エピローグ
純文学は初めて書くので暖かい目で見守ってくれるとありがたいです
一月の夜の寒空の下
1人の青年が公園のブランコに座っていた
じっと虚空を見つめるその双眸からはなにも窺い知ることは出来なかった
何をするわけでもなくただぼうっと人を待っていた
「おじさん」
1人の少女が青年に話しかけてきた
彼女こそ青年の待ち人であった
恐らく10歳ぐらいの少女、深夜になろうとしている真冬の公園にはあまりにも場違いであった
「俺はまだピチピチの22歳なんだ。おじさんではなくお兄さんとかお兄ちゃんとか、もしくはパパとか、そんな風に呼んでくれ」
「パパ」
「冗談だ、お兄さんと呼んでくれ」
「それはヤダ」
「そうか・・・嫌ならしょうがないな」
「おじさんまたここにいるの?もう深夜だから家に帰った方が良いよ」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ。子供がこんな深夜に外に出るもんじゃない、早く家に帰りなさい」
「家に居場所がないの。どうせ学校もコロナで休校だから問題ないでしょ?」
「いやいや少女よ、この世界には危険な人間が沢山いる。大抵そういった人間は夜に行動するんだ。危ないから家に帰った方がいいぞ」
「危険な人間っておじさんみたいな人?」
「俺は今の世の中では珍しいぐらいの安全な人間だ。警察から声をかけられた事はないし就活で企業が声を掛けられたこともない。とにかく危ないから家に帰りなさい」
「嫌だ」
「そうか・・・嫌なのか」
青年は無気力な目で彼女を見た
小学校三年生ぐらいの見た目の少女、背中まである長い髪を後ろで縛っている
ポニーテールとかいう髪型なのだろう
母親のものと思われるブカブカの分厚いコートを着ていて、恐らくそれはブランド物なのだろう、そのコートからはなんとなく高級感が漂っていた
「おじさんは何でそんな死んだ魚みたいな目をしているの?」
少女が隣のブランコに腰掛けながら尋ねてきた
「社会に出荷される直前だからだよ」
「ふーん、そうなんだ」
青年の趣味の悪いブラックジョークに興味なさそうに彼女が相槌を打った
少女はブランコを漕ぎ始めた
「君は何で家に居場所がないんだい?」
「君じゃないよっ!まひろだよっ!」
「あぁゴメンゴメン。ちなみに俺の名前は「お母さんが再婚して新しいお父さんと新しい弟が来たから私の居場所はないの」そうなんだ・・・」
「お母さんはマヒロに優しくないの?」
「お母さんは優しいよ、たまに凄く怖いけどいつもは優しい。でも、仕事が忙しくて全然会えないの。だからいつも新しいお父さんと弟でお留守番することになるの。でもなんだか新しいお父さんといるとお家がお家じゃないみたい。新しいお父さんは優しいけどよそよそしい」
「そうなんだ・・・ちなみに俺の名前は「あっ新しいお父さんから電話が来たっ」心配してるだろうから早く電話に出なよ」
「うん・・・」
少女は甲高い木管の音楽が流れる携帯を操作し耳に当てて会話し始めた
青年は少女が電話している間また公園の暗闇を見つめていた
「もう遅いから早く帰って来いだってさ」
「お父さんの言う通りだ。早く帰った方が良い」
「おじさんは?」
「君が帰ったらすぐに俺も帰るよ」
「じゃあ今日はもう帰るね」
「気をつけて帰るんだぞ」
「うん」
そう答えると少女はゆっくりと帰っていった
少女の姿が見えなくなるまで見送ると青年はブランコから立ち上がった
ほぼ毎日の日課となっている少女との夜の密会
初めは偶然深夜に公園で会った少女が危ない目に合わないように家に帰るように注意していただけだったが何度も会う内にいつのまにか会話をするようになり、それが日課となっていった
もしかしたら、無気力な青年の生活においてそれは一種の生きがいなのかもしれない
こうして青年は今日も少女を帰路に着かせたのだった
青年の名前はいつになったら明らかになるんですかね?