。



 しかしため息は、息を呑んだことで戻ってきた。

 距離にして三メートルもないほど、近くに立つ、女騎士ナルティア。


「マジ?」


 期待を超えた美しさと、カッコよさ。

 ナルの『強さ』を表現できるよう着飾っている。


(欲しい)


 舌舐めずりをした。

 ガイアの『女喰い』が表にでる。


(欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい)


 強い願望が出る。


「ふぅー」


(しかし、今は建国祭。手を出すには、不味い)


「それでは、こちらの宝剣。

 我が娘が試し切りをいたします!」


 そしてナルは宝剣を持ち、貴族と王家の間の広いスペースに立つ。


「それでは」


 ナルは一言言うと、一度、宝剣を鞘に戻す。

 片膝立ちとなり、手は宝剣の鞘と柄にある。


「ふぅー」


 一息吐く。

 この場、全ての音が消えた。

 全員がナルと宝剣を、息を殺し見ている。


 ブンッ! バキンッ!


 一瞬の抜刀。左下から右上に一閃。

 風を斬る音とともに、剣の軌道が凍る。

 空中に「氷の軌道」が残った。

 まさかの出来事に、全員が絶句する。


 ブンッ! バキンッ! ブゥゥン! バキンッ!!


 振り下ろし、体を回転させ円を描く。

 するとナルの周りに、氷の円が生まれた。


「「「うおおおおぉぉぉっ!!!」」」


 全員が驚きに声を漏らした。

 さらに宝剣を手に、踊り子のように舞う。

 そして軌道上に氷が生み出された。

 見る者、全てに衝撃を与え、美しさに感嘆の声を出させる。


「欲しい!」


 ガイアは欲望を声に出した。



「よしっ! 成功ね」


 ハーレムちゃんは、従者として入ったレノの、メイド服に隠れて見ていた。

「おお!」とレノも珍しく声を上げている。


 全て、ハーレムちゃんのシナリオ通りに進む。

 満足そうな笑顔で、ナルの踊りに目を向けた。


「ん?」


 しかし目の端に、一つの懸念が入った。


 スター・リアクション。


 彼は壁に背を預け、表情一つ変えず見ていた。

 それは表情で表せず、驚いているようにも見えた。

 だがハーレムちゃんには、それがーー


 ハーレムちゃんとスターの目が合う。

 そしてスターはニンマリと笑みを浮かべた。


「ヒッ」

「ど、とうされました精霊様?」

「い、いや、もっと前でみない?」

「ああ、そうですね。行きましょうか」


 そしてレノが動き出す。


『やはり、アナタか』


 スターの声は聞こえなかったが、口はそう読み取ることができた。

『ハーレム精霊とドブ令嬢』をご愛読ありがとうございました。

 最初に謝罪を。

 初めての恋愛物であり、皆様の求めているモノを提供出来なかったこと、申し訳ありませんでした。

 それでも読んで頂いた読者様に感謝いたします。


 次回移行は今回の反省を活かしたいと思います。


 では次回作で、お会いしましょう。


 作者、大黒要

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