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3題小説 太陽・病人・カッター 太陽の熱

作者: 金巫女

階段を一足飛びに登る音が聞こえた……と思ったら、部屋の扉が勢いよく開いた。

「こんにちわ」

遠慮なく侵入してきた友人に挨拶をする。

夏真っ盛りにふさわしく、真っ黒に焼けた彼の姿は私にとってとても眩しい。

「おっす……おい、その後ろに隠した手をあげろ!」

「あれ、今日は友人ののぞむじゃなくて銀行強盗が着たのかな? 残念ながら私に差し出せるのはこのやせ細った体ぐらいで……」

「ごまかすなよ陽子。ほら」

 むんずと掴まれて、暴かれた手から一滴の赤い雫が流れ落ちる。まだその生暖かさを感じられる。

「……ん。バレちゃったか」

今日はあまりにも彼の来訪が急すぎて、誤魔化す暇がなかった。

「うわ、今日はそこそこ深くいったな」

「そうかな?」

「痛いだろー、これ」

「んー、普通かな」

顔をしかめる彼に平気そうな顔で答える。

もちろん嘘だ。

痛い。

とっても痛い。

ーーでも、これぐらいじゃないと熱くないじゃないか。

「どんな普通だよ、それ」

苦笑しながら私の机の一番下から救急箱を取り出す。

淀みなく消毒の作業を終わらせて、包帯をさっと適切な長さに切り終える。

テキパキと手慣れた作業を終わらせてくれた。

「はい、いっちょ終わり!」

「痛っ!」

包帯上から叩かれた痛みで声を上げてしまった。

「やっぱ痛いんじゃないか。もうやめろよなー」

元気のいい声とは裏腹に音もほとんど出ないほどのソフトタッチ。

これはリストカットを繰り返す私にたいしての、望なりの精一杯の抗議。

虫すら殺すのをためらう優しい彼の気持ちに私は気づいている。

でも、ただ彼も見ず、何もない床をじっと見つめる。

それが私の答え。


私に聞こえないように小さな降参のため息をついて、彼が学校の土産話を始める。

眠い授業、クラスメイトのバカ話、小テストの結果。

もう燦々と太陽が輝いている季節のはずなのに、彼の大好きなプールの話は一切でない。

今日だってきっと外は夏の日差しで一杯だろう。

この部屋の窓は全て厚い遮光カーテンで塞がれているから、あくまで想像だけれど。

日が落ちない限り開けることはできない。

半年前に光線過敏反応を発症した私はたちまち、皮膚が赤く爛れてしまう。

痛み止めなどの薬効も薄く。未だ治る目処が立たない。

そんな、私だけの日中の鉄格子。


ーーそして、望の話はクラスメイトが私に戻ってきてほしいという定番で終わる。

「お前も、早く治って来れるようになるといいな」

「そうだね」

表面上仲良くもなかったし、彼、彼女らに対して別に未練はないが。

幼なじみの申し訳無さそうな顔には少し、心を揺らされる。

「太陽の光が恋しいよ」

包帯を巻いた右手が疼く。

このクーラーが効いて陽の届かない寒い部屋の唯一の熱。


「ほら見てみろ!」

ぼんやりしていて、声のほうを見上げると電球にナニか紙を貼り付けていた。

オレンジ色の丸い絵。

「これだった太陽のあかりだろ?」

その手にはさっき、私の手を割いた私のカッターが握られていた。

いつの間にか太陽の絵を描いて、切って貼り付けたらしい。

高校生にもなってなんでそんな稚拙な……温かいことができるんだろうか。

さすがに恥ずかしそうに笑う彼。

「熱いなあ」

望は僕の太陽だ。

眩しくて、火傷しそうなぐらいに熱い。

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