えぇ、……すごっ 1
「遅いですよ」
「すみません」
(この人は苦手だな)
ナルは中学の騎士科棟を歩く。
イルノ副教員を先頭にして、ある部屋を目指している。
歩く中、騎士科の生徒たちから、様々な目を向けられる。
中でも『驚き』が多い。
それも当然、騎士科に女生徒が編入するのは、初だからだ。
数は少ないが、射殺すような目に気づく。
(やなりハーフ(汚血)の方々が多い。ハーフからすれば、貴族は差別の発端。仕方がない。
まあイルノ副教員も、酷かったけれど)
黒と白が半分に混じったセミロング髪。
それを後ろで結んでいる。
色白の凹凸の少ない顔。
そして人を見下すようにできた目。
色白で一八○センチの身長。
特に髪色はハーフ(汚血)を強く感じさせる。
服装は髪にあわせてか、黒と白のシャツとパンツ。
腰には二本の短剣を装備している。
ナルは騎士科に来るために、騎士科の紺色の制服にシャツ、インナー、パンツを着て、髪を後ろで結んでいる。
生徒となるが、公爵家の令嬢。
初対面であれば、教員、騎士であれば、膝をついて挨拶をするのが普通。
だが、初対面早々にイルノは鼻で笑う。その後、溜息をついて挨拶をする。
理解はできる。「憎むべき貴族」「遊び半分」「職権濫用」少し考えただけでも、イルノの内心は考えつく。
それを理解していたからこそ、何も言わなかった。
「これから、よろしくお願いします」
深く頭を下げた挨拶。
「では、教員の元へ挨拶に行きます。ついて来なさい」
それだけ言うと、先導して棟内を進んだ。
誰も手を出してこない。
令嬢科の第三皇女テラシアを筆頭とした集団。
彼女らのように直接な攻撃をしない。
「ドブ令嬢」などの言葉、怪我をしかねない暴力行為。
(今だけかもしれない。テラシア様から命令されて、イジメを開始するかもしれない。
でもこの状況は「懐かしい」)
ナルが幼く、職員たちと、初めて話したとき。
そんな昔の記憶を思いだす。
トントン。
「失礼します」
返事を待つことなく、ドアを開ける。
すると隙間から、アルコールと強い甘さが臭う。
「チッ。「連れてくる」と言っていただろうが」
そう言うと、イルノ鼻をつまんで部屋に入る。
「うわっ」
あまりの部屋の状況に声を漏らす。
部屋には大量の酒瓶。散らばった書類。倒れた騎士の魂こと剣。
大きな窓の前に置かれた机。
その机を寝台にうつ伏せで寝ている、一人の騎士。
イルノは、足元の障害物を蹴飛ばしながら、机へと近づく。そして寝ている騎士を、叩き起す。
「ギオン教員! 起きてください!」
「……ん、あ。酒ぇ」
「チッ、駄目だこりゃ。起きろよ!」
そして座っている椅子を蹴飛ばす。
「ゴガッ」
地面に叩きつけられた騎士は、起き上がり、床に座る。しかし二日酔いのためか、目が死んでいる。
「んおお、イルノ、どぅぁ」
座ったのは良いが、また気を失ったように寝た。
「チッ、チッ、チッ」
イルノは、そんな騎士ことギオンに怒る。
「起きろや! クズ教師が!」
そう吐き捨て、体を掴み、無理やり椅子に座らせる。
パンッ! パンッ!
座らせると、二発のビンタ。
「うぉ」
ナルから声が漏れる。
「んあっ!? どうした?」
「はぁ、新たに編入した生徒です。連絡していたでしょう」
「あ? ……あぁ、そうだったな」
ナルは背筋を伸ばし、力強く立つ。
ギオンは虚ろな目でナルを見る。
「ふぁー」
人前で大きな欠伸。
拍子抜けする。
「はぁ、ナルティア。
こちらは、この騎士科、六学年、第九部隊の教員を務める。ギオン・リ・テル教員だ」
ナルは目を見開く。
(ギオンって、あの『不死鳥』と呼ばれた。
騎士科、歴代最強騎士の)
ナルが子供の頃、世代は違えど、名前を知っている、超有名人。
(でも、あの『不死鳥』がこんな……)
まるで浮浪者のような姿。
長さも髪質も、ボサボサな黒よりの赤髪。白髪も混じっている。
整えていない無精髭。
酒により年齢以上に老けた顔。
大量のシワと浅黒い肌、紫色の唇。
ゴツい顔で威圧感はあるが、覇気は無い。
服の下でも分かる、筋肉質な体。
身長は一八○センチ。
何日も洗っていないであろう、くすんだ白シャツ。
『不死鳥』と呼ばれた面影は無い。
今のギオンの姿に、開いた口が塞がらない。
「それで、この度、編入することになった生徒。
ナルティア・レーグラントです。
……ナルティア」
ナルは、イルノの声掛けで、気を取り直す。
「ナルティア・レーグラントです。ご迷惑、おかけしますが、よろしくお願いいたします」
深いお辞儀。
「……なら帰れよ」
イルノの腕を組み、聞こえない音量で言う。
そしてギオンは、机に足を乗せる。
「ふーん。よろしく」
あまりにアッサリとして言葉。
ナルは頭を上げる。
「剣はこれを」
イルノから渡された剣。凹みが多く、刃は欠け、グリップは劣化が酷い。
(重っ)
ズッシリとした重みを感じる。
「フッ、そんなことで大丈夫か?」
イルノの煽ったような言葉。口角を上げ、見下す。
「はい。努力します」
一瞬の返答に、イルノは面食らった顔をした。
「ンハハハ! うぷっ。おもしれぇ」
ギオンからはそんな言葉が。
「ありがとうございます」
返答を気に入ったようで、また笑う。
イルノは舌打ちをする。
本人は深い意味は無かった故に、驚いている。




