表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

出会いは下水道にて 2

 職業差別というのは、どの村、街、都市にも存在するものだ。

 例ば、死体を扱う『墓守』や、戦場の片付けを行う『戦場清掃員』など。

 この国、ディーネ王国、王都では『下水道管理』が職業差別の対象である。


 ディーネ王国では『水の精霊』を、最も崇めている。

 その精霊から「汚水を流すなよ」と、直々に命令我下った。


 その言葉により、王都では都市建設計画に、下水道設備と下水再生場が組み込まれた。

 内容として、家庭の汚水、生活排水や雨水、自然排水を、地下の下水道で一箇所に運ぶ。そして再生場にて、汚水を清水へと変え、川に流す。


 この画期的な都市建設計画には、王国からも多額の資産が投入された。

 そして王都は「雨災害に強く」、「下水処理の作業が無くなり」、「排水を清水へと戻し」、暮らす人々を助けた。

 全ては上手く進んだと思われるだろう。


 しかし計画時点で一点、問題が生じていた。

 それは『誰が下水道を管理するのか?』だ。



 レーグラント公爵家。

 ディーネ王国、公爵家にして、唯一領地を持たない貴族。

 正確には下水道が領地とも言えるが。


 ナルはレーグラント屋敷の隣。下水道管理局へと到着した。

 フェンスの入口には、三人の門兵が立っている。

 ナルの姿を見た二人は、一人が管理局へと走る。


「お帰りなさいませ。ナル様。お着替えのほうはーー」

「いえ、それよりも急ぎの用事があります。

 レノとディノンを」

「ハッ!」


 そして、もう一人が、隣の屋敷へと走る。

 ナルはポケットから精霊を、優しく取り出す。


「ナル様、それは? ……えっ!?」

「ええ、何か布などはあるかしら?」

「は、はい!」


 門兵は慌てて、ポケットからハンカチを取り出す。


「ごめんなさい。汚してしまうけれど」

「いえいえ! お気になさらず」


 受け取ったハンカチで、出来るだけ泥を落とす。

 門兵も何かしようと思ったが、ナルの作業を見守ることしか出来なかった。



「お待たせいたしました」


 泥を落としているナルに、若い女性が声をかける。

 振り返ると、門兵と共に、二人の男女が立っていた。


「レノ、ディノン。ごめんなさい。呼び立ててしまって」


 そう言われ、レノは笑みを浮かべ、顔を横に振る。


 レノは「クール」な印象を与える女性だ。

 銀髪のショートで片側を編み込み。

 薄褐色の肌にツリ目。

 特徴的なのは耳裏の入れ墨だ。

 ロングスカートのメイド服を着ている。


「ナル様、我々は馬車馬の如く、働く。

 犬の如く、忠実に仕える。

 謝る必要などありませんよ。

 まあ、仕事を中断して来たので、私には謝って欲しいですが」


 そう言い、ディノンは笑みを浮かべる。


「余計だっ」


 パシッ。


 レノが肩を叩く。


「あだっ」


 ディノン・タカラは、「悪い笑み」が似合う執事だ。

 インナーが銀の黒髪ポニーテール。

 青白いほどの肌に、顔つきは童顔で優しい雰囲気。

 黒光りの指輪と耳飾り、

 インナーも全て、黒の執事服を着ている。

 彼の身長は、出身国にしては珍しく、一七五センチと高めだ。


 ナルは二人の、何時もの光景にクスリと笑う。


「それでナル様。いかがなさいました。どうやらお急ぎの様子」


 ディノンは目を細め、ナルの手元を見る。

 そしてレノとディノンは、目を見開く。


「ええ。まず、レノ。

 精霊様の汚れを落として。それから屋敷のゲストルームに寝かせてください。監視も、お願いします。

 急ぎ、父と母にも連絡を。

 私はすぐ着替え、父に詳細を報告します」

「御衣」


 レノは一言で済まし、ナルから精霊を受け取る。そして足早に屋敷へと向かった。


「それでディノン」

「はい」


 ナルはディノンへと顔を向ける。

 ディノンは片側の口角を上げ、ギザ歯を見せている。


 ナルでなければ、「何を笑っている!」と言うだろうが、気にしていない。

 ちなみにナルは、笑みを見た時、「歯が綺麗だな」としか思っていない。


「南、商店街の第六地区。

 確か、三番点検口に原因がありました。レンガや石の建材が不法投棄。

 それらが、水を堰き止めていたようです。

 急いで撤去に人員を。犯人探しも、お願いします」

「はい。お任せ下さい」


 ディノンは、笑みを浮かべながら、一礼をすると水道局へと向かう。


「ナル様、お着替えの準備が出来ております」


 すると水道局からメイドが声をかける。


「はい。今、行きます」


 ナルは、そう言うと走りだそうとした。しかし一歩踏み出して止まる。

 振り返り、ハンカチを貸してくれた門兵に近寄る。


「ハンカチは新しい物でお返しします。ありがとうございます」


 ナルの手には、泥で汚れたハンカチが握られている。


「え? あ、いえ、それにはーー」


 門兵が言おうとする前に、ナルは去っていく。

 声は届かず、断ろうと手を伸ばしたまま固まった。

 そんな門兵の肩を叩かれる。


「優しい方だろ? 俺たちも経験済みだ」

「えぇ? 貴族様ですよね?」

「れっきとした、レーグラント公爵家のご長女。

 ナルティア・レーグラント様だ。ちなみに一八歳」


 ナルが向かった先に目を向けた。

 その目には「年下の令嬢」ではなく、「敬う主」として映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ