騎士科の一日ルーティーン 2
「持ってきたよっと!」
ナルは驚いて隣を見た。
「え? なんで」
いつの間にか、スターが隣に座っていた。
頭が回らず、簡単な疑問しか出てこない。
「んえっ? それは、一緒に食べたほうが、美味しいと思ってさっ。はい、どうぞっ」
両手には包まれた軽食を持っていた。片方をナルに渡す。
「ありがとうございます」
「ハハハッ! 元気出して、食べよっ」
スターは同じように、壁に背中を預け、片足を立てる。そして包みを開け、中には入ったサンドイッチを食べ始める。
ナルは疲れからか、そんな一挙手一投足を、ずっと見ていた。
すると少しだけ、体が温まる気がする。
「んっ? どうしたっ?」
「あ、いえ、何でもないです」
慌てて包装を取り、食べ始める。
「うおっ? 止んで来たか?」
食べ終わった頃、雨雲は去り、太陽の光が差し込んできた。
そして鐘の音が響いた。
「よしっ! 行きますかっ。
ナルチャン、行けるっ?」
スターは勢いよく立ち上がり、ナルを見る。
「はい。お陰様で行けそうです」
ナルの手を掴み、立ち上がらせる。
「よしっ、なら行こうか!」
そしてキラッと星を飛ばして、訓練場へと歩いていく。
(ウザいけれど、とても暖かい。
太陽のような人だ)
そしてナルは続いた。
昼からは一時間、歩行訓練が行われた。
そしてニ時以降は、個人的に剣技の訓練を受ける。しかし問題児の第九に教える教員はいない。
「貴様、第九だな?」
それもあり、第九の生徒たちは解散していった。
「ナルチャンッ、オレッは戻るけど?」
「はい。私は見学しておきます。でも実家に戻るので、すぐ上がります」
「ハハハッ、無理しないようにねっ」
そしてスターたちは、部屋に戻っていった。
ジーーー。
剣技の指導を観察。そして偶に剣を振る。
これを繰り返していた。
「やりにくくね?」
「あ、ああ。まあ第九の奴らだからな。しかもアイツ、令嬢科から来たっていう」
「ああ、『ドブ令嬢』か」
ナルの視線を感じながらも、何かされたわけでもない。文句のつけようがなかった。
そして鐘の音。時刻は六時頃。
ナルは部屋へと戻り、濡れた服を着替える。
荷物をまとめると、レーグラント家の屋敷へ向かった。
小月は一○日。その中で五、九、一○日目は休みとなる。
基本的に、泊まり込みの騎士科だが、休みの日は自由だ。
そのためナルは、九、一○日目は、屋敷へと帰っている。
「「「お帰りなさいませ!」」」
メイドと執事たちの挨拶に迎えられ、屋敷へと帰ってきた。
「皆、ただいま」
ナルは笑顔で挨拶を交わす。
そして用意された湯浴みを済ませる。
父は会食でいなかったが、母とハーレムちゃんとともに、騎士科での出来事を話しながら、食事をした。
そして久しぶりにナルは自室へて帰った。
「本当にお疲れね。ナルちゃん」
「そうですね。なかなか、疲れます。
というか一つ、お聞きしたいのですが」
「んん? 良いわよ。何でも聞いて頂戴っ!」
ナルは椅子に座り、ハーレムちゃんは机に置かれた椅子に座る。
「あのー、ハーレム様を信用していないわけではないんですがーー」
ナルはハーレムちゃんを、伺いながら話す。
「本当に大丈夫ですか? 何もしてないんですが」
そして苦笑いで尋ねる。
事実、ナルはハーレムちゃんからの、具体的な指示は無い。
「ええ、問題ないわよ。全てが想定通りね」
「は、はぁ。その、例えば「あの男に話しかけろ!」
とか、「コイツには、これを話せ!」みたいなものが、あると思っていたので。
……少し不安です」
「アハハハ、そういうことね。……なるほど、アハハハ!」
ハーレムちゃんは、高笑いをする。
ナルは疑問符を浮かべた。
「いやー、ナルちゃんが真剣な顔で、言うから。何か心配事があるかと思ったけれど、そんなことね」
「え、ですがーー」
「ハーレムちゃんたちは、子どもたちを洗脳したり、人生を操ったりしてはいけないの。
これは精霊たちの決まりことなのよ」
「えっ?」
突然の告白に、ナルは目を見開いて驚く。
「とにかく、ナルちゃんらしく、自分だったらどうするか。これを考えること。
そして決して折れないこと。
それだけ忘れないで頂戴」
ナルの不安は解消されなかったが、ゴリ押し気味に説得させられた。
「精霊様。こちらが今日のナル様、近辺の報告書です」
「うん、レノちゃんありがとねー」
ここはハーレムちゃんの執務室。
レノから報告書を受け取る。
「う〜ん。スター・リアクションって子は、気になるけれど、怪しいことは無いわね。
今は放置で良いかしら。
心の支えになっているのは、良い誤算ね」
ハーレムちゃんは、報告書を読みながら、独り言を言う。
「…………」
「あら? 何か?」
レノが何も言わず、見てくることに気づく。
「一点、お聞きしたいことが」
「ええ、良いわよ。どうぞ、どうぞ」
書類を置き、話を聞く体勢になる。
「それでは、精霊様から見て、ナル様はどうですか?」
「……そうねー。ハーレムちゃんが、「問題ない」って言っても、聞いていることは違うでしょう?」
レノは無言で頷く。
「それじゃあ、真剣に言うわね。
ハーレムちゃんは、ナルちゃんを調べる中で、「ダメダメな子」だと思ったわ」
ハーレムちゃんは、表情を変えず、悪気も無さそうに言った。
「っ!?」
レノは驚く。そして殺気を放った。
「アハハハ、本当に子供たちは面白いわね。
血の繋がりもない、主従の関係に、そんな顔が出来るなんて」
そう言われ、驚きから肩を揺らす。
だがハーレムちゃんの言葉は止まらない。
「人を振り向かせる美貌は無い。
特出した才能を持たない。
性格も良いけれど、「良い人」止まり。
ファッションセンスも無い。
聞き入らせる声も無い。
センスも無い。
背丈も無い。
無い、無い、無い、なーんも無い」
話しが進む中で、レノは殺気を濃くさせたいく。
ついには、スカートに隠されたナイフに、手を伸ばそうとした。
「だけれど、一つだけ持っていた」
「ん?」
レノの手は止まる。
「それは『強さ』。
何にも負けない、折れない、挫けないという気持ちの強さ。
みんなが、ナルちゃんを好いているのは、『強さ』に惚れたからだと思うの。
まあハーレムちゃんも、その一人なのだけれどね」
ハーレムちゃんは、思い出したように宙を見る。
そんな精霊にレノは聞き入った。
「だからこそ、唯一にして、最大の武器を鍛えて、更に強くなってもらう。
足りないものは、ハーレムちゃんたちが、裏から支える。
イベントも、出会いも、試練も、話し相手すら」
(……そんなことまで)
レノは体を震わせた。
先代、レーグラント家当主は、力に負ける純血貴族に対抗するため、情報収集能力と隠密活動能力に特出した部隊を結成した。
その名は『禁色』。
禁色は「実際には存在するが、人間の目には見ることができない」という意味合いがある。
レーグラント家のメイドたちは、全員が禁色に所属している。
レノも『音』の祝福を買われ、所属する。
耳の裏に入れ墨を入れているのは、そんな理由からだ。
閑話休題。
ハーレムちゃんからは、禁色に対して、沢山の指令が出された。
いくつか上げるとーー
指定された人物の、日常生活記録。
ナルの行動記録と話した者との、会話記録。
正直言えば、レノは「意味あるか?」と思っていたのだ。
実際は綿密な計画のため。
「さて、レノちゃんたち、禁色には働いてもらうわよ?」
「……御衣」




