第770話「確認とすり合わせは済んだ。いよいよ作戦の発動だぞ」
しばし歩いて……リオネルとナタリーは、
蠅団のアジト――本部に到着した。
本部の出入り口近辺には、いつものように、
いかつい強面の荒くれ者達が10人ほど、
門番役として肩をいからせ、通せんぼをするが如く、立ちはだかっている。
手をつないだ、リオネルとナタリーへ、鋭い視線を投げ掛けて来た。
当然ながら、緊張し、恐怖を覚え、
手を握ったまま、リオネルにしがみつくナタリー。
だが、リオネルは全く動じず、笑顔。
荒くれ者達へ、ナタリーとつないでは、いない、空いた手を大きく振る。
すると、荒くれ者達10人は、ばらばらっと整列し、直立不動でびしっ!と敬礼。
何と! 強面が一変、思い切り笑顔となった。
そして元気良く、声を張り上げる。
「「「「「ボス! おはようございます!」」」」」
「「「「「お疲れ様でございます!」」」」
対して、リオネルも笑顔で応える。
「おう、おはようさん! 皆、お疲れ! そうだ、まずは彼女に謝罪しろ。散々、不快な思いをさせたのだからな」
リオネルが、言うと、荒くれ者達10人は、一斉に整列し、直立不動。
深く深く頭を下げ、
「「「「「申し訳ございませんでした!」」」」」
と、これまた一斉に唱和。
荒くれ男達の謝罪に、気圧されるナタリーを見て、リオネルは微笑む。
「おい、マチアスは居るな?」
「はい! 代行なら奥でお待ちになっております!」
「よし! 俺と彼女は、ここを通るぞ! 中へ入る!」
「はい! どうぞ! お通りくださいませ! 遠慮なくお入りくださいませ!」
会話の間、リオネルに、ずっとしがみついていたナタリーは、
びっくりし、呆然の連続である。
そう! 確かに話には聞いていた。
だが、ナタリーにしつこくつきまとい、凄く脅してもいた荒くれ者どもが、
抵抗の気配など全く皆無。
リオネルに大人しく従い、加えて見事に統制が取れているのを、
実際に目の当たりにすれば、大きな衝撃を受けるのも無理はない。
そんなナタリーを見つめ、リオネルは念話でささやく。
当然、ふたりは手を握り、寄り添ったままである。
『ナタリーさん、打合せ通り、ここからは念話で会話しますよ』
『は、はい! わ、分かりました!』
『まず、ご覧の通り、蠅団の奴らは、俺には絶対服従です。99%ありえませんが、万が一の場合、即、魔法で行動不能にしますから、ご安心を』
『あ、ありがとうございます』
『では、先へ進みます。一番奥の部屋に、元ボスのマチアスが居ますから、これから会って、指示を出しますね』
『分かりました!』
という事で、リオネルとナタリーは、そのまま進み……
途中、遭遇するいかつい団員達からは、
「ボス! おはようございます!」
「お疲れ様でございます!」
と、笑顔であいさつ&声を掛けられつつ、一番奥のボス部屋へ。
『マチアスに、出入り口まで迎えに来させないのは、傍から見たら、あくまでも俺達が脅され、ふたりだけで、このアジトへ来たという体裁にする為です。』
『な、成る程』
『ガエルは、今回の件に関し、足が付かないよう、この蠅団に丸投げの感があります。またデスタン伯爵家の使用人を使うなど、自分で下手に動けば、ローランド侯爵様と交わした誓約書に違反する事となります。なので俺達に対して、違う監視の目は無いとは思いますが、念には念を入れます』
『わ、分かりました』
という会話の後、リオネルはノックをし、扉越しに肉声を発する。
「おい、おはよう! マチアス! リオネル・ロートレックだ!」
すると、「おお、ボス! おはようございます! はいっ! ただいま!」
とすぐ返事があり、閉じられていた扉が「がちゃっ」と開いた。
扉を開け、立っていたのは、リオネルがボス代行に指名した、
元ボスのマチアス・バタイユである。
リオネルはそのまま、話を続ける。
「おう、マチアス。早速だが、昨日、相談した事を実行しに来たぞ」
「了解です! 俺達の方は昨日中に準備をしておりますから、いつでも実行OKです!」
「うむ、良い返事と対応だ。とりあえず中へ入れてくれ。すぐ打合せをしよう」
「イエッサー! ボス!」
はっきり言ってツーと言えば、カー。
打てば響くという感じ。
まるで、気心の知れたボスと配下のような会話。
リオネルと手をつなぎ、しがみついたままのナタリーは、
やはり、ず~っと、驚きが止まらなかったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
蠅団の『元』ボスだけあって、数多の団員の中でも、
筋骨隆々、ガタイの良さでは抜きんでた存在のマチアス。
当然、パワー、そして強さもトップであっただろう。
超が付く強面さもあって、誰もがマチアスに怯えていたに違いない。
そんなマチアスが……他の団員達同様、リオネルの前では借りてきた猫。
加えて、礼儀正しい。
本当にこの人が、ガエルの命令で、散々私に嫌がらせをし、
挙句の果てにさらって、無理やり愛人にする実行犯だった人!!??
半信半疑のそんな思いで、部屋へ入るよう、
そしてリオネルと共に応接のソファーを勧められ、恐る恐る座ったナタリー。
すると! 突如、マチアスが、かがんで膝をつき、何と! 土下座!!
頭を下げ、額を床へすりつけ、「ナタリー様!! 申し訳ございません!!」
と声を張り上げた。
マチアスのいきなりの土下座謝罪に、「え!? え!? え!?」
とナタリーはまたも驚き、戸惑う。
「私達は、ガエルの提示した大金に、つい目がくらみました! こんな安い土下座で済むものではありませんが! まずは謝罪をさせて頂ければと!」
顔を伏せたまま、マチアスは言った。
対して、ナタリーは、「あわあわ」と頷く。
まさか、この、いかついボスが土下座謝罪をするとは思っていなかったのだ。
「わ、分かりました。とりあえず座ってください。リオネルさんと打合せをするのですよね?」
「は、はいっ!」
ここでリオネルがひと言。
「……マチアス、ナタリーさんがそう言っている。いいかげん座ると良い。謝罪と賠償は改めてだ」
「はい! ボス! 仰せの通りに!」
という事で、マチアスは飛び上がるように、ぱっと立ち上がり、
改めて、深くナタリーへ一礼した後、ゆっくりとソファへ座った。
対面にマチアスが座ったのを見て、リオネルは柔らかく微笑む。
「よし! では、早速だが、昨日話した段取りを確認の為、再度話すぞ」
リオネルの切り出しで、ガエルをおびき出す作戦の『打合せ』が始まった。
昨夜、ナタリーも作戦の概要を聞いていたので、打合せはスムーズに行われる。
リオネルの立てた作戦は、こうだ。
まず、交わした契約書に従い、蠅団は、
ターゲットたるナタリーをこのアジト、本部まで連れて来た。
……これは大ウソ。
実際には、リオネルがナタリーを安全に連れて来た。
次に、マチアスから、ガエルへ報告する。
暴行するまでも無く、脅迫だけで恐怖におののき、ナタリーは観念しそうである。
……これも大ウソ。
今や、暴行どころか、脅迫もナッシング。
そもそも! ナタリーは、ガエルの愛人になる気など、更々ない。
ガエル本人が『説得』して欲しい。
マチアスの見立てだと、もうひと押し。
優しく言い、大金をちらつかせれば、もうナタリーは落ちて、思いのまま。
……これも大ウソ。
油断させ、ガエルの言質を取る為の誘導策。
そして連絡方法は、マチアスが提案し、
ガエルに了解して貰った方法を取る。
さすがに、由緒正しき王国貴族のデスタン伯爵家が、
直接、愚連隊の蠅団と連絡を取り合うわけにはいかない。
で、あればどうするのか?
そう! ナタリー連行と状況の旨を記載した手紙、つまり緊急連絡書を、
ダミーである、蠅団経営の店から、
『取り寄せ希望の商品が届きました』と暗号の手紙で報せる。
更には、デスタン伯爵邸のガエルへ届け、
ガエルにこのアジト――本部まで来て貰う。
念願、待望の『取り寄せ商品』が届いたと知ったら、
ガエルは何を置いても、喜び勇んで来るに違いないから。
そして、マチアスからおだてられたガエルは、ホイホイと来て、
ナタリーと対面し、話すだろう。
「大金を出すから、俺様の女になれと」
しかし、リオネルの指示で、「絶対に嫌です」とナタリーは断る。
すると、「おい! 話が違うぞ!」と、
焦れたガエルは、こう言う可能性が高い。
「ナタリー、お前が言う事を聞かなかったら、俺様がここに居る蠅団の奴らに命じ、痛い目に合わせるぞ!」等々。
他にもいろいろ言うかもしれない。
ただ、これらが決定的なダメ押しの証拠となる。
こうして……ガエル、マチアス双方のサイン入り契約書、マチアスの自白音声、
そしてガエルの証拠音声があり……
約束を反故にされた激オコ状態の、侯爵ローランドの多大な口添えがあれば……
ソヴァール王国はさすがに、そのままにはしないだろう。
ガエル本人は勿論であるが、父親のデスタン伯爵も無事では済まない。
以上がリオネルの想定したシミュレーション。
しかし……所詮、予定は未定。
いくら万全に想定していても、いきなりの不確定要素が発生する場合も多々ある。
そう! 何が起こるか分からない。
当たり前の事であり、リアルな現実ではあるが、
旅をして来たリオネルが、悟った真理のひとつである。
だから、リオネルは『臨機応変』『もしも』という言葉に拘り、
上手く事が運ばない場合のケースも、数多考えていた。
例えば、ガエルがマチアスなど知らないと否定する場合。
マチアスとの契約書、自白等の証拠品を捏造だとして、
徹底的に言い逃れする場合、
またガエルが王国貴族の権力を武器にして、
平民たるリオネルとナタリーを潰そうとする場合、
確率はとても低いが、『罠』だと見破り、
ガエルがこのアジトへ来ない場合、などなど。
ちなみに、上記の場合、全てに対策を立ててあった。
その対策が、これまた上手く行くとも限らないが、
事前に取る方法が分かっていれば、その場で冷静に考え、対処する事は出来る。
「マチアス」
「はい、ボス!」
「確認とすり合わせは済んだ。いよいよ作戦の発動だぞ。先ほど話した通り、お前自ら、店に行き、デスタン伯爵家への連絡を指示するのだ。店への指示が済んだら、すぐにお前はこの本部へ戻り、俺達と共にガエルを待つ!」
「イエッサー! ボス!」
という事で、マチアスは身支度を整え、
急ぎ、ダミーとなる店へ向かったのである。
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最後に、
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