第768話「はい! ご安心ください。俺がナタリーさんと一緒に、ガエルと対峙します。何があっても盾となり、絶対にナタリーさんを守ります」
冒険者ギルドから、退勤したナタリーをピックアップ。
彼女を護衛し、アンセルムの宿へ帰還したリオネル一行。
帰還の道中、先頭をリオネル、次にナタリーを真ん中にして、
手をつないだヒルデガルドとミリアン。
最後方にブライムという、
いつもの『必勝フォーメーション』も、すっかり板についた。
お約束通り、美女3人に、まとわりつくナンパ男どもを華麗に排除かつスルーし、
尾行者も居ない事を確認の上、無事に宿へ戻ったのである。
「戻ったら、大事な話を伝える」と言われたので、ナタリーはとても上機嫌。
良い話、悪い話の両方とは伝えたが……
信頼するリオネルならば、悪い話の場合は、はっきりと言う。
このような言い方ならば、酷い話をしない、とナタリーは、感じていたのだ。
そんなこんなで、帰還した宿ではアンセルムが夕飯の支度を既に完了し、
スタンバイしていた。
先述したが、ナタリーをかくまって以降、新規宿泊客は受け入れていないので、
リオネル達以外、第三者は居ない。
相変わらず表には休業中の札を出し、出入り口をしっかりと閉じて施錠。
という事で、早速『身内』だけの夕食へ。
念の為、周囲に、不審な第三者が居ないか、改めて索敵で確認。
その上で、夕食開始後、リオネルは開口一番。
「早速ですが、先に告げた通り、ナタリーさんへ大事なお話があります」
と切り出し、
「ヒルデガルドさん達3人へは事の成り行き上、経緯と状況は既に伝えましたが、アンセルムさんも一緒に聞いて貰えますか。まずは良い話です」
まずは『良い話』と聞かされ、リオネルの話を待っていたナタリー。
朗報か!と、すがるような眼差しで、懇願する。
「リオネルさん! お、お願いしますっ!」
「おお、良い話ってか? ぜひ聞こうじゃねえか、リオ」
「はい、じゃあ単刀直入に言います。ナタリーさんに、散々、しつっこく、つきまとっていた王都の愚連隊『蠅団』ですが、先ほど俺が単身アジトに乗り込み、ボス以下約400人超の団員を制圧しました」
対してナタリーは絶句、驚愕の表情。
彼女の、いつもの魅惑的な声が、驚きのあまり、完全に裏返ってしまう。
「えええええ!!!??? リ、リオネルさんがひとりだけでええ!!?? 愚連隊の本部へええ!!??」
一方、滅多な事では驚かないアンセルムもさすがにびっくりして、目を真ん丸。
規格外レベルで強い!という、リオネルの噂は聞いていたが、
このようなリアルな現実を直接本人から聞くと、誰もが驚くのである。
「はああ!!?? 制圧うう!!?? リオがたったひとりで、愚連隊400人をぶっ飛ばしたのかあ!!??」
それらを、「当然だ」と無言で見守り、微笑むヒルデガルドとミリアン。
対して、リオネルは、しれっと。
「はあ、ぶっ飛ばすと言うより、メンタルにダメージを与える魔法を使い、脅して、肉体的には無傷で制圧。ボス以下全員、俺の言う事を聞かせるようにしました」
そして、更に話を続ける。
「なので、奴らを全員改心させ、罪を償わせつつ、真人間になるよう努力させます。よって、蠅団はもうガエルの命令及び指示は受けません。今後はナタリーさんにつきまとったり、脅したりする事はありません」
立て板に水の如く、一気にかつ淡々と語るリオネルだが、
ナタリーの驚愕はまだ続いている。
「え!? ほ、本当ですか!!??」
と言い、ハッとしたナタリー。
「い、今更ですが! リ、リオネルさんは、だ、大丈夫なのですか? お怪我はありませんか!!」
自分の為に……
数多の凶暴な荒くれ者で構成された、愚連隊が巣食う危険なアジトへ、
リオネルは単身、飛び込んだのだ!!
普通に考えれば、無事で済むはずが無い。
しかしリオネルは、心配そうな表情のナタリーを見つめ、柔らかく微笑む。
「はい、ナタリーさん、本当ですし、ご心配は無用です。この通り、俺はかすり傷ひとつ無く、全然大丈夫ですよ。という事で、繰り返しますが、とりあえず、蠅団による、つきまといと脅迫は無くなりました。奴らに約束させましたから」
蠅団による、つきまといと脅迫は無くなった!
と改めて聞いたナタリーは驚きつつ、喜びが一気に込み上げる。
「も、もうですか!! あ、ありがとうございます!! こ、こんなにも早く!! わ、私の為に!!」
「はい、幸い、立てた作戦が、ここまではスムーズにかつ万事上手く行きました。奴らの脅迫とつきまといに、とても困っていたナタリーさんの為ですし、これくらい、どうという事はありません」
「リオネルさん……」
「そして、蠅団のボス、マチアスを尋問したら、やはり黒幕がデスタン伯爵の三男ガエルである事が判明しました」
今回の黒幕が、ガエルだと聞き、ナタリーは納得の表情。
ようやく気持ちも落ち着いてきたようだ。
「そうですか! やっぱり! ガエルの差し金だったのですね……」
「はい、更にマチアスを尋問したら、今回の件で、ガエルとボスの間で取り交わした双方のサイン入り契約書がある事も判明し、その契約書を押収しました。なので、有効な証拠として使えると思います。ちなみにマチアスの自白、約束、誓い等も、映像と音声で記録してあります」
「おお、さすがだ! 万事が万事、抜かりがねえ! やっぱりすげえな、リオは!」
「いえいえ、それより貴族のガエルを糾弾し、逃げられないよう、がっつり処罰する為には、事前の根回し、それと合わせ技で、もうひと押し、決定的な証拠があれば、完璧です」
「事前の根回し? 決定的な証拠、ですか?」
と、ナタリーが尋ねると、リオネルは笑顔。
「はい、根回しは俺がやっておきますので、大丈夫。そして、この流れで明日、ガエルをおびき出し、罠にかけます。ナタリーさんには少し協力して貰いますね」
「成る程! それで私に休暇を取らせたのですね。私はリオネルさんを信じていますから、何でもおっしゃってください」
「ああ、リオに良い考えがあるんだろうよ」
「という事で、ここからが本番です。油断せずに行きましょう。アンセルムさんが作ってくれた折角の夕食ですから、冷めないうちに食べ、以降の相談は夕食後にやりましょうね」
笑顔のリオネルはここで話を一旦打ち切り、改めて夕食の開始を促したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
雑談で盛り上がった夕食後……後片付けを手伝ったリオネルは話を再開。
ナタリーを、リオネルの正面にし、
その周囲では、ヒルデガルド達4人が話を聞く態勢である。
事前の根回しとは、ワレバッドに居る、ナタリーの身内たる、
ブレーズ・シャリエ騎士爵経由で……
ガエルの指示であろうと思われる、
愚連隊蠅団のナタリー付きまとい&脅迫の件を、
冒険者ギルド総マスターでもある、
ローランド・コルドウェル侯爵へ既に上げている事。
改めて今回の件もブレーズヘ報告し、ローランドの力を借り、
伯爵の子息であるガエルを糾弾し、処罰しても、
問題が生じないようにしておく事だと告げた。
自分が相談してあまり時間が経っていない。
それなのに、ここまで段取りを組み、実行するとは!
とナタリーは驚き、尋ねる。
「え!? リオネルさんは、既にブレーズ様とお話ししたのですか?」
「はい、少し前に魔法でいろいろと話しました。ナタリーさんの事をとてもご心配されていましたよ」
「ま、魔法で!? そ、そうですか。ありがとうございます……」
しれっと、魔法で話したと言われ、ナタリーはまたも驚きつつ、
納得して、素直に礼を告げた。
しかし、リオネルはまるでダメ押しのように言う。
「で、今お話しした事を、今夜、ブレーズ様へも話しておきますよ」
「えええ!? こ、今夜!!??」
「はい、魔法で」
「やはり魔法で、ですか」
「ええ、ブレーズ様からは何かあれば、すぐ連絡かつ報告するように言われていますし、前回の事件の経緯もある事から、ローランド様もすぐにご協力してくださるでしょう。全然問題ありませんよ」
しれっと、そしてきっぱり言い切る、リオネル。
完全に安心したナタリーはもう、素直に礼を言い続けるしかない。
「重ね重ねありがとうございます! 心の底から感謝致します!」
「いえいえ、そして遂に今回のクロージングです。ガエルをおびき出して、罠にかけるのです。これはクロージングの為には必ず遂行しなければならない作戦ですが、ある意味、悪い話だとも言えます」
リオネルは説明し、そう切り出した。
安心していたナタリーは「悪い話」と聞き、一転、少し緊張気味である。
ひと呼吸置き、リオネルは説明を開始した。
実は……と、
ガエルが密かにたくらんでいた、ナタリーを蠅団のアジトへ連れ込んで、
脅迫、暴行、買収を使った『強制的な愛人計画』をオープン、
そしてリオネルの立てた『わな作戦』も説明を行った。
対して、ナタリーが少し震えているのが、誰にでも分かった。
「な、成る程……そんな怖ろしい計画をガエルが……そ、そして、わ、私は……ふ、再び、そのガエルと、直接対峙するのですね?」
「ええ、つきまとう蠅団を制圧し、折角落ち着いたのに、ナタリーさんに再度怖い思いをさせてしまうから、誠に申し訳ないのですが」
と詫びたリオネルは更に、
「しかし、この罠ならば、ほぼ99%、ガエルは言い逃れが不可能なシチュエーションで、言い逃れが不可能な物言いをすると思います。だから、今回の問題解決の為の、決定的な証拠になると確信します」
「た、確かに! そういう場所でそういう事を言うのであれば、ガエルは絶対に言い逃れが出来ませんね」
「です!」
「……確かに少し怖いですけれど……リオネルさんが一緒で、傍に居てくれるのですよね?」
「はい! ご安心ください。俺がナタリーさんと一緒に、ガエルと対峙します。何があっても盾となり、絶対にナタリーさんを守ります」
またも、ナタリーを真っすぐに見つめ、きっぱりとリオネルが言い切った瞬間。
同じくリオネルをじっと見つめ返すナタリーの心に大きな変化が生じて来る。
数百人の荒くれ者どもに四六時中つきまとわれ、ひどく脅され……
どうしようもない絶望感に陥っていた中……
この人は私を救おうとしている!
否! 既に救いつつある!
今日も奴らのアジトへ、単身乗り込んで!
奴らを倒し、つきまとわないようにしてくれた!!
私の為に!! この私の為に!!
もう脅される事は無い!!
平穏な日々が、ようやく戻って来る!!
凄く嬉しい!! 何と頼もしい!! そして、私はこの人を……
様々な感情が、激しく激しく湧き起こり、
思いっきり感極まった、ナタリーの目には涙がいっぱいにあふれ、
「本当に!! 本当に、ありがとうございます!!」
と叫ぶように、声を張り上げ、更には号泣してていたのである。
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最後に、
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