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出会いは下水道にて 1

 ここは下水道。

「暗い」「汚い」「臭い」の三Kが揃うところ。


 そこに三人の侵入者が入る。

 三人は地上へと続くハシゴから、下水道へと降りてきた。手に持つ灯りで、暗闇を照らして歩く。


「水かさが」


 下水道に流れる水かさは、三人の膝下まである。


「うわっ、あんまり歩きたくねぇな。

 ナル様、平気ですか?」


 そんな嫌がる素振りを見せるのは、お喋りな新人。


 この言葉は流れる汚水を、気にしてのことだ。

 汚水に含まれるのは糞、尿、生活排水、自然排水である。何処からか流れた、廃棄物もある。

 そのため、見た目もだが、匂いもキツイ。

 長時間滞在すれば、間違いなく体調を壊す。


「ええ、大丈夫」


 先頭のナルと呼ばれた女性は、グイグイと前に歩く。下水道を歩くことに躊躇がない。

 三人は水に時間を取られながら、目的地へと向かう。


 ナルの格好は一言で言えば、「女を捨てて」いる。


 ロングの黒髪を、適当に後ろへ流す。

 大きく強く、青い目。

 中性的な顔つきと、少し筋肉質で、頼りがいを感じさせる。

 身長は一七三センチと、女性にしては高いほうだ。

 

 ここまでであれば、普通の特徴だろう。

 だがーー


 上の服は黒のタンクトップに、肘を隠すほどの大きい防水手袋。

 下の服は防水のウェダーズボン。

 そして匂いを防ぐため、口元に布を巻いている。

 正直、効果は薄い。


 まるで漁師か農民のような格好。

 この姿を見て、ナルが年頃の乙女とは、誰も思わないだろう。


 後ろの二人も、同じような格好だ。


「ナル様は、すんごいな。慣れか?」

「俺たちも行くぞ」


 水に流されないよう、下水道の端を進む。


 しばらく進むと、水かさは腰まで上がってきた。さらに、下水に含まれる、漂流ゴミが多くなる。

 中には朽ちた木、不法投棄された生ゴミ、破れた布など。

 三人は、それらを手で避けながら進む。


「チッ、全く不法投棄が減らない。

 こんなもん流すなよ。だから詰まるんだ」

「まあ無理もない。

 捨てるだけで金が取られるんだ。出来れば、無銭廃棄したいはずた」

「全く、はた迷惑だぜ。……うおっ!」


 すると、二番目に歩いていた、お喋りな新人の足首が曲がり、体勢を前に崩す。

 足元の障害物を踏んだのだろう。気にしていれば、そんなこと無かったはずだ。


 ガシッ。


 だが倒れる前に、体が強い力で支えられた。


「大丈夫ですか?」


 助けたのはナルだった。

 気づくと、一瞬で肩を掴み支えた。


「す、すみません!」


 非常に危険だった。

 汚水の流れは緩やかだが、水かさは腰まである。

 体勢を崩せば、ナルを押し倒し、漂流ゴミと同じく流されていただろう。


「進むときは、すり足で、軽く腰落とすといいです」

「は、はい」


 怒りを見せず、少し笑みを浮かべ、注意点を指摘するだけだった。

 そんな行動と言葉には、カッコよさがあった。


 男は今日が初日の新米。

 一度地上で聞いた注意点。

 顔は、同じことを言わせたことへ、申し訳無さが表情に現れていた。


「大丈夫だ。気にすんな」


 すると最後尾の男が声をかける。


「ナル様が気にしてないなら、俺たちも気にしない。ほれ進むぞ」


 ポンッと背中を叩かれ、前に進んだ。



「これは……」


 ナルは目の前の光景に、声を漏らす。


 下水道の先には、ゴミが壁を形成している。

 主にゴミたちは水に浮かない、レンガや石、建築材だ。それらに、流れてきた漂流ゴミが、引っかかっている。

 そして壁となって水の流れを、防いでいるのだ。


 三人の目的は、下水が流れない原因追求のため、調査に訪れていた。


「なんでこんなことに?」

「……ここは点検用の入口があります」


 ナルは壁の上を指をさす。

 先には、三人が降りてきたものと、同じハシゴがある。

 そのハシゴの下を中心に、壁を形成している。


「多分、勝手に点検口を開けて、不法投棄かと」

「「なるほど」」


 ナルは、壁に吊るされたフックに、灯りを引っ掛ける。そして壁へと向かう。


「ナル様、俺たちは?」

「少し、離れて待ってください」


 そう言うと迷いなく、ハシゴを掴む。壁を台にして、三段ほど昇っていく。


「よっ!」


 すると壁に対してキック。


 ガタッ!


 一蹴りで綺麗に倒れる。崩れた壁は汚水に沈んだ。

 そして止まっていた汚水は、勢いよく流れ始めた。


「「おお!」」


 水かさは勢いよく下がっていく。

 ナルはハシゴから降り、それを見守った。


「豪快っすね」

「簡単でしょう?」


 ナルは布の下で、笑みを浮かべる。

 三人は豪快なキックを思い出して笑った。



「これは酷いな。普通、捨てるか?」


 三人はお喋りをしながら、流れていく様を大人しく見ていた。


「ん?」


 ナルは疑問符を浮かべ、手を伸ばした。


「ナル様? ん? それは」


 三○センチほどの、ピンク生地の人形を持っている。


「人形。……いや、精霊様?」


 覗いた二人も「えっ!?」と目を見開く。


 よく見ると、背中に半透明な羽が、生えている。顔には色白の肌、閉じられた目、小さな口、鼻がある。


 精霊は人々を、容易く殺すほどの、力を持つ存在だ。そして祝福されれば、人間はより精霊に近づく。

 そのため恐れられ、崇められる存在だ。

 姿は人型や動物型、様々である。しかし「より人間に近い姿ほど、恐ろしい力を持つ」と噂されている。


 雑に扱えば、どんな目に合うか。


 ナルは精霊だと気づくと、迷いは無かった。


「私は、ここから屋敷に戻ります。

 直ぐに人を呼んでくるので、これら建材の撤去を、お願いします。

 ロウズさんとルゥさんは、水の邪魔にならないよう歩道に建材を移動させておいてください」


 下水道には元々、右側だけに、水に濡れないため、歩ける段、歩道がある。

 今は建材に防がれ、水が足首程度まで増しているが。


「了解しました」

「精霊様をお願いします」

「はい。では直ぐ行ってきます」


 ナルはポケットに精霊を丁寧に入れる。そして素早くハシゴを昇っていく。


「はぇー」

「流石、ナル様だ。……さて、さっさと仕事を済ますぞ!」

「は、はい」

 お喋りな男の頬は、赤く染まっていた。



 ナルは点検口を開け、街路を走る。

 すれ違った民は、放つ匂いと姿に、嫌な顔を向けていた。


「臭っ! 誰だ?」

「ああ、あれだ。汚血で公爵のレーグラント家。『ドブ令嬢』ってやつだ」

「チッ、目が汚れるぜ」

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