ええ、……すごっ 2
ガタンッ。
しばらく騎士科でのルールを聞いていると、ノック無く、部屋が開けられた。
「んなっ!? お前たち、何をしていた!」
イルノは取り乱したように、声を荒げる。
部屋に入ってきた二人は、顔つきがよく似ている。
その一人が右の拳を真っ赤に、シャツには返り血を浴びている。
「おお! ジア、派手にやったな。ンハハハ!」
ジアと呼ばれた少年は、『子鬼』を連想させる。
刈り上げた明るめの茶髪。
童顔ながら眉の間に深いシワを寄せ、頬から肩までに深い傷。
大人のような「悟った」ような目をする。
身長は一六一センチと低め。
シャツのボタンを全て外し、中のインナーが見えている。
インナーがパンパンになっていることから、相当、筋肉質だと分かる。
更に拳とシャツに、返り血があるのだから、恐ろしさがある。
ただ彼は騎士科の生徒だが、武器を持っていないようだ。
「フッ」
ジアは大笑いに、鼻から息を吐く。
「馬鹿の第三どもが手を出してきた。
兄さんは悪くないよ。まあ弱すぎたけどね」
そんな兄に代わり、ジアの後ろに立つ少年が言う。
「そう言いながら、ニア、お前も加勢しただろ?」
ニヤリと笑う。
「まあね」
ニアは、ジアより可愛げがあり、子犬のようだ。
明るい茶髪でツーブロック。
同じく童顔だが、可愛らしく、傷一つ無い綺麗な顔つき。
ぱちくりとした目で、ニヤリとした顔が似合う。
身長は一五六センチと、ジアより少し低め。
腰ほどまでの紺色のポンチョを着ている。
動くたびに、ポンチョの中からは、鋼が当たる音がする。
中に武器を隠しているのだろう。
ジアとニアの兄弟は、顔つきは似ているが、雰囲気や印象は大きく違う。
「何をっ、チッ。面倒事増やしやがって」
イルノは頭を抱える。
「ごめんね、イルノ。
でもギオンに言われた通り、一回殴られてから、潰したから良いよね?」
ニアは、全く反省の様子なく、笑顔で言う。
ジアは血に染まっていない左手で、肩を擦る。
「フッ」
ジアもニアの言葉に笑う。
イルノは何度も舌打ちをして、「何なんだよ」と言っている。
「あー、私は退室しても?」
ナルは、この場にいないほうが良いと判断する。
「んん? この兄弟が、君の班の二人だそ?」
ギオンは「言わなかったか?」という風に、ナルを見る。
「ど、どうも」
「フッ、令嬢様が『糞溜め』に来るとは」
「ンハハハ! 『糞溜め』か。良い表現だ」
ジアは呆れたように言う。そして二人の目がナルに向く。
ジアは「殺気」を、ニアは「冷たさ」を込める。
まるでふるい落としだ。
「…………?」
だがナルは、懐かしさを感じた。そして二人が目を向けるだけで、何も言わないことに、疑問符を浮かべる。
「フンッ」
ジアは鼻で笑う。
「誰が決めたの?」
ニアが可愛らしく問う。
「はぁ。上からの命令だ。
どうせ面倒事を押し付けただけだろう。まあ追い出すためかもしれんがな」
イルノが憶測を含め説明する。
するとジアがナルへと近づく。
距離は一歩もない。
ナルは身長差により、ジアを見下ろす。
「…………」
「…………?」
(んん? 殺すの一言でも言われるかと思ったけれど)
するとジアは一歩、後ろに飛んだ。
「何を!?」
イルノが驚く。
ジアはナルの持っていた剣を抜き、後ろへ飛んだ。
そして腰を下げ、剣を下に構える。
右下から左上に、首を斬らんと振り上げる。
一瞬の出来事。
ナルは当然ながら、イルノも手出しが間に合わない。
ギオンとニアは笑う。
ナルには、ギオンの「殺すことに慣れた目」だけが見えていた。
ブンッ!
剣は風を切り音を鳴らす。
例え、刃が欠けていても、致命傷を与えることは可能だ。
「…………」
「何故、避けない」
剣はナルの首から、拳一つもない位置で停止する。
「ん?」
ナルは疑問符を浮かべた。
「お前、死にかけたんだぞ。怖くないのか?」
ジアはシワを寄せて問う。
「避けたとして、私を殺せれたのでは?」
「……まあな」
「だったら、潔く死ぬほうを選びます」
全員が目を見開く。
ジアは何事か言おうとしたのか、口をパクパクと開いては閉じた。
鼻から息を吐くと、剣を鞘に戻した。
そして血がついていない左手で、ナルの頬を掴む。
「んぐっ」
ナルは咄嗟のことに驚く。
両頬を掴まれ、唇が突き出る。
そしてナルは一七三センチで、ジアは一六一センチという身長差かあり、構図は可笑しい。
ギオンは吹き出す。
「命は有限だ。潔く死ぬなんて、クソ喰らえだ!
死ぬまで抗え。ここは、お前の生きた世界ほど、生温くない。それが分かったら帰れ。目障りだ」
ジアは、そう言うと出ていく。
「兄さん!」
ニアも続く。
部屋が静まる。
「痛かった」
掴まれた頬を擦り呟く。
「ンハハハ! これな痛いことを言われたな」
ギオンは勢いよく立ち上がり言った。
そしてナルの肩に手を置く。
「まあアイツの言ったことは正しい。
今こそ、騎士は『綺麗』で『清い』と思われてるが、元は戦う者たち。
戦う者において、一番重要なのは「殺されないこと」だ。よく覚えておきなさい。
まあ頑張れよ〜」
そう言って、酒瓶を持って部屋を出た。
(髪や髭を整えて、服を着こなせば、先生らしかったのに)
そう思いながら、ナルはギオンを目で追う。
「あ〜あ」
大きな溜息が聞こえる。
目を向けると、イルノが見下すような目を向けていた。
「ナルティア、忠告です。
貴方がここにいる理由は、末端の私が知る必要もない。さっさと逃げ帰ることをオススメしますよ。
ドブ令嬢さん」
そうしてナル以外、全員が部屋を出た。
「えぇ。……すごっ」
ナルは、ただ言葉を失った。




